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第三話

「え、ぁ、ちょっと待って。……ねえ、あれ、だよね? シニエラの透輝石――」


 あれから何度か戦闘を繰り返し、奥へ奥へと歩を進め、やがてミュートは発見した。

 3メートルほどの、一体のストーンゴーレムを。


 否。

 正確には、握り拳大のシニエラの透輝石を核として取り込んだ個体。

 胸元が淡いエメラルドグリーンに煌めくSストーンゴーレムではあるが。


「ああ、みたいだな。さて、じゃあ、――刻むか」


「お願い――」


 シニエラの透輝石は、その採取方法が特殊だった。

 それは、Sストーンゴーレムの核を『傷付けずに』掘り出すというもの。

 硬い鉱石ではあるが、一度傷付けてしまえば、その神性に富んだ煌めきは失われてしまう。


 もちろん、並みの冒険者達が簡単にできるような芸当ではない。

 それ故に産出量は決して多くなかった。


 今回の目的であるシニエラの透輝石を視野に捉えてゆっくりと歩き出したユリウスは、呟きながらスキルを放つ。


「《雷鳴剣》、……《雷鳴剣》、……《雷鳴剣》、……《雷鳴剣》、……《雷鳴剣》」


 一振り、また一振りと、ユリウスは歩きながら繰り返し紫電を纏う斬撃を飛ばし、Sストーンゴーレムの身体は次第に細切れとなっていく。

 まずは頭が落ち、両腕、両脚と続き、胴の中心、核だけは傷付けないように。


「……《雷鳴剣》、……《雷鳴剣》、……《雷鳴剣》、……《雷鳴剣》。……やべぇ。これ、めんどくっさ」


 核の外側を削るようにして器用に剣を振るいながら、ユリウスはぼやく。

 やがて、大まかに形を整え終わるタイミングに合わせるかのように、地面に落ちたSストーンゴーレムの残骸は、淡いエメラルドグリーンに煌めくシニエラの透輝石だけを残しさらさらと砂となり消えた。


 

「おっ……。これでいけたか」


「……よかった。ユリウス、ありがとう」


「お見事です! 流石、『迅雷』のユリウス。相変わらず手際が素晴らしい。……はて、この探索、私いりましたかね?」


 ユリウスの周りに集うミュートとマクウェル。

 これでカミラを救えるとミュートは涙を浮かべ、マクウェルは拍手喝采を送る。

 その光景を、テッドは遠巻きに眺めるしかできなかった。


「うし! じゃあ、後は……おい、テッド! さっさとその荷物降ろし(・・・)やがれ」


「…………え?」


 テッドが予想だにしなかったユリウスの発言。

 荷物を『詰めろ(・・・)』ではなく、『降ろせ(・・・)』と言う。

 単なる言い間違いだろうか。

 ――こんな言葉を投げかけられた事、今まで一度たりともなかったのだが。


 意図を汲めず、その場に固まるテッド。

 その様子を伺い、徐々にイラつきを隠せなくなるユリウス。


「おいッ! テメェ、聞いてんのか!? 早く荷物を降ろしてこっち寄越せっつってんだよッ!!」


 ユリウスは、テッドに近付くと胸ぐらを掴んで宙に釣った。


「――ッか、は」


 突然の出来事に、テッドは反応もできず、ただただ混迷する。

 何が、どうして、こうなった……?


 短い一瞬で、頭の中を無駄に思考が巡る。

 でも――


 謎。

 わからない、謎、謎、わからない、謎。

 謎、わからない、謎、謎、わからない、謎、謎、わからない、謎。

 わからない、わからない、謎、わからない、わからない、謎、謎、わからない、わからない、謎、謎、謎、わからない、わからない。

 ――理解、不能。


 考えようとしても、本能が拒絶した。


「……ちょ、ちょっと……待ってよ、ユリウス……」


 喉の奥から絞り出すように声を漏らし、テッドは尋ねる。

 一縷の望みを残して。

 だって、幼馴染みで、パーティーメンバーで、10年来の付き合いなのに、と。


 ……だが、ユリウスからの返答はなく、ただぎりぎりと首を締めあげられるだけ。


「あんた、本当に馬鹿なのね。いい加減気付きなよ。Sランクパーティーにザコはもう要らないの。ゴミ、ぽいっ、お終い。わかる?」


 冷笑を浮かべたミュートは見かねた様子で、ジェスチャーを交えながらテッドを嘲弄する。

 テッドを指差し、それを宙に放り投げ、さよならのバイバイ。


 わからない、わかりたくない――


「お荷物君。残念ですが……君とは、ここでお別れのようです。人生お疲れ様でした」


「……………………は?」


 茫然自失。

 瞠目結舌。

 思考停止。

     。

     。

     。

     。

     。

     。


「――ったく、手間取らせやがって。追放だよ、テメェは」


 ユリウスはテッドの背負うリュック型の大容量マジックバックを剥ぎ取ると、後は不要とテッドを投げ捨てる。

 そのまま元の場所へ戻ったユリウスは、シニエラの透輝石を掴むとマジックバックへと放り込んだ。


 地面に打ち捨てられたテッド。

 反応はない。


「こんなゴミが幼馴染みでパーティーメンバーだったなんて、恥部よ恥部。清々するわ」


「もし生まれ変わったら、君は身の程を知る生き方をした方がいいと思います。これ、最後のアドバイスです。礼は不要です」


「と、言うわけだ。じゃあ――」


《GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAR!!》


 突如、階層が揺らぐ錯覚に陥るほどの鳴き声が一帯に響いた。


「――な、なんなの?」


「なにか……、来やがるな!」


「私の出番が来ちゃいますか、ね?」


 断続的に続く大きな地響き。

 それは、この先の通路から。

 次第に高潮する音は、「何か」が迫り来る事実を告げている。


 身構えるミュート、高揚するユリウス、無精なるマクウェル。


 徐々に明らかになる、通路の奥から覗くその姿は――


「ド、ドラゴン――」

【筆者からのお願い】


お読みいただきありがとうございます。


「面白そう!」

「続きが気になる!」

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