花絨毯
赤色に白色が混ざり
人間の目には
その色として映る花吹雪
妖精のような風は
襟元へと花弁を届ける
首へと張り付いた
薄く冷たい感覚が
頸動脈から脳へと伝わる
季節に触れられ
少しだけ上を見上げる
満開というより八分咲きだが
伝えることがあるかのように
堂々と広がる
濃い青空が欲しくなる
道端の黄色と白色が
水玉模様に広がり咲き
絨毯と呼ぶには
畏れ多いほどの声明が
無音で広がり
無数に聞こえる
空に向けてであるなら
風が運ぶだろう
空間にであるなら
誰かが聞くだろう
真っ直ぐでも
曲がっていても
忘れることの無い音を
毎年毎年
誰かのレコーダーに入れ続け
存在とは何かを問い
強さとは何かを信じさせる
近くにレジャーシート
子供達の声と叱り声と
離れた場所に野鳥の音
聞こえれば離れる
横目にしながら歩けば
木の列が道なりに連なる
踏み潰された花弁は
赤茶色に変色して
潰れた色の路面は
絨毯と呼ぶにふさわしい
到達したなら花弁ではなく
捨てるべきゴミに変わるのだ
命が一生を例える場所であり
一生の後も見られる場所でもある
花弁が
また襟元に舞い落ちた
顎下の鎖骨に張り付く
季節に触れられているのか
死者に触れられているのか
判断がつかないが
判断しないことも大切である
張り付いた一枚を
指先で摘み
そっと路面へ返した
絨毯にするべく返した
その冷たさを考えないことは
温かい人間がやるべきことではない
人は優しくないのだろう
習性に出来ず
言葉を作って
考え方を作って
広げなければいけなかった
毎年毎年
同じように咲く
次は誰の番だろう
青空の雲が
ゆったりと進んでいく
絨毯になれない者はいないはずだ
あれだけ優しさを問うのだから
あれだけ他人の優しさに
厳しいのだから
この路面の絨毯になろうと
優しく笑っているに違いない
舞い落ちたばかりの花弁が
自らの靴裏で
路面と同じ色に染まる
美しい春である