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いつか始まるはじまり

 荒れ果てた湿地帯に、獣ではない靴裏の模様が刻まれている足跡がついていた。それは山から伸びており、草やぶの生い茂った方へ消えている。

 咀嚼音がして、子供が人間を食べていた。登山者だったのだろうか。厳重に装備されていた登山用品は泥だらけになり、また血にまみれていた。

 子供は内蔵を食べ、手で口を拭いた。

「あまり美味しくないわね」

 赤い目で冷酷に見下す。「久しぶりの食事なのに」

 荒れ野に人が来る事は少ない。動物も野鳥や小動物くらしか生息しない死地である。

 何百年に久しくご馳走に嬉しがっていたのか馬鹿らしくなるくらいだ。

「はぁ…それにしても」

 荒れ野はいつにも増して閑散としていた。いつだか自分に似た魔が訪れては騒がしくしていたのに。

「山伏式神、か」

 あの変わった魔はどこに行ったのだろう。いや、何かずれている気がする。

「私が知っている記憶はどこへ行ったの」

 何か。不自然さがある。気が付かなければそのまま過ごしていたであろう、違和感。

 あれからどのくらい経ったのか?

 分からない。

「何か忘れてるけどまあ、いいか」

 いきなり背後から矢が飛んできた。「何?!」

「人食い魔が!退治してやる!」

 魔法使いだ。

「ご飯がやってきたわ!」


 迫り来る矢を避けながら、宙を舞う。至近距離になればこちらの勝ちだ。

 湿地のぬかるんだ泥に着地し、魔法使いをみやる。

 魔法を施しているらしく、顔を判別できない。それでいい。人間など捕食対象でしかないのだから。

「食ってやるわ!」

 魔法使いであろうと、なかろうと食う事には変わりない。

「魔物が!」

 弓矢を捨て、刀を取り出し構えてきた。あれは退魔の魔法がかけられた凶器。山伏姿の魔は闇を操り、魔法使いの首を絞めあげた。

「ざこ」

「ぐっ、なぜ、越久夜町には低級の魔しかいないはず!」

「知らないわね。低級とか。だってこの地には私しかいないんだもの」

 人はいるのか。魔も、動物も。長い年月、見ていない。まるで世界にはこの荒れ野しか存在していないみたいだ。

「ぎ、助け…」

 人間は死んだ。「あーあ。つまらないわ」

「腹はいっぱいだし、埋めときますか」


 死体を二体、地面に埋めてからチラリと町の方を見やる。霞がかかって見えない。

「童子式神」

 口にした古い名前。彼は何をしているだろうか?

「私は、アレが楽しかったのね」

 楽しかった。なんて人ならざる者が口にするべき言葉では無い。

「楽しかったのは嘘ではないわ。あれは本物」

 流される万物の中で、まだとどまっている気持ち。

「でも人ならざる者には不要なモノね」

 だからと言ってそれを追う事はしない。本来、魔には喜怒哀楽はないのだから。

「ん」

 がサリ、と草やぶから音がした。「ごはん?!」

 目を輝かせると異変に気づく。あれは人ではない──おぞましい何か。しかし山伏姿の魔は怯まずに話しかけた。

「貴方、越久夜町からきたの?」

 気配は答えない。

「町がどうなったかしってる?」

 ガサガサと何かは踵を返して居なくなろうとしてしまった。それは嫌だった。

「待って!教えて欲しいの!町に人はいるの?童子式神は?あいつらは?」

 草やぶをかき分け必死についていく。霧が濃くなり、気がつけば見慣れない道にいた。

「な、なによこれー!?」

 人間どもが使っている国道というやつだ。だが霧が深いため、周囲は伺えない。薄らとトンネルと呼ばれている穴が見えた。

「瞬間移動した覚えはないのだけれど…」

 先程まで荒れ野──蛇崩にいたはずだが、ここは。

 この場所は。

「私、人の言葉を読めないわ…」

 トンネルの文字に困惑する。アスファルトの感触を味わいながら、歩きだす。

 トンネルの中で誰かがいる。「誰?」

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