正義の味方
町中を走り回り、思い当たる場所は探した。
家には居ない。
よく遊んだ公園にも、通い詰めた古い駄菓子屋にも。
もう、手遅れだとでも言うのだろうか…。
残すは病院のみ。
一縷の望みをかけ、街で1番大きな病院へと向かう。
走ろうと一歩を踏み出したその時、カチッという音とともに視界が歪んだ。
色が混ざり、弾けて消えた。
暗闇の中に小さな液晶が現れ、映像が映し出された。
珠理の家族だった。
楽しそうに笑う4人が目の前に映し出されていた。
今は亡き両親が、不仲になってしまった兄が、幸せそうに机を囲んでいる。
本来ならばこんな未来があったはずだ。
それが崩れてしまった……俺に出会ってしまったからだ。
あの日、病院に居なかったら、きっとこんな状況にはなっていないはずだ。
全て俺が元凶。
頭の中に刻まれた記憶が、年月を重ねるごとにより鮮明に蘇る。
決して忘れてはいけない。
忘れることは許されない。
それが俺にできる償いだ。
液晶にはっきりと映し出されていた映像が、少しずつ薄く、かすれたように消えていく。
考えている時間はない。
早くしなければ。
全てが消えて、何もかも嘘で片付けられてしまう。
ピピッとピアスに扮した小さな無線機が受信を知らせる。
「至急、本部への帰還を命じる。繰り返す、1番隊は至急本部へ帰還せよ」
それだけ言って音声は途切れた。
とても聴き慣れた声だった。
過去を悔やんでいる時間はない。
そんなことをしていたら、きっと手遅れになる。
仕方ない。
命令には相当なことがない限り背いてはいけない。
急いで戻らなければ。
暗かったはずの視界は鮮やかな色を取り戻していた。
病院へと向けていた足を本部へと向ける。
急ごう。
あの人が呼んでいる。
本部は町から少し外れた場所にある、3階建ての建物だ。
中に入るには無線機を所持している必要がある。
無線機は俺のようなピアス状の物や指輪状の物など、様々な形があるが、そのどれもがアクセサリーだ。
身につけやすい、というのがあるのだろう。
押しドアの前に立つと、施錠が解除される音が聞こえた。
建物の中に入ると、広いエントランスがある。
左側に伸びた通路には、上層部専用の個室が並んでいる。
白タイルの床はピカピカに磨かれて、まるで鏡のようだ。
右側にある階段を上り、2階にある1番隊と記された部屋の扉を開ける。
そこにいたのは1人の女性。
そして同じ隊の仲間。
「全員揃ったか…」
窓の外を眺めていた女性が言った。
「遅れて申し訳ありません」
軽く頭を下げ、俺はある仲間の隣に立った。
「今日は新しい情報が入ったため呼んだのだ」
新しい情報…これから何を始めるというのだろうか。
考えていることが一切見えてこない。
探りを入れようにも、相手の目に止まらなければ接触すら難しい。
それは身をもって知っていた。
「説明を……紫音」
「はい」
隣にいた仲間、水上紫音が返事をした。
彼は、俺らの中で唯一アイツらの目に留まった、たったひとつの情報源だ。
「では、申し上げます」
まっすぐ目の前に立つ女性、緑さんを見据えて話し出す。
「先程の罪人についてですがーーー」




