恋ごころ
学校での帰り道、私はいつもコイツに絡まれる。
「でさ〜あいつがさ〜」
聞きたくない話を毎日延々と繰り返す。
「なんて言ったと思う?」
何度も何度も。
もういい加減聞き飽きた。
「な〜聞いてんの〜?」
「....」
「聞いてんのかって聞いてんだけど〜」
「........」
「な〜な〜」
「....あーもー煩い‼︎」
煩い煩い煩い。
どいつもこいつも同じ事言いやがって...。
私はドタドタと足音を立てながら早歩きで歩く。
道行く人が自然と道を開けてくれる。
人が集まっている所に向かって歩く私。
相変わらず道を開けてくれる歩行者。
そもそもあんな奴の話になぜこうもイライラするのか、自分でもよく分からない。
あいつは私に何かしてきたわけじゃない。
彼女との間の話をしているだけだ。
では何故か。
その答えはもう出ている筈だった。
ただ私がその答えを否定し続けているだけ。
それだけなんだ...。
信号待ちをしている人達と一緒に私も立ち止まる。
後ろから私を呼ぶ声が聞こえる。
だんだん声が近くなってきて、早く青になれと心の中で唱える。
信号が青に変わると人々は一斉に歩き出す。
まるで堰き止められていた水が一気に流れ出すように。
“キキッーーーー”
突然甲高い音が聞こえた。
「珠理‼︎」
なんだ。
なんなんだ。
後ろからアイツの声が聞こえる。
振り向くと視界の端っこにアイツが...
「.......‼︎」
痛い。
体のあちこちが痛い。
意識が朦朧とする。
私は今どこにいるのだろう。
「ー--り。ーゅり。珠理!」
「ぁ..なんで...」
なんでこいつが此処に...。
「なんでって。....もうすぐ救急車来るから!それまで頑張れ!」
きゅうきゅうしゃ...あ、そっか。
私は今轢かれて...それで....それ...で.....
悪い夢を見ていた。
それはそれは悪い夢。
悪夢...
ずっとずっと好きだったんだ。
あいつの事がずっと...
小さい頃からずっと...
好きで好きでしょうがなかった。
告白しようとも思った。
しようとした。
でも...
先を越された。
あの子に。
雪ちゃんに...
別にあの子が憎い訳じゃない。
嫌いな訳でもない。
毎日あいつがにこにこしてて、楽しそうだから。
私はそれを眺めているだけでいい。
それだけでいい。
でも時々胸が痛む。
それはきっと嫉妬なんだろうなとは思っていた。
でも気付かないふりをして、あいつと毎日話をした。
いつものように。
2人の邪魔をしないように。
側に居られるだけで充分だから。
「ん...」
「あ、珠理!やっと気づいたか」
「ぇ..あ...きら」
目が覚めたら、そこには明がいた
思い切りほっぺを引っ張ってみる。
...痛い。
夢じゃない。
本当に、目の前に明がいる。
「あ、珠理!目、覚めたんだね!ちょっと先生呼んで来るね!」
「おぉ」
2人の何気ない会話。
私はそれを見ているのが一番好き。
「おまえ3日も寝てたんだぞ」
「3日...そうだったんだ。心配かけてごめん」
「いや...無事でよかったよ、本当にさ。」
明に心配された。それだけで私は少し幸せになった。
「...あのさ、」
「ん?」
「この前はごめん。しつこかったよな。」
「ううん。全然大丈夫.....私こそなんかごめん。感じ悪かった」
「.......」
「.......」
気まずい。
「あーでもなんかあれだな!お前が無事でよかったよ!ほんと‼︎」
「...そうだね!私も死ぬんじゃないかと思ったよ。」
なんとか作り笑い。
上手に笑えてるといいんだけど...。
「!? な、なに!」
「お前、無理してねーか?」
そう言ってそっと私の頬に触れてくる。
そういうのをさりげなくするのはやめた方がいいと何度も言ったのに。
雪ちゃんと付き合う前と態度が全然変わらない。
変えようともしない。
天然なのかと思うほどこいつはいつもさりげない。
きっとこの状況を見たら嫉妬してしまうだろう。
「先生呼んで来たよー」
急いで明の手を振り払う。
「雪ちゃん。ありがとう!」
「んじゃもう行くわ。じゃーな‼︎」
満面の笑み。
私はその顔が世界で一番好きだ。
見ているだけで幸せになれる。
そう思うと同時にその顔は、今の私を少し切なくさせた。
きっとこれから私の身に起こる事がこの顔を歪めてしまう。
そう思うと、少しでも早く去らなければと思った。
でも、そう思っていても今はまだ知られてはいけない。
今はまだその時ではないから。
「うん、またね。」
私は今できる精一杯の笑顔で、彼に言った。
それから先生はたくさん説明してくれた。
今回の傷の事。
完治にはどれぐらい時間がかかるかということ。
それから...
私の病気の事。




