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ミイラはかなり欠損し、月日も経っている。一部白骨化さえしていた。
人間とは腐る生き物だ。
不自然な状態ではあるが、彼らの考えている事は分からない。仕方ないので進むしかあるまい。
村に近づいていくと意外にも発展していたのだと驚いた。大きなコンクリートの建物が何軒か立ち並び、旅館と書かれている。
小さな村にしては珍しい。山伏式神は自らの町と比べつつ、歩いていく。
その頃には道も整備され、路肩には車も停められていた。
つい最近まで人が使っている形跡さえある。工事車両や、パイロンなどが散乱していた。
立ち並んでいる旅館はなんと温泉旅館らしく、お土産屋や小さな料理店まである。錆び付いたアーケードを見て、「日仏温泉郷、ね…」と意味を理解しようとした。
「肝心の温泉ってモノがなさそうなんだけど…」
温泉なるものを旅人らが野宿しながら話していたのを思い出す。普通の川水ではなく、温かいという。傷を癒し、病すら治す。そんな嘘みたいな話があるのだと。
「池からは湯気が立ってないし…」
霧が薄くなってはいるが、冷たい空気が漂っている。
「とりあえず…帰りたいわね…」
来た道が分からない以上、引き返すのは危険だった。現地の話がわかる魔に教えてもらいたい所だ。
「ん、誰?!」
アスファルトを削る爪の音。山伏式神は警戒しながらそちらをみた。
「お客さま」
「は?!」
巨大な獣かと思いきや、人の上半身が接合されていた。
「えっ!」
半人半獣。あまり見た事のない人ならざる者だった。
「私はリス。この世界の支配者、ルシャ様の眷属でございます」
「リス?変わった名前ね」
体が四つ足の哺乳類である男は礼儀正しく挨拶をした。
「名など意味の無い事。あなたならお分かりでしょう」
「ええ」
「ルシャ様がお会いしたがっています。こちらへ」
ゆうゆうと歩き、彼は先へ行ってしまった。
「ちょっと、ルシャってだれ?最高神?」
「いいえ。この土地を治めている姫君です」
「に、人間?」
人間が、人ならざる者を総ているなど信じられない。
「…まあ、詳しい事は後で」
山伏式神はふと大きめな建物から強い視線を感じた。窓から覗く暗い室内から獣に近い、こちらを捕食しようと言う視線。
「気になりますか?」
半人半獣から問われ、頷いた。
「村民たちに住まいが与えられておりまして」
「人間どもがいるの?」
「はい」
あれは人間の視線ではなかった。
「他の家に住めばいいじゃない」
「いかんせん人口が増えてしまったので、ははは」
しかし村を歩いている人は見当たらず、不思議な静寂が支配していた。
「栄えてるようには見えない…」
「そうですか?私には良い村に見えますけどね」
楽しそうに彼は言う。
「そ、そう」
湖から少し離れ、おだやかに坂になった──観光スポットから離れた、民家がまばらな箇所に来た。
その先に、古ぼけた楼閣がある。
「あの建物にルシャ様がお待ちしていますから」
「ええ。たいそうな姫君ね。あんな派手な建物に住むなんて」
楼閣は4階建てくらいで、色は褪せているものの極彩色で塗られていたのだろう。端獣や吉祥の象徴はなく、魑魅魍魎に見えるゴテゴテな何かが施されていた。
(人間でいうと、悪趣味ってヤツかしら)
「村民たちがこぞって飾り付けた自慢の堂ですよ」
「そ、そう」
何とも言えず近づくと新鮮ではなく、かなり腐敗した血液の臭いがした。自らが魔物とは言えどあまり良い気持ちにはならない。腐肉はある程度美味いが、それ以上はただの腐物になる。
山伏式神は眉をひそめてどういう事だと、リスをみた。
「ああ、ルシャ様に捧げられた供物の匂いでございます」