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「その手には騙されないわよ!」

 何やら訴える厄介な人ならざる者を無視し、突き進むと先方から数多の足音がした。気配からは生命力はなく、生ける屍となった村民どもがこちらへぞろぞろと向かってくる。

 あの不快感をもよおす腐敗臭が一気に押し寄せて、山伏式神は嘔吐く。

「オエッ!くっさ!」

 あろう事か、先頭にいるゾンビらの手にはツルハシや鈍器が握られていた。

「そんなのあり?!」

 ゾンビは知能もなく、ただ両手を突き出して彷徨うだけの雑魚ではないのか?

(──ゾンビ映画なんて見た事ないけどっ!)

「いいじゃない!こちとら暴食魔神と言われた人喰い魔よ!かかって来なさい!」

 やけくそになりつつも、自らを構成する闇で固めた触手を刃物に似せて、接近する屍どもの首を掻っ切る。腐り果てた謎の液体を撒き散らし、バタバタと倒れるが──次々と迫りくる。

 キリがないのに気づくには遅すぎた。

「チッ!囲まれる前に退散するしかないわね!ムヅミ!案内しなさい!」

 いきなり抜擢されたムヅミが慌てふためく。「早く!」

 頼りなさげにコッチだと少女が走り出す。そうこうしている内に背後から斧が迫りくるのをいち早く察知し、山伏式神は触手でガードした。

 劣化した刃先が飛び散り、わずかに傷を負う。

 幸いに奴らの動作は遅い。斧を持ったゾンビの頭に飛び乗り、木の幹へ移動する。猿のように身軽に、木々を乗り換えながらもムヅミの後を追いかけた。

 異なる世界にいる彼女は、屍たちに感知されていないようで、いとも簡単に人混みから抜け出した。

 温泉街や民家が建ち並ぶ集落地帯から少し外れた場所に、比較的新しい小屋がある。倉庫か何かだろうか。ムヅミは周囲を気にしながらもスウッと中へ入っていった。

「また死体があるんじゃないでしょうね…」

 嫌な予感をふくらませながら、山伏式神はドアを開けた。

「た、助けてくれ!」

 そこには縄に拘束され、捕らえられていた人間らが数人、怯えながらもこちらを見ていたのだった。

 暴行されたのか顔や皮膚が傷だらけであり、衣服も薄汚れている。

「貴方たち、私が見えるの?」

「あ、ああ!良く分からないが…なあ、ここは何なんだ?!」

 皆、作業着であり土木工事の関係者なようだ。入口付近に止められていた重機の持ち主らであろう。

「日仏村よ」

「そ、それは分かってる!俺たちはただ非乃手山(ひのでやま)周辺の整備をしに来ただけで…なのに、ゾンビが、バケモンがいるんだ…!」

「ええ、ここは貴方たちの言うバケモンの住処だからよ」

「仲間が一人、バケモンに連れてかれて…帰って来ない」

(ああ、あれはコイツらの仲間だったのね…)

 ご馳走として出された人間は会社員の一人だったのか。

「もう死んでいるわ」

「くそ…」

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