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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第四部

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【感謝SS】 消えたケットシー・パレス

 うーん、起きた。

 朝だ……。

 でも、なんだろうこのモヤモヤ感。

 目もぱっちり開いてるし、身体も痛くない。

 すっと立ち上がり、洗面所に行くのもだるくはない……。

 

 ひとまず顔を洗い終え、鏡で顔を見る。

 目の下にクマひとつなく、肌ツヤも良い。

 うーん、何かしなくては、とせかされるような感覚だ。

 時計を見ても、きっちり8時間寝ているし、寝不足ではないと思う。

 ま、気にしても仕方ないか……。

 

 支度を終え、俺はダンジョンに向かう。

 一通り、片付けや掃除を終わらせて、珈琲を淹れた。

 カウンター岩に座り、今日はタブレットでフロアのチェックを始める。

「特に変わった様子はないかな~っと」

 各フロアを見ながら珈琲をちびちび飲んでいると、十五階層で目が止まった。


「え?」


 ちょ、ちょっと……。

 見間違いだろうか? ないぞ?

 跡形もない……。

 

 ケ、ケットシー・パレスがないっ‼

 

 ま、まずい、D&Mの猫派常連たちに見限られてしまう……。

 落ち着け、まずは……くまなくフロアをチェックだ。

 

 しかし、隅々まで確認したが、それらしき建物はなかった。

「おいおい、どうすんだよこれ……」

 時計を見る。

 ……まだ、開店まで時間はある。よし!

 俺は念の為、ルシール改を取り出してダンジョンへ降りた。

 

 ――十五階層。

 草むらをかき分け、ケットシーパレスがあった場所へ向かう。

「確か、一番奥の方に……」

 進んでいくと、Bルートの出口が見えてきた。

 そう、確かこの辺りに……。

 しかし、いくら探してもそれらしき建物が見当たらない。

「マジか……」

 でも、ケットシーたちは何処に?

 猫又たちを含めると、結構な数だったはず。

 あの大所帯なら、何処にいても目立ちそうな気がするが……。

 

「ん?」

 

 ふと見ると、草むらに生えている長い草が、何やら不自然に見えた。

 近づいてみると、木の枝で組まれた枠組みに、草が挟んである。

「なんだこれ?」

 草のバリケードのような、目隠しのような……。

 少し考えたあと、バリケードをずらして奥を覗いてみることに。


「えっ⁉ な、なにこれ……は、畑?」

 五列ぐらいの(うね)が並んでいる。

 なに? なんで?

 こんな所に誰が畑を……ケットシーたちか?

 だとしても、何を育ててるんだろう……それが怖い。


 腕組みをして、畑を眺める。

 うーん、どうしたものか……。


 しかし、上手く隠してあるなぁ。丁寧に目隠しまで作っちゃって。

 感心しながら草で作られた目隠しを触っていると、CLOSE中にもかかわらず、着流し姿の大きな猫が、眠そうに目を擦りながらやって来た。


「あれは……五徳猫か?」

 俺はルシール改をぎゅっと握りしめ、万が一に備えた。

 こちらに気付いた五徳猫が、俺を二度見する。


 せめて、ケットシーぐらい話せると助かるんだけど……。

 そう思っていると、五徳猫の方から口を開いた。

 

「お宅さん、もしかして管理者かい?」


 え、江戸っ子かよ……。

 五徳猫は大きなあくびをしながら、袖口から煙管を取り出してぷかぷかと吹かし始めた。

「そ、そうだけど……この畑って、もしかして?」

 そう言って、五徳猫の反応を伺う。

「あぁ、これね。何かまずかったかい?」

 煙管で畑を指して五徳猫は俺に尋ねた。

 お、意外と話が通じるみたいだな……。

「い、いや、別に良いんだけど、ケットシーたちは何処に行ったのかなぁって」

「あぁ、それなら引っ越しだ」

「引っ越し?」

 五徳猫は、何を驚いているんだといった表情で俺を見る。

「十四階層の奥に行くらしいが」

「十四階……もしかして、何かあったのかな?」

 五徳猫はぷは~っと紫煙を吐き出し、煙管の灰をぽんぽんと落とした。

 煙が魚の形になって、中空を泳ぐ。

 す、凄い。手品みたいだ……。

 魚に見とれていると、五徳猫が

「アイツは今、えんぺらびいとるって虫を集めててな。なんでも、パレスに飾るとか言っていたが」と答えた。

「……へぇ」

 エンペラービートルの事だろう。十四階層にいるモンスだ。

 まぁ、玉虫色で綺麗だけれども……。

 

「あ、そうだ。で、この畑は?」

「ん? あぁ、俺とアイツらで管理しているんだ。今日は俺の当番でな」

 と、当番って……。

 やはり、ケットシーたち猫型モンスは知能が高いんだな。

 ゴブリンが村を作ったって話は聞いたことがあったけど、猫型モンスが畑を作っただなんて聞いたことがない。これは良い経験になりそうだ。

「ちなみに、何を育ててるの?」

「オニマタタビだ。みんなで実を食べようってことになってな。ケットシーが畑を作ってくれるってんでやり始めたのさ」

「なるほど……それで引っ越しを」

「ああ、向こうも今日中には、パレスが建つんじゃねぇかな?」

 そう言いながら、五徳猫は目を細めて、顎の下を爪で掻いた。

「わかった、ありがとう」

「いいってことよ」

 俺は五徳猫に礼を言って、一階へ戻った。

 

 いやー、よかったよかった。

 というか、あんなにガッツリ話が通じるとは……ケットシー並みだな。

 まったく、どうなることかと……。


 一階に戻り、ふと、カウンター岩を見ると、いつか見た草笛が置いてある。

「こ、これって確かケットシーの……」

 横にはエンペラービートルの殻で作ったであろう腕輪のような物が置いてあった。

 これをやるから吹けということか……?

 俺は、ケットシーのずる賢そうな笑顔を思い出す。

 完全に踊らされている気がするなぁ……。


「さて、どうするか……」

 しばらく悩んだが、草笛を吹くことにした。


 ピ~~♪

 澄んだ音がダンジョンに響く。

 これでまた、パレスができるのだろうか……?

 

 後ろの棚に置いてある、最初にもらった草笛の隣に、新しい草笛を置く。

 俺はデバイスをOPENにして、玉虫色に輝く腕輪を眺めた。

「はは、小さくて入らないや」

 気付くとモヤモヤはすっかり消えていた。

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