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明と珠理



彼女はいつも病院にいた。

いつもいつも同じロビーのソファーに座っていた。

どこか寂しそうな、悲しそうな目をしていた。


きっとなにかの病気なのだろう。

子供の僕は不思議とそう感じた。

そしてある日突然話しかけられた。


「ねぇ!一緒に遊ばない?」

「え...」

そう言って隣に座ってきた。

突然のことでどうしたらいいか分からなかった。

「だから、一緒に遊ばない?」


遊ばないかと誘われた。

そんなこと言われたのはいつぶりだろうか。

どう返すのが正しいのか分からなくて、

「...誰ですか?」

そんな事を言ってしまった。


誰ですか、なんて...

そんなことは知っているのに。


彼女の名前や年。

それぐらいしか知らないけど...


「私、藤空珠理!君は?」

「七海明」

「では明くん!私と一緒に遊びませんか?」

「でも...僕は」


なぜ...どうして僕なんかと遊ぶというのだろうか。

一体何のために、こんな冴えない僕と遊ぶというのだろう。

「あ、なんか用事あった?ごめんね。無理言って。じゃ‼︎」


そういうと彼女、珠理は立ち上がり僕の方を向いて、微笑んでから走り出した。

僕を見て笑ってくれた。

あの笑顔からは憐れみなどは無いのだと感じた。

純粋に優しい、そんな笑顔だった。


「あの‼︎」


気づいた時にはもう既に叫んでいた。

どうしよう。

そんな言葉が頭をよぎる。

だがもう手遅れだ。

珠理は僕を少し遠くからじっと見ている


「あ、あの。あ、明日。明日なら!」

「...!ほんとに?」

「はい。あの、今日はお母さんの用事で来たので。明日なら!」

「じゃあ明日ここで待ってるから!」

珠理が叫んだ。

そしてもう一度、念押しするように言った。


「待ってるからーー‼︎」


「うん‼︎」

遊ぶ。

僕は明日、彼女と遊ぶ!




でも次の日、彼女...藤空珠理はいつまで待っても来なかった。








ドアに指を挟んだ兄の手は、想像通り腫れ上がっていた。

内出血も凄い。

だけど、私は兄の心配などしない。

私を追い出したバチが当たったのだ。

いい気味だ。


「で。あなたをここに泊めるという事についてですが、断固拒否します。」

「そんな事言わないでくれよ〜。兄妹だろ?兄を見捨てるのか?」

「あの日から私はあなたを兄だと思ったことは一度もない。そしていくら謝られたところで、あの日言われたことがなかったことになる訳じゃない。」

「...」



『お前のせいで...。お前さえいなかったら父さんが死ぬこともなかったんだ‼︎お前なんか家族じゃない。出てけ‼︎もう二度と俺の前に現れるな‼︎』


あの言葉は傷ついた私の心を、更にえぐるように傷つけた。

看護師さん達は私のせいじゃないとひたすら私に言った。

きっと兄の言葉を聞いていたのだろう。


けれど、あれは私のせいだった。


兄の言うように、私のせいだった。





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