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 「目が見えるようになった感想は?」

 「……分かりません。もちろん嬉しいことなんだろうけど、でも、現実じゃないような気がして。ここは本当に現実なんでしょうか?」

 

 

 「君がそう思いたいなら私も賛成するよ」どこか、要領を得ない回答だった。少年はそういうことを聞きたかった訳じゃないんだけどな、と心の中で呟いた。

 

 

 「僕は目が見えるようになったのは、現実であって欲しいと思ってるんです。だけど、現実がここまで変な世界じゃないというのは僕でも分かります。信じたいけど、信じられないんです」

 

 

 「自分が感じたように思えばいい。しっくりこなくても、今はそれでいい」そう言うと、老人はまた遠くへ転がっていってしまった。

 少年はもやもやを抱えたまま、棒立ちでただ瞬きしていた。

 

 

 気づけば、すぐ近くが芝生になっていた。

 青々と茂る芝生の上を歩くと、自分の身長よりも何倍も大きい足が目の前に現れた。

 

 

 「おっと、ごめんねそこの人!」話しかけてきたのは、太陽に腰掛ける巨人だった。

 少年はその足を伝うようにして上へと顔を向けたが、巨人の顔は太陽の逆光ではっきりと見えなかった。

 

 

 「あなたは、なぜそんなに大きいんですか?」

 「なんでだろうね。僕にも分からないよ。ははっ」体の中に響いてくるような低い声で、少年の質問を笑って打ち消した。

 

 

 「そういう君は、どうしてそんな悲しそうな顔をしてるの?」今度は巨人が問いかけてきた。しばらくして、空からドシンドシンと音が降ってきた。先程の巨人の声かもしれない。

 

 

 「これは、その、なぜかすごく悲しくなってしまって」自分が涙を流していたことは、巨人に言われて初めて気づいた。少年は、戸惑いながら涙を拭った。

 

 

 そのとき、視界の端からぼーっと暗くなっていくのが分かった。

 「ああ、どうしよう!」

 また目が見えなくなっていく。

 

 

 「落ち着いて、大丈夫だよ」巨人はゆっくりとした語調で少年をなだめた。

 

 少年は『またあの暗闇に戻りたくない』と、恐怖に操られてフラフラとさまよう。そこで足にぶつかった金魚鉢が、なぜだか避難所のように思えて、顔を思いっきり突っ込んだ。

 

 

 「はぁ、はぁ。……あれ?」水の入った金魚鉢に頭を入れた途端、少年の目はすっと元に戻り、降り注ぐ太陽の光をしっかりと捉えていた。水中なのになぜか息ができている。

 

 

 少年は水を介すことで、目が見えるようになるのだった。涙を流した途端に、ここへ迷い込んだのもそのせいだった。

 

 

 「ほら、やっぱり大丈夫だった」巨人の顔は見えないものの、声からほほえんでいるのが分かった。

 「……あ、ありがとうございます」

 

 

 「君が悲しそうにしていたのは、その涙が必要だったからなんだね」

 少年は水の入った金魚鉢を、ヘルメットのように被って黙ったままだった。

 

 

 「そうだ、彼女を見て。君はああなっちゃいけないよ」

そう言うと巨人は腕を伸ばし、方向を指し示した。少年は自分を覆う、巨人の腕の影に気づき、その方向を見やる。

 

 

 そこには、地面を布で必死に擦っている女性がいた。

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