下
「あの人は、一体何をしているんでしょうか」
「皆の足元には、皆の今までの後悔が書かれているんだけどね、彼女は自分の後悔を擦って消そうとしているんだ」
少年はすぐに理解が出来なかったので、巨人の言葉を反芻しながら女性をじっと見つめていた。
『消えない!どうしてよ!』なりふり構わずに、真っ白な地面に残る、後悔を擦り続けている。
少年はなんとなく後ろを振り返ると、足跡のように、少年の後悔が地面に書き殴られるようにして残っているのが見えた。歩いてきた方へとずっと続いている。
「あの人はずっと、ああやって後悔を消そうとしているんですか?」
「うん。何度も止めたんだけどね。周りのことが見えていないみたいなんだ」
巨人の言葉を思い出す。
『そうだ、彼女を見て。君はああなっちゃいけないよ』
太陽の暖かい日差しの中、少年はしばらく巨人の足にもたれてぼーっとしていた。
「じゃあ、そろそろ行きます」
「ああ。気をつけて」巨人はそれだけ言うと、手をぶんぶんと振った。少年の下を影がちらちらと横切った。
行き先は決めずに、ここが現実かどうかを確かめるため、歩き出す。少年の頭の中にはこれでいいのかな、と疑問が浮かんでいた。すると、後ろから巨人の声が聞こえた。
「大丈夫。きっと、いいことがあるよ」
ここまで長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。