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One of these days 序章  作者: そふつおにいさん
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~吹けよ風、呼べよ嵐~

2031年。日本はその国力を落とし、中国から多数の移民を受け入れることでかろうじてその文化水準を維持し続けていた。多量に流入した移民は日本国内の治安を悪化させ、やがて国内に中国人マフィアグループを形成するようになる。既存の日本ヤクザ、いわゆる暴力団は、日本国内で施行された暴力団排除条例によりその組織力を弱体化させながらも、国外から流入した各暴力組織との対立に、いまだ拮抗するだけの勢力を残していた。

日本は増税により内需の活力を失い、日本企業は他国に次々と買収されていく。日本は技術立国としての地位をとうに失っていた。そうした背景のもと生まれてきた若者たちは日本国内の産業や商業に完全に興味を失い、衰退する日本に失望していった。

失望はやがて憎悪や暴力に昇華されていく。日本に失望した若い世代はやがて犯罪やそれに準じた行為を平然と行って糊口をしのぐようになる。かつては半グレと呼ばれていた勢力たちが、現在ではその層の厚みを増し、集団の知性は強化され、やがて官憲の手をはねのけるほどに強くなっていこうとしていた。そういった若者たちを「大人」はこう呼んだ。


大嵐たいらん



2031年4月12日。週末の歌舞伎町に爆音と悲鳴が響き渡った。歌舞伎町の一角のビル。その一階で大きな爆発が起き、中にいた人間と近くを通行していた一般の歩行者がその爆発に巻き込まれた。歌舞伎町を牛耳るヤクザ極東会と中国マフィア新洪幇との抗争が開始されたのである。

極東会の組事務所にハイエースが突っ込み、アサルトライフルとエグゾスケルトンで武装した新洪幇の構成員が突撃する。急な襲撃を受け正面ゲートの突破を許した極東会であったが、すぐに重パワードスーツの組員が迎撃に乗り出し、エグゾスケルトンで武装した中華マフィアから拠点を防衛していた。

重パワードスーツは本来道路工事や建設現場などで用いられる重機である。ヤクザはそれを違法に改造し、人間の動きをトレースするタイプの重機型兵器として活用していた。これらは出力などが違法に高められていることはもとより、こういったマフィア組織同士の抗争で用いられる場合は対爆、防弾などの処理が施された外装が付属しており、人の手と同じ動きができるマニュピレーターで大型の銃などを保持できるほか、人間の関節の可動域から逆算された範囲で自由に格闘攻撃できるようフィードバック機能とプログラミングが施されていた。

極東会の構成員で29歳の杉内は、部下の安岡とともに2階に続く階段の踊り場でエレベーターシャフトから上階に侵入しようと試みる中華マフィアの兵隊と真正面から撃ち合っていた。

重パワードスーツであれば対人のアサルトライフルやグレネードランチャーに対しては十分な防御性能が期待できる上、安岡が持っている特殊鋼のシールドを駆使すれば近隣事務所からの応援が来るまでは十分な時間防衛に徹することができるだけの防御性能を発揮できるはずだった。

「おいヤス!チャンコロどもに何人殺られた!」

「杉内の兄い!受付付近は全滅ですぜ!グレネードランチャーを数発ブチ込まれてます!」

「百人町から重パワードスーツ組が応援に来るまでの辛抱だ!上の奴らにセントリーガンを設置させてっからよ!防衛体制が整ったら2階エレベーターホールまで退くぞ!階段はセントリーガンに任せて俺らはシャフトに入ったゴキブリを潰せばいい!」

「兄い!俺のチェーンガンはもうすぐ弾切れでさァ!」

「緊急時用のスモークグレネード!いつでも撃てるようにしとけ!お前が弾切れになってもまだこっちのアンチマテリアルライフルでなんぼかいける!」

中華マフィアとヤクザとの一進一退の攻防が続くかに思われたその直後、中華マフィアの攻勢が突如として止まった。

「罗刹來!!」

次の瞬間、その声の主は断末魔の悲鳴を発した。

中華マフィアが何者かにより背後から急襲を受けていることは確かだった。だがエグゾスケルトンとアサルトライフルで武装した集団に被害を与えているのは、応援に駆け付けた極東会百人町支部の勢力ではなかった。一人、また一人と何者かによって殺されていく中華マフィアの構成員たち。

杉内と安岡はそれを視認してはいたものの、襲撃者のはっきりとした姿を捉えるまでには至らなかった。

『杉内さん!セントリーガン設置!完了しました!2階まで下がってください!』

杉内の重パワードスーツに部下の吉田からの無線が飛ぶ。

「ヤス!退くぞ!」

「へい!」

二人は可能な限りの速度で階段を後ろ向きに登っていく。

2階の階段付近には4台のセントリーガンが配置され、味方の識別信号がない動体に向かって容赦なく発砲が行われる体制が構築されている。

杉内は急いで2階エレベーターホールに移動し、エレベーターのドアをこじ開けてそこを通じて上階に登ろうとするものを迎撃する態勢を整えた。

常識的な相手なら、これ以上はよほど強力な火器で武装していない限り侵攻してくることはできない。

「12.7x99mmNATO弾に勝てるもんか…」

杉内はゆっくりとマニュピレーターを伸ばし、左の『手』に装備されたセンサーアイを使ってエレベーターシャフトを覗き込む。

次の瞬間、杉内の重パワードスーツの腕が切断される。

モニターには何も映らなかった。

予期せぬ攻撃にうろたえた杉内は『右手』に装備していたアンチマテリアルライフルを連射する。

「兄い!」

安岡がパワードスーツの右側面に装備されたポッドからスモークグレネードを発射する。

6秒間の沈黙。

杉内と安岡の無線に百人町からの応援が到着した報告が入る。

杉内は全体に向けて

「気をつけろ!よく分からんが重パワードスーツの腕を切断できる『何か』がいる!!」

と警告を発した。

スモークグレネードで光学的な視界が白煙の下に封じられ、2階に残った杉内と安岡はサーチモードを赤外にして敵を迎え撃つ態勢を取っていた。重パワードスーツのスキャニングシステムにはビル全体をスキャンする全体スキャンモードも存在するが、熱源が複数存在する現状においては、スキャンに必要な時間が極めて長くなることは明白だった。

「ヤス!全体スキャン!用意しとけ!」

「へい!開始しやす!」



やがて百人町からの応援部隊を率いる島田が重パワードスーツで2階に上がってきた。

「杉内!大丈夫か!1階はクリアだ!」

「ヤス!エレベーターシャフト内は!?」

「赤外には何もひっかかりやせんね!」

「島田!ビル全体をスキャンしてみてくれ!」

「いまやってるがネズミなどの小動物と死体以外はウチの構成員だけだ。他は見当たらんな」

杉内は島田とは逆順で上階から順に再度フロアスキャンをかける。

「消えた…」


杉内は警察への対応を済ませ、安岡、島田らと状況の確認を行っていた。

「サツにはいつも通りカネを掴ませてある。チャンコロどもを黙らせるまではいかんだろうが、こっちの武装についてはお咎めなしだ」

「それにしても新洪幇の連中、とうとう本気で俺らを潰しに来たな…」

「それなんだが、あいつら俺ら極道とは全く別の相手に殺られて撤退したみたいだったな」

「兄い、スーツに記録された映像と音声を確認したんですが、奴ら『罗刹來!!』って言ってますね」

「どういう意味なんだ安岡」

「『羅刹が来る!!』とか『羅刹が来た!!』という意味になりますが…」

「羅刹…」

島田はスマートフォンで考えられる選択肢について検索を試みたが、それらしい敵対勢力の名前は出てこない。

「杉内の兄弟よ、もしかして羅刹って大嵐たいらんのことじゃねえかな」

「大嵐と新洪幇が利権でモメてるって話もあんまり聞かねえがな…」

「切られた兄いのスーツの腕は、何か鋭利な刃物でやられていたようでした」

「チタンの特殊合金だぞ。そんなもんが切れる刃物があるってのか」

「最近の大嵐は先鋭化した技術を持ってるって話ですからね」

島田は話し込む二人を見ながら考え込んでいた。羅刹…。


襲撃が発生してから12時間。歌舞伎町は普段の猥雑さを取り戻そうとしていた。


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