珠理と明
私は小さい頃から体が弱かった。
基本病院で生活。
ろくに小学校にも行けなかった。
おかげで友達はほとんど出来なかった。
そんな時、彼に出会った。
何回かこの病院に来ているのを見た事があった。
同じ学校の子ではなかったけど、何故かその子に興味が湧いた。
話しかけてみようと思った。
「ねぇ!一緒に遊ばない?」
そう言って彼が座っていたロビーのソファーに座った。
しかも隣に。
「え...」
「だから、一緒に遊ばない?」
「...誰ですか?」
そりゃそうなる筈だ。
突然知らない人に遊ぼうなんて言われても、どうしていいか分かるわけない。
彼からしたら初対面なわけだし。
「私、藤空珠理!君は?」
「七海明」
七海明...
「では明くん!私と一緒に遊びませんか?」
「でも...僕は」
「あ、何か用事あった?ごめんね。無理言って。じゃ‼︎」
そう言って私は勢いよく立ち上がった。
彼は少し動揺してるようだったけど、私は彼に笑いかけて走り出した。
「あの‼︎」
突然の大きな声。
私は慌てて降り返った。
彼は立っていた。
そして少しモジモジしていた。
言いたい事がなかなか言えないような、そんな感じ。
なんだか可愛い!
「あ...あの、あ、明日。明日なら‼︎」
「....!ほんとに?」
「はい!あの、今日はお母さんの用事で来たので。明日なら一緒に!」
思わずにやけてしまう。まさかOKされるなんて思ってなかった。
嬉しい。
「じゃあ明日ここで待ってるから!」
嬉しくてつい大声で叫んでしまう。
病院で叫ぶなんてどうかしてる。
静かな病院内に私の声が響く。
しまったと思いつつ、それでも続ける。
「待ってるからーー‼︎」
叫ぶ。
「うん‼︎」
彼も叫ぶ。
周りの人が私達をじっと見ている。
それがなんだかおかしくて、思わず笑ってしまう。
それを聞いて慌てて看護師さん達が止める。
これが彼、七海明との出会いだった。
入院してから2週間ほど経ち、やっと退院する事ができた。
あと約半年。
有効に使わなければもったいない!
「さぁ!まずは何をしようかなー」
死ぬまでにやりたい事は考えてみた。
考えてはみたものの、あまりいいものは浮かばず...
結局何をするかは決まっていない。
まぁとりあえず、家に帰ろう。
話はそれからだ!
私は歩き出す。
これからの未来に向かって。
...それから何もしないこと丸2日。
一向に何も決まらず...
学校は私が入院している間に終業式を迎え、夏休みに入っていた。
だから時間など山ほどあるのだ。
だが部屋の掃除が終わっただけ。
会いたい人がいるわけでも、行きたい場所があるわけでもない。
したい事なんてもっとない。
「あぁぁぁぁどうしよ!こんなんじゃ何も出来ないー!」
ピーンポーン
突然インターホンが鳴った。
「誰だろ。はぁーい」
郵便だろうか。
ドアを開ける。
「珠理!」
「あ...お兄ちゃん」
久しぶりに会った。
最後に会ったのは、お父さんのお葬式の時だろうか。
「久しぶり。突然何?」
「いや...その、体調大丈夫か?」
今更そんなことか。
ずっとほっといたくせに...
お父さんが死んだのは私のせいだと、そう言って私を追い出したのを忘れている訳ではあるまい。
「それだけならもう帰って」
ドアを閉めようとする私を兄は慌てて止める。
「待ってくれ。昔言った事は謝る。すまなかった」
そう言って兄は深々と頭を下げた。
そんな事で許されるような事ではない。
あの出来事は、私の人生を大きく変えたのだから。
...それでも一応は兄なのだ。
要件を聞かなければいけないと思った。
「何の用?今更私の所に来たんだから、何か理由があるんでしょ」
イライラを隠しながら聞く。
私が怒っているとは知らず、兄は顔を上げ、少し微笑んだ。
「少しの間、泊めてくれないか?お金がなくなってしまってな。家から追い出されてしまった」
「⁈‼︎‼︎‼︎」
ふざけるな...
「ふざけるなーーー!」
思いっきりドアを閉める。
兄が隙間に手を伸ばす。
挟まる...
「痛っっっっってーーーーーーー」