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この病み垢に祝福を。

作者: ウズベキ

日がな一日人狼ゲームに興じているグループがある。所属人数は30名ほど。

しかし連日連夜人狼ゲームだけに精を出すのにも早々に飽きてしまい、くだらない雑談を続けていた時、私が発した何気ない一言からこの物語は始まる。

「ニセの病み垢作ってメンヘラの生態探ろうぜ、きっと人狼より面白いよ」

「それは面白そうだ」「やろうやろう」「俺ユーザー名ハートで囲むわ」「私bioに病名羅列する」「アイコン用に病み垢っぽいイラストとポエム画像集めてきます」と、ノリの良いクズ達があっという間に20人も集まり、それぞれが思い思いの闇と重い重い病みを抱えたフリをしたアカウントを始動させた。


「メンヘラなじぶんが大っきらい」というオリジナルのハッシュタグを共通の合言葉とし、それに既存のハッシュタグを織り交ぜ

「はあ。今も後悔してる、あの人と別れたこと。もう思い出したくないのにな」

などという嘘八百ポエムを書き綴れば、我々を仲間だと勘違いしたチョロいメンヘラが街灯の明かりに群がる虫ケラの如く寄ってきた。その様子を見た我々の喜びようは筆舌に尽くしがたいものであった事は言うまでもない。


しかし我々はひとつ重大なミスを犯していた。メンヘラという生き物は圧倒的に女性が多いという先入観から、メンバーのほとんどがアカウントを女性という設定にして活動していた。早い話が我々は、メンヘラを釣る楽しみと同時にネカマを演じる楽しみも覚えてしまっていたのだ。それに気付いた頃には時すでに遅く、我々に擦り寄ってきたメンヘラを押しのけるようにして、凄まじい勢いで突撃してくる輩がいた。メンヘラの気持ちを理解したフリをしてヤリ捨てる下劣な者たち。そう、出会い厨の存在である。


「オイこいつめっちゃしつこいんだけど」

「LINE交換しようとか言われた」

「見せ合いっこしようとか黙れや」

「通話誘ってくんな死ね」

出会い厨共の猛烈なアプローチにより、狂喜乱舞から一転、阿鼻叫喚の声がグループ内のそこかしこで上がり始めた。このままではメンヘラの生態調査はおろか、メンヘラと仲良くなったところでネタバラシをして絶望に叩き込み、あわよくば自殺させようという当初の計画もパアになってしまうではないか。私は仲間たちに苦渋の決断を下した。

「メンヘラ調査は二の次にして、出会い厨のチンコ10本集めよう」

反対の声が上がらなかったのは、既に我々のヘイトがメンヘラよりも出会い厨に向いていたからだろう。

うだる暑さがすぐそばまでやって来ている七月某日。平成最後の夏。ひとつの時代が終わろうとしているまさにその時、我々は男性器を追い求める修羅と化した。


「よっしゃ、チンコ一本ゲット」

何が「よっしゃ」なのか。

「こいつ全然チンコ晒さねえ」

それが普通だ。

「こっち動画上げ出したぞ!」

まったく喜ばしいことではない。


見ず知らずの野郎の男性器を、まるで高級食材でもあるかのように嬉々として収穫する我々の所業を、地獄絵図と言わずしてなんと言えよう。

かくして我々が言葉巧みに10本の男性器を集め終えた時、全員の胸中に芽生えたのは間違いなく清々しい達成感であった。それは5分ももたずにやり場のない虚しさに姿を変えたが、そんなことはどうでもよかった。

一人一本というノルマを設けたが、一人で四本も男性器を集め、チンコレクターの名を欲しいままにした強者もいた。無駄な才能を開花させてしまったことを彼に謝るつもりは毛頭ない。


そしてこのどうしようもない一日は、我々に三つの事柄を教えてくれた。

まずひとつ目、男は思いのほかアホばっかりだということ。

ふたつ目は、メンヘラ女も色々苦労しているということ。かといって同情はしないが。

そして最後に、病み垢を騙るのは楽しいということだ。


我々にとってこの夏は、一生の思い出に残ることだろう。誰しもがいずれ結婚し、生まれてきた子供に

「お父さん(お母さん)は平成って時代に生まれたんでしょう? どんな事をしてたの?」

と聞かれたとき、胸を張ってこう答えてくれることだろう。

「たくさんチンコを集めたんだよ」と——。



この病み垢に祝福を。


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