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温かいぬくもりに包まれた私の耳にそれらの声が聞こえてきたのは、少ししてからのことだった。


遠くで私の名前を叫ぶ人々。

いくら大きくなったからといっても私はまだ子供。

大人たちが心配するのも無理はなかった。


いつのまにか涙は出なくなり、私はただ明の胸に抱かれている人と化していた。

少しづつ理性が戻っていき、私はだんだん恥ずかしさに支配されていった。

目だけではなく顔全体が赤くなっていくのがわかった。


「あ、明ごめん。も、戻ろっか。みんな心配してるし」

そう言って私は明の体を両手で少し押し、離れようとした。

だがそれを明は止めた。

両手で離れかけていた私の肩を引き寄せ、抱きしめた。


「もう少しこうしていよう。誰かがここに来るまでは。もう少しだけ」

彼の言葉が耳の近くで聞こえた。

顔はよく見えなかったがきっと私が想像していたような顔だったに違いない。


それからしばらくして誰かが私たちの元にきた。

おそらく親戚か誰かだろう。


私と明はその人と一緒に葬儀場へと帰った。

そこにはやはり兄がいた。

もう会いたくないとさえ思ったが、彼は私の唯一の家族であった。

きっと縁を切ることは絶対にできないだろう。

私は私を恨む彼と生きていくしかない。


父が死んでから1ヶ月。

私は兄と同じ親戚の家で生活をするようになっていた。

兄との会話は必要最低限しかしない。


兄は私に対する恨みから。


私は兄や父に対する罪悪感から。


お互いに話すことを避けていた。



『もう少し大きくなったらこの家を出よう。きっとその方がお互いにいい』



そう思うようになっていった。



しばらくして私は家を出て一人暮らしを始めた。

兄に会わないように少し離れたアパートを借りた。


近くには行きつけの病院。

一人暮らしの不安はあったが、病院が近いというだけで不思議と安心できた。

学校からは少し離れてしまったが、それでもいいと思えた。


もう私は長くない。

1分1秒が大事。


いつもと同じ道をあと何回歩けるのか。

いろんな思いが浮かんでは消えていった。


あとどのくらいで、



私は両親に会うことができるのだろう。


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