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「馬鹿げてるわね!自己犠牲とか慢心でしかないじゃないのぉ!」
手記を投げつけそうになるも、思いとどまる。
(確か、童子式神に似た奴に勾玉を見つけろとか言われた…そっちも遂行しないと私、どちみち死ぬってコト?)
夢か現か。入り乱れた記憶に困惑する。異界にとって幻想も現実もない。あるのは果てのない、切り取られた世界だけだ。
童子式神に似た奴が探す、陽を司る勾玉。そんな物、どう見分けろと?
(う〜ん。勾玉は勾玉よ。全部同じ形してるし…)
この村にはあの奇抜な祭祀場の他に神社や寺院はないのだろうか?
もしかしたら神器として祀られている可能性がある。
視界に入る景色を眺めるも小さな祠すらない。まさに一神教の村である。
山伏式神の故郷である越久夜町は日本ではごく普通の多神教である。八百万の神がいるとされるように、悪神も女神も異教の神──蕃神や善なる存在、はたまた邪悪なる者もいた。
それが普通かも知れぬと、山伏式神は生まれた時から信じきっていた。
ただ『世の中は広い』。白銀の獣を食べ、変な知識を得てしてこの村に来てからかなり価値観は変わった、かもしれない。
ただこの地は日本列島だ。名残はあるに違いない。
(そうね。あるかもしれない。念入りに探してみないと…)
手記を一旦しまい。木を乗り移りながら村を見渡せる場所がないか探る。
(犬一郎とかいう人間、まだ生きてるのかしら?)
人美があの自殺体ならば彼はどこかで籠城しているのか。
(死んでいるのならそれまでね)
死んだら人も人ならざる者も口は聞けなくなる。二度と会えなくなる。
(童子式神は、会えたから死ななかった…変なの。まるで贔屓されてるみたい)
不思議と終わりも始まりもない、不気味な感覚に陥った。




