5の2
アルバエナワラ エベルム?
そんな奴聞いた事もない。
──ああ、アンタには会ってないから当然だ。巫女式神の姿を借りて越久夜町にはいたけどな。
(巫女式神、なるほど。全くの無関係ではないのね)
──山の女神を呼べ。深淵のヌシに食われる前に。
(?)
「…。ルシャ・アヴァダーナの所へ行くのでしょ。早く連れていきなさいよ」
──正気かお前。
「潔いな」
「ええ」
企みも何も無い。元より荒れ野の暴食魔神には利口さはない。食うか食われるかならば、こちらが捕食者になればいいのだ。
「正々堂々戦ってやる」
──ハァ〜、頭すっからかんなのかよ。コイツ。
御堂まで再び案内され、ルシャと対面する。彼女から余裕さは失せてはいるが、こちらを一瞥すると軽薄な笑みを浮かべた。
「最期まで理解できなかったわね。貴方の事」
「他人だから当たり前でしょ」
「でも一つだけ分かる。人外らしく、殺し合いするのが貴方とは分かり合えるって」
「私は捕食者よ。今までそうしてきた」
豪華絢爛な装束を剥ぎ取り、ルシャは軽装になる。「では、始めましょう」
山伏式神は早速、建物内に蟠る闇に手を出す。我が物にし、増殖させた。視界を遮る。
それが山伏式神の武器であった。
犬一郎の手記に書かれていた。──欠点は目をつぶると力を発揮できない。
"見る"は自分のもの(視界の内側に限る)に取り込む。
「がァ!」
牙を剥いて、ルシャの喉に噛み付いた。奇妙な血が飛び散りこちらにも降りかかる。
「あはは!引っかかった!私は血でできてるの」
「あっそ」
こちらを認識するためにわざと無防備になったのか。
山伏式神は体を闇に変え、離れる。お堂の上層に着地し、姿を現した。「いて!」
栗毛色の髪を引っ張られ、背中に激痛が走る。
「瞬間移動はこっちだってできるんだから」




