表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/46

隠し事



お祭りの喧騒も、蟬の音も、夜空に轟く花火の音も、私の耳には届かなくなった。

視界に映る色鮮やかな色も、今は黒に染め上げられてしまった。

側にいた2人は消え、暗闇にポツンと1人取り残された。


『何の用?』


どこまでも広がる世界に向かって私は叫んだ。

今相手をしている時間はない。


戻ろうと右手の中指を見るが、そこにあったはずのものがなかった。

戻れない。

左指には二重線があるのに....。

それを触ったって戻ることはできない。


いまだに姿を現さない奴に私は少しずつ苛立ちを覚える。


立っていても仕方がないので歩き出す。

自分が歩いているのかさえ分からない状況。

今、何故自分がここにいるのか不思議でならない。

ネックレスはしていない。


契約は切れたのではなかったのか....。



追手(チェイス)に会ったね?』


上から聞こえた声に顔を上げるも、そこには暗闇しかない。

歩みを止めて、どこにいるかも分からない相手に話す。


『えぇ、会ったわ。罪人(シナー)のことも、契約の解除方法も、何もかも聞いた。やっぱり罪人だったのね』

『今更気づいたのかい?最初からそう言ってるじゃないか』


突如感じた背後の気配に、私は振り向かず続ける。


『ネックレスは紫音くんに渡した。彼らの言ってることが正しいのなら、もう契約は存在しないはずよね?』


持っていた簪の飾りが微かに揺れる。

後ろからするため息に、反射的に体を固くした。

言ってはいけないことを言ってしまった気がした。


やってしまったと後悔しても遅いのだが、これから起こる何かが怖い。

背後にいるということが、ますます恐怖を強くする。


『肌身離さず、と言ったよね?』


いつにも増して声音が低い。

怒っていることは明白だった。



耐え切れず振り向くと、少し上に見慣れた顔が、そこにはあった。

冷たく、冷酷ですらあるその顔がとても恐ろしい。


『私に、願いなんてない。そんな大層なもの、私にはない。だからあなたなんて要らないの』

『君に無くても私にはあるんだよ。唯一の生命線、そう簡単に手放すわけにはいかないんだよ』


伸ばされた手から逃げることが出来ず、私は腕を掴まれた。

予想以上に強く掴まれて痛かった。


『離して!』


振り解こうにもびくともしない。

体格差はこういうところに出るのだろう。

そのまま引きずられるように連れて行かれる。

どこに行くのか.....。


『待て』


前方から聞き覚えのある声が聞こえた。


『紫音くん!』


前には紫音や明など、数名の白い服に身を包んだ人が立っていた。

明と紫音は先程の格好のまま。

すぐに追ってきてくれたことが分かる。


『君がネックレスを手放すから見つかったじゃないか』


腕が折れそうなほど強く掴まれ、思わずうっ、と呻いてしまった。


『やっと見つけたぞ、250』

『これはこれは。いつ振りですかな、緑さん』


目の前の女性に番号で呼ばれたコイツは、先程とは違いとても明るい声で答えた。

緑と呼ばれた女性は、静かにこちらに向かって歩いてくる。


『誰....』


小さな声で呟く。


『250、その女性を離しなさい』


命令口調で言う女性に従うように、コイツは手を離した。

早く離れたくて、私は明に向かって駆け出した。

広げられた腕の中に飛び込み、そのまま背中に手を回す。

それに答えるように明が抱きしめてくれた。


冷たい世界に人の温もりを感じることが、これほど安心するものなのかと思う。


『私を捕まえますか?緑さん』


女性と対峙するシナーはなんだか楽しそうだ。


『そうね。ここで会ったのも運命だし』


その言葉を合図に、数人がシナーを取り囲んだ。

両手を顔の横に上げるシナーに慌てている様子はない。

余裕、といったところだ。


『まぁ捕まる気はないけどね。これから始まるんだから』

『始まる....?』

『契約者は1人減ったが、同時に増えた。プラマイゼロになったのさ』


それが誰のことを言っているのか、私たちには分かった。

それと同時に、もう手遅れであることを悟った。

遅かった。

雪ちゃんはもう、あちらの世界に足を踏み入れてしまった。


『雪ちゃんに何するつもり?』


明から離れ、囲まれているシナーに問いかける。


『戦争だよ、追手(チェイス)罪人(シナー)のね』

『戦争....』


そんな大規模なものが起ころうとしているのか。

仮にも契約者だったのに全く気づかなかった。


知らされることは無かった。

私たち生者と呼ばれる人が必要なら、少なからず言うものではないのか?


『最後に1つ。君の仇は、そこの彼だよ』


シナーが指さしたのは私の横にいる明だった。


『仇って....私にそんな気持ちは無いし、そもそも誰に対して』

『お母さんだよ』


その言葉が私の中を掻き乱した。

お母さんって病気で亡くなったんでしょ?

なんで明がそんなことをしなければならないの?


明の顔を見上げると、目線を落としていた。

まさか、そう思うことしかできなかった。

そんなことをして、彼にどんなメリットがあると言うんだ。


『明....?』

『書庫にあった過去の報告書に書いてあったよ。“七海明の願いの代償”がね』

『そんな。明、嘘でしょ』


ねぇ、と明の腕に触れるが彼は何も言わない。

図星か。

何も言わない、と言うのが答えなのだろう。


『珠理、これだけは信じてくれ。珠理のお母さんになるなんて思ってなかったんだ』

『......信じろってどうやって?何も言わない人をどうやって信じろって言うの!!』


静かな空間に私の声が響く。

信じられるわけがない。

明の言葉が言い訳にしか聞こえない。


どんな説明をされたってお母さんは帰ってこない。

明のせいという事実しか残らない。

そんなのあんまりじゃないか。

裏切られた気分だった。


『もう明と一緒に行動したくない。ごめん。紫音くんと一緒に行動するね』


頭も気持ちもぐちゃぐちゃで、一体どうすればいいのか分からない。


私は紫音の手を握った。

誰かに救いを求めてしまうのはいけないことかもしれない。

けれど不安を掻き消すには、信じられる人が必要だった。

少なくとも今の私にとって、それは紫音しかいない。


手から伝わる熱が、ゆっくりと私の気持ちを落ち着けてくれる。


『じゃ、私は行くよ』


足元から消えるように、空中に溶けていく。

その様子を、その場にいた人全員、追うこともせず見つめていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ