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明かされた事実

遠くからあかりを呼ぶ声がする。

その声のする方を見れば、あかりの恋人が駆けてくるのが見えた。


右手を大きく振って走ってくる様子は、子犬を思わせる。

「ヤスくんなんでいるの?バイトは??」

「早く終わったから来ちゃった」

楽しそうに会話する2人を見て羨ましく思う。


私がもう少し普通だったら、こんな未来があったのかもしれない。

ただそれは単なる夢にしかならず、叶うことなどゼロに近い。

そんな夢は見ない方が楽だ。

叶わぬものをみるのは疲れてしまう。

目の前の明日を見るので精一杯だ。


あかりとヤスくんこと安岡くんは、2人で周ることになった。

終始笑顔の2人の背中を見送りながら、私たちは今か今かと花火を待った。




打ち上げ予定時刻まで残り5分。

地面に敷いたレジャーシートに座りながら、緩やかに流れる川と空を見ていた。

何も変わらない日常が、今は目の前にあった。

何もかも忘れて、普通の人になったような気持ちになった。

このままそうなれてしまえれば、どれほど良いだろう。


「珠理さん」

頭上からの言葉に顔を上げると、そこには紫音が立っていた。

白いシャツを着た彼は、屋台の光によって目立って見えた。

「今ちょっといいですか?」

申し訳なさそうに言う彼の誘いに、私は嫌だと言うことができなかった。


急に現実に引き戻され、また恐怖と戦わなくてはならない。

逃げることはできないのに、どうしてもこの場から逃げたくなってしまう。

差し出された彼の手を掴み立ち上がる。

ちょっと行ってくるね、と友達に言い残し、歩き始めた彼の後を追う。


周りには花火の打ち上げを待つ人が大勢いるのに、ここには私と彼しかいないような気持ちになる。

言葉を交わすことなく、無言の彼についていく私。

周囲の屋台が少しずつ少なくなっていく。

木が立ち並ぶ道にはさほど人はおらず、蝉の鳴き声が微かに聞こえるだけだった。


歩みを止めた紫音に続いて私も止まる。

紫音の背をただただ見つめた。

ガサガサする音が聞こえ、木々の間から明が現れた。


意味が分からない。


そう言おうとしたが声が出なかった。

「珠理、俺たちから頼みがあるんだ」

深刻そうに言う明に、私は小さく頷き返す。


罪人(シナー)と手を切ってほしい」

「今すぐにでも切ってほしいんです」


2人とも、とても焦っているようだった。

「し….シナーが危ないやつだってのは分かってる。どう考えてもいいやつだとは思えないもの。でも今更、理由も無しに切るなんて、私にはできない。そもそも、契約を切るには私が死ぬか、願いを叶えてもらわなきゃならないのに…」

最低でもあと半年、私はアイツと手は切れない。

切ろうと思っても、そう簡単にできることではない。

他に方法があると言うのなら教えてほしいぐらいだ。

あんなやつと一緒に居たいと思うわけがないのに…

私は浴衣の袖を強く握った。


「珠理は、罪人(シナー)に願い事してないの?」

不思議そうに言った明に、うん、と小さく返す。

はぁ、と息をつく音が聞こえた。

「良かった。まだ間に合う」

なんのことか分からず、下を向いていた視界を上げると、笑った2人がそこにはいた。


「契約するとき、肌身離さず持っていろ、と言われたものないですか?」

病室でも、グレールームでも見せることのなかった優しい顔でこちらを見ている。

「肌身離さず…」


そう言われたものは確かにあった。

私は首にかけていたハートのネックレスを浴衣の前に出して見せた。

「お母さんの形見、これをずっと持ってろって言われた」

ハートの飾りを握りしめながら、2人を伺うように言った。


「それを外せばいい。そうすれば追手(チェイス)が珠理を保護してくれる。結果的にシナーと手を切ることができるんだ」

言われた言葉を脳内で噛み砕く。

これを外せばいい。

そんな単純なことでアイツから逃げることができるなんて、思いもしなかった。

死ななくてもいいんだ、その気持ちが私の体をほんの少し楽にする。

呪縛が解かれたような感覚はこういうものなのかもしれない。

体にのしかかっていた重荷が減ったようだった。


減ったことで、新たな疑問が生まれた。

「明は、罪人(シナー)を知ってるの?」

紫音が知っているのは当たり前だが、関係のなさそうな明が知っていることは不自然でしかない。

契約をしている感じではないし、指に線があるのを見たこともない。

一体どこで非現実的なことを知ったのか。

付き合いが長いわりに全く分からなかった。


「俺は、俺と紫音は、追手(チェイス)なんだよ」

はい。

また訳の分からないことを言われた。

最近こればっかりだ。

頭の中がぐちゃぐちゃになる。


でも明がそう言う立場の人だったのは理解した。

…いや、まだできていないのかもしれない。

しっかり理解できるようになるには、少なからず時間が必要だと思う。

だがなぜ紫音まで。


追手(チェイス)でありながらユズカゲと契約を交わしたということなのだろうか。

.....きっとそう言うことなのだろう。

何を思ってかは分からないが、事情があることは目に見えて分かった。

しっかり理解したわけではない。

だけどなんとなく受け入れることができた


追手(チェイス)は信用していいの?」

シナーのように信用できず、恐怖しか感じないような人達に助けてもらおうとは、どうしても思えなかった。

「もちろん」

「もちろんです」

声を揃えて言う2人には、支配や洗脳を感じない。

信じてもいい気がした。


「2人のことは分かった。手を切る方法も分かった。あともう1つだけ。罪人(シナー)って何なの?みんなピエロの顔をして冷たいあの人たちは一体何なの?」


2人が息を飲むのが分かった。

聞いてはいけないことだったのかもしれない。

でも聞かずにはいられない。

ずっと疑問だったことを聞くのは、今しかないと思ってしまったから。







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