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病気


「あいつ無事で本当によかったよな〜」

「うん!本当に珠理が無事でよかった」

こいつと話してるといつも楽しくて。

すぐに笑顔になれる。

それにこいつの笑う顔が好きで、側にいれて幸せだと思う。


ふとカバンの中を見る。

「あ、携帯病室に忘れちった。ちょっと取ってくるわ」

「私も行く‼︎」




「やはり病気は進行しています」

そう言われて少しショックを受けていた。


毎日欠かさず薬を飲んでいたのに。

所詮は症状を抑える為のもの。

病気の進行を抑える事はほとんど出来ないと言われてはいた。

それでも少しは期待していたのだ。

でもやっぱりダメだったかと、そう思った。


「あと...どのくらいですか?」

心の準備はとうの昔にできていた。

なんせ病気は小さい頃からだったから。

いつ言われてもいい準備はしていた。


「.....半年かと思われます」

半年...。

もう少し長いかと思っていた。

あと3年。

せめてあと1年。

そのぐらいではないかと、そう思っていたが半年とは...。


案外短いもんだな。

あと半年...何しようかな。

何をして過ごそうかな。

私は、何をするべきなんだろう。





あいつはいつも笑っていた。

どんな時も、いつもにこにこと。

なんであんなに笑えるのか、不思議でたまらなかった。


「あと...どのくらいですか?」

「...半年かと思われます」

その会話を聞いて驚いたとともに少し納得した。

だからいつも笑っていたのか...。


あれはきっと余命宣告だ。

あいつは...あと半年で死んでしまうらしい。

こういう時はどういう反応をするのが正解なのだろうか。


泣く事?


あいつを心配する事?


いや...どれも違う気がする。

きっとあいつは今まで通りの俺達を希望するのではないだろうか。


何気ない会話。

いつも通りの日常。

それを希望するのでは?


ドサッ


不意に何かが落ちる音がした。

横を見る。

すると雪の持っていた肩掛け鞄が床に落ちていた。

「...あと半年ってなに?ねぇ明?珠理、あと半年って。どういう...こと?」

ねぇねぇとひたすら雪は聞いてくる。

「そういうことだよ...雪」

そうとしか言えなかった。


案外平気だと思っていたのに。

気づいたら頬を涙が伝っていた。

あと半年で...


珠理はいなくなる。









私はなんの病気なんだろう。

小さい頃からそう思い続けていた。

そんな私に先生はいつも教えてくれた。

何度も何度も、優しく。


それでなんとなく、子供ながらに理解はしたんだと思う。

この病気は手術をすれば治るという事。

でも私は麻酔が合わない体質だという事。

だから症状を抑える薬を飲み続けなければいけない事。

そして...


そう長くは生きられないだろうという事。






目が覚めるとそこは見知らぬ天井だった。

いつのまに寝ていたのか...。


それにしても退屈だ。

何もない真っ白な部屋。

部屋は4人共同。

だけどまだ誰もいない。

私1人だけがポツンといるだけ。


あと半年だと言うのに、事故にあって数日入院することになるなんて。

なんて失態なんだろう。


ふと窓を見る。

空は夕焼けでオレンジ色に染まっていた。


あと何回この空を見る事が出来るのか。


あと何回明と話ができるのか。


あと何回。


何回...


「なんか...い...」

涙が頬を伝う。


あと半年...


たった半年...


思ったよりも短くて...

すぐに過ぎて行くのだろう。

私はその間何も出来ずに、ただ静かに死んでいくんだ。

悲しむ人はいない。

だから1人でひっそりと...


「...1人は、寂しいな。」

せめて最後は誰かと一緒にいたい。

不意にそう思った。

今まで1人だったのだからそれぐらい望んだってバチは当たらないだろう。


そう思うと同時に、残りの時間をどう過ごすか考えた。

自分は何がしたいのだろう。

せめて悔いの残らないようにしないと。


だってこれが、私の最初で最後の人生なのだから。




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