表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/46

真相(1)

あいつに初めて会ったのは小学校何年生のときだっただろう。

日常の中に、突然ピエロの仮面が現れた。

ポンチョを身に纏い、民族風のピエロだった。


現代の日本の街並みに不釣り合いなそいつは、旧友にでも会ったときのように片手をあげて「やあ」と言った。


“知らない人について行ってはいけませんよ”


という担任の先生の言いつけを律儀に守っていた俺は、反応することなく横を通りすぎた。


ピエロの仮面を被った外国人の相手なんか俺にはできない。

他の誰か、大人にでも頼んでくれ。

そう思いながら。


しかしそんな思いは通じず、その人は俺の後ろをついてくる。

他にも人はいるのになぜ俺なのか。

痺れを切らして俺は振り返り、ついに聞いてしまった。


「僕に何か用ですか」と。



「そうだね。私は君に用があるんだね、だからついていたんだよね」

とてもラフに話しかけてくるけれど、表情は少しも変わらない。

声のトーンは明るいのに表情のせいで冷たく感じてしまう。


人や幽霊、大型動物に対峙するのとは比べ物にならないぐらい怖く感じる。

一体この人は誰なのか。

当時の俺には分からなかった。

ただ少し怖い変な人。

そんな認識だった。






それから数日、いや数ヶ月。

もしかしたら数年だったのかもしれない。

それぐらい俺の記憶は曖昧だった。


当時の他の記憶は残っているのに、何故かここだけが抜け落ちている。

まるで霧がかかったように、思い出そうとしても思い出せなかった。

なぜ消えていたのか、あいつに会ってから分かった。


あの空間でヤツに対峙し、「仇」と言われた途端、嘘のようにはっきりとあの日の出来事が蘇ってきた。

きっとヤツが何かかけていたのだろう。






俺の母は物心ついたときから病気だった。

胃ガンだか大腸ガンだか、詳しい病名は知らない。

ただ、ガンだった。

手術をしても助かるかは五分五分。

そんな賭けのようなものに、母は乗り気ではなかった。


「死ぬ確率が高いのなら、私は手術は受けない。そのときまで好きなように生きる」


とても強く言い切った母はカッコよかった。

選択肢はいつも自分が持っている、よくそう言っていたのを思い出す。


そんなときだった。変な仮面の人に会ったことを思い出した。


「呼べば行くよ」


と言っていた気がするが本当に来るのだろうか。

ただの“ストーカー”ではなかったのか?

それを確かめるチャンスでもあった。


「来いよ、変態さん」

病院の廊下、誰もいないのを確認して、小さな声で、空中に向かって言葉を放つ。

しかし来る様子は微塵もなく、やっぱりただの変態だったのかとガッカリする。

期待した僕がバカみたいじゃないか!


そう思って振り返った。

ビックリした。

ドラマであるような、振り向いたらいましたパターン。

実際に自分がやられるとは思ってもみなかった。


「元気かね、少年くん」

最初にあったときのように、ヤツは片手を上げてそう言った。





「お母さんを助けてくれない?」

無理そうなお願いをしてみた。

手術でさえ助かるか分からないのだから、不思議なこの人には無理だろうとタカを括っていた。

「できるよ、少年」

顔の変わらないピエロ、でもどこか自慢げに腕組みをしながら言った。


本当にできるのだろうか。

お母さんを苦しみから解放することはできるのだろうか。

だとしたらこれほど嬉しいものはない。


「どうやったらいいの?」

「それはねーー」

ヤツは壁に向かって歩き出し、振り返ってキメ顔で言った。

「私と契約すればいいんだよね!」

無表情のキメ顔ほど不気味なものはないと、このとき初めて知った。


「契約って?」

「契約は契約さ。私に願い事を言えばいい」

「それだけ?」

「ああ、それだけなんだよね」


契約って、もっとこう、紙にいっぱいサインしたりハンコ押したり、とりあえずめんどくさいんじゃなかったっけ?

こんな簡単に契約できるなんて少しおかしい気がする。


「変態さんは何者なの?」

背の高いヤツを見上げる。

少し考えこんだかと思うとこちらに向き直り言った。


「私は罪人(シナー)だよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ