美味しい飯
「では、ご飯を作りますね。何かリクエストはありますか?とはいっても、肉の種類を変えるぐらいですが」
涼花が言ってくる。相当用意がいいな、と浩介は感心した。まさか肉をそんなに買ってきているとは思わなかったのだ。
「一之瀬って結構大食いなのか?」
浩介が聞く。
「買い溜めしているんですよ。これでだいたい3日分程でしょうかね」
「にしては肉が多いな。鳥に豚、牛、か。節操ないな」
「お肉美味しいじゃないですか。調理次第で色々作れますし」
「確かに」
料理上手な人の台詞だな、と思わされた。実際浩介は肉を好んではいるが、料理はしないためあまり気にしたことがなかった。
「で、何が食べたいんです?大抵のものは作れますよ」
「じゃあ·····、生姜焼きで」
浩介が1番好きな料理だ。母親が作ってくれた料理で1番美味しいと思ったのが、生姜焼きだった。
「了解です。任せてください、1番得意なんですよね、生姜焼き」
そう言って髪を束ねる涼花は、何処か嬉しそうだった。
「出来ましたよ。·····って寝てるんですか?」
涼花が声をかけてくる。
「いや、ちょっと目を瞑ってただけだ。特に理由はないよ」
本当に理由はない。ただ何となく、何もしたくなかった。多分、何もしなくていいことを堪能したかったんだと、浩介は思った。
「まぁいいです。それより、ご飯を食べましょう」
涼花がお盆を差し出してくる。
率直に、美味そうだ。生姜焼きは綺麗な黄金色、味噌汁は豆腐にわかめとシンプル。そして米は粒が立っている。サラダと漬物は買ったもののようだが、バランスの取れた、素晴らしい食事だ。
「すごいな、凄くいい匂いがする」
「美味しくなるように作りましたから。本当はサラダもちゃんとつくりたかったですが、まぁしかたありません」
「いや十分だよ。ありがとう」
「いえいえ。では、いただきます」
「いただきます」
まずは生姜焼きに手を伸ばす。美味い。本当に美味い。市販のものとは比べ物にならないほど、ご飯によく合う味だ。
そして、最初の一口を食べてからのことは覚えていない。それほどまでに、涼花が作った料理は絶品だった。
浩介はあっという間に平らげてしまった。
「ご馳走様でした。久しぶりにこんな手の込んだ料理を食べたよ」
「それはよかったです。お粗末様でした。」
涼花は嬉しそうに言う。涼花も同じぐらいのタイミングで食べ終わったらしい。
「何か今度お礼をさせてくれ。なんでもやるよ、常識的な範囲でな」
浩介は両親からお礼や感謝をしっかり伝えるように言われている。それは浩介も大切なことだと思っているので、半ば社交辞令のようなものだった。
「では、お買い物に付き合ってください、服が欲しいので」
涼花がそう言ってくる。
「えっと、そんなことでいいのか?一之瀬がいいなら構わないが」
「それがいいのですよ。お付き合いください」
その言い方は色々まずい。勘違いしそうになる。
「ああ、了解した。任せてくれ」
「でも」
涼花がこちらを睨んでくる。
「この部屋をどうにかするのが先ですね」
「了解です」