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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第四部

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85/214

初詣に行きました。

 朝焼けの空に、白い息がとけてゆく。

「はぁ~、さむっ……」

 参道に連なる参拝客の列に並びながら指先を擦る。マフラーに顔を半分(うず)めて身体を揺らし、う~っと唸っていると、隣の紅小谷から肩パンが飛んできた。

「ったく、うるさいわね~。そんだけ着込んでるんだから我慢しなさいよっ!」

「ご、ごめん……」


 今年の初詣は、年末に大阪で取材をしていた紅小谷、山口遠征終わりの矢鱈さん、そして、花さんの四人で来ている。残念ながらリーダーは、正月限定イベントが行われる石見遺跡ダンジョンへ向かったそうだ。

 

「まぁまぁ、年明け早々、そんなに怒らなくてもいいじゃない」

 後ろに並ぶ矢鱈さんが口を開くと、その隣で着物姿の花さんがクスっと笑い、

「そういえば皆さん、もうお願いは決めたんですか?」と尋ねた。

「俺はやっぱり商売繁盛かなぁー」

「ふふふ、私は今年こそアプリ開発の成功祈願だわね」

「ふぇ? アプリ作んの?」

 意外な言葉に声がうわずる。

「ククク……、まぁ完成したら教えてあげるわ」

「えー、気になるなぁ……」

「僕はまた海外ダンジョンに行くから、事故がないようにお願いするつもりだよ」

「え? 矢鱈くん、次はどこなのよ?」

「次は南米。ちょっと危険だからね、気合入れないと」

「な、南米ですか……怖そうです」花さんが不安そうに言った。

「ほんと、矢鱈くんはアクティブな男だわね~」

「あれ、花さんは何をお願いするの?」

「私は今年、モンス診断士の試験があるので、その合格祈願をしようかと……」

 紅小谷が驚いた様子で花さんを見た。

「ちょ、花さんってモンス診断士目指してるの⁉ す、凄いじゃない‼」

「いや、昔からモンスが好きだったので……」

 恥ずかしそうに、花さんが俯く。

「かなり難易度の高い資格だもんねぇ。なんたって、取れたら一生困らない」

 矢鱈さんが白い歯を見せて微笑んだ。

「そうだよ、その時はぜひお友達価格で相談に……」

「ちょっと! あんたはすぐに人に頼るんだから!」

 キッと紅小谷に睨まれる。

「す、すみません……」

「ふふふ、ジョーンさんなら、もちろんお安くしておきますよ」と花さんが笑う。

「へへへ、やったね。あ、順番きたっ!」

 

 俺は賽銭箱にお賽銭を投げ入れ、鈴緒を引いて本坪鈴をガラガラと鳴らした。

 ――二拝二拍手一礼。

 心の中で、神さまに新年のご挨拶とお願いをする。


「よしっ」


 俺は横に避けて、花さんたちが終わるのを待つ。

 ちょっとお願いし過ぎたかなぁ。

 ま、それよりも……。

 このあとは、いよいよ――おみくじだ‼


 この神社のおみくじは全自動である。

 数年前に導入されたらしい。

 

 やり方は非常に簡単で、自販機のような機械にお賽銭の100円を入れ、備え付けのマイクに向かってニ拍する。すると、取り出し口から小さく巻かれたおみくじが、コロンと転がり出るのだ。 


 聞いた話では、スマホからおみくじマシーンにメッセージを送ると、内容をAIが分析し、その人に合ったおみくじが出てくるタイプもあるらしい。


 うちのダンジョンでも、おみくじとか出してみるかな……。



「ぐはぁあああああああーーーー‼‼‼‼」

「うっひょーーー!」

 おみくじ売り場の前では、大勢の参拝客が騒いでいた。


「だいぶ盛り上がってるわね……」

 紅小谷はそう言って頷き、

「じゃあ、みんな。いいわね? 私から行くわよ?」とおみくじを引いた。

 固唾を飲み、紅小谷に視線が集まる。

「た! た、たわ……。オホン、まあ、仕方ないわね」

 紅小谷のおみくじには『小吉』と書かれていた。

「あぁ、いいんじゃない? じゃ、次は僕が……」と言って、矢鱈さんがおみくじを開く。

「お! いいねぇ、大吉だ」

「す、凄い……」

 流石だなと感心する俺と花さんに、紅小谷が「ったく、矢鱈くんは毎年大吉なのよ」と投げやりに言った。

「え?」

「実はそうなんだよねぇー、僕、いままで大吉しか引いたことがなくてさ。はは」

 おみくじを手帳に挟み、矢鱈さんが照れたように笑う。

「ちょ……」

「それは、凄いですね……」

 おみくじまでチートなのか。

 やはりこの人は、そういう星のもとに生まれたのだろう……。

「あ! 私は中吉です! わーい!」

 花さんがおみくじを紅小谷たちに見せている。

 ぐぬぬ……。お、俺も凶だけは避けたいところだが……。

 ゆっくりと、おみくじを開く。

「え……は、白紙なんですが……」

「ちょ、ジョンジョン……」

「はは、印刷ミスかな? それにしても凄い確率だよねぇ」

「ジョーンさん……」


 果たして、印刷ミスなどあるのだろうか?

 こんなめでたい日に、これを引いてしまう俺って……。


 ん? 何かこのおみくじ、いい匂いがするな。

 何の匂いだろうと小首を傾げながら見ると、和紙の表面に波のような模様があった。

 うーん、考えてもわからないか……。


「ちょっと、聞いてきます」


 皆の憐れんだ目を背に受けながら社務所へ向かい、俺は受付の巫女さんに白紙のおみくじを見せた。

「あのぉ、すみません、このおみくじ……」

「あっ‼ しょ、少々お待ちをっ!」

「はぁ……」

 慌てて奥へ走っていく巫女さん。

 まぁ、さすがに白紙のおみくじが混ざってたとなると問題なのかな?

 しばらく待っていると、神主さんが慌てた様子でやって来た。

「お、お待たせしました! えっと、このおみくじを引かれた方ですか?」

「は、はぁ……そうですけど」

 神主はキョロキョロと辺りを伺ったあと、俺に顔を寄せて耳打ちをしてくる。

「あのー、そこの裏口がありますので、ちょっと中に入って頂いても?」

「え? は、はぁ……」

 俺はわけもわからないまま、言われた通りに裏口の戸から中へ入った。


「あぁ、どうぞどうぞ。こちらです」

 神主に案内されるままについていき、何回か曲がり角をすぎると小さな部屋についた。

「では、こちらへおかけ下さい」

「あ、どうも……」

 六畳ぐらいの和室だ。中央に艶のある座卓が置かれている。

 俺は肉厚の座布団に座った。

 神主が向かいに座ると、すぐに巫女さんが二人分のお茶を持ってきた。

「どうぞ」

「あ、すみません」

 一体、何が始まるのだろう?

 皆も待っているし、早く済ませたいんだけど……。

 巫女さんが部屋を出ると、神主が「では」と咳払いをする。

「私も長く神主をやっておりますが、何分、初めてのことで驚いています」

「はぁ……」

「申し遅れました、私、神主の二階堂(にかいどう)と申します。失礼ですが、お名前をお伺いしても?」

「壇・ジョーンといいます」

 神主は茶を啜り、少し間を置いて再び口を開く。

「壇さん、あなたが引かれた白紙のおみくじですが、これは印刷ミスでも手違いでもありません」

「え……」

 二階堂は白紙のおみくじを机に広げて置いた。

「これの正式名称は古くより『白鯨(はくげい)』と呼ばれているものです」

「白鯨?」

「そうです。これは、通常知られていないことなのですが、全国にある神社のおみくじの中に、この白鯨が、毎年一枚だけ入れられるのです。まさに、天文学的な確率ですが……。私も実際に見ることはおろか、噂程度に思っていたくらいでして……」

「な、なんと……。そんな凄いものなのですか⁉」

「はい……。しかも、この白鯨が出たという事で、当神社もぐぐっと格が上がるというわけでして」

「はぁ……そういうものですか」

「ええ、そういうものなんです」

 俺は机に置かれた白紙のおみくじを見つめる。

「それでですね、先程、本庁に問い合わせたところ、その白鯨を引かれた方には大凶~大吉まで、好きなものをお渡しすることができるということなのですが……、どうされますか?」

「な、なるほど……」

 そういうことか。うーん、オールマイティ的な?

 でも、ここで大吉ってのもなぁ……。

 これを引いた時点で、実質大吉以上だろうし。

 ここは中吉とかにして、あまり欲をださずにいくか……。

「じゃ、じゃあ、中吉でお願いします」

「中吉ですね? うーん、何事も中庸というわけですな? 壇さんがこれを引かれたのがわかる気がしますねぇ。わかりました、こちらの白鯨は本庁へ奉納しなくてはなりませんのでお渡しはできませんが、代わりの中吉をご用意します」

「あ、はい。お願いします」

 神主は席を立ち、部屋を出ていった。


「ふぅ……」

 しかし、こんなおみくじがあるなんて初めて知ったぞ。

 もっと大々的に宣伝とかすれば、盛り上がる気もするが……、商売じゃないしな。


「お待たせしました、こちらをお納め下さい」

 神主が差し出したおみくじを受け取る。

「ありがとうございます」

「いえ、こちらこそありがとうございます。当神社としても、白鯨が出るだなんて本当にめでたいことですから……。あ、それと、この件は他言無用という事で、宜しくおねがいします」


     ***


 俺はそっと裏口から表に出ると、皆の待つ場所へ急いだ。

「おーい、ごめんごめん」

「ちょっと、遅いわよっ! ったく、何やってんだか!」

 腰に両手を当てた紅小谷が、仁王立ちで俺を睨んだ。

「へへ、ごめん。なんか手違いらしくてさ」

「それで、結局どうなのよ?」

「あ、これ、中吉でした~」

 俺は皆におみくじを見せた。

「まぁ、凶じゃなくて良かったじゃない」と紅小谷が肩を竦めた。

「そうですよ、ジョーンさん。大吉だと変に期待しちゃいますし」

「へへ、そうだよね」

 俺がおみくじを財布にしまうと、矢鱈さんが

「じゃ、皆でうどんでも食いに行きますか?」と提案する。

「お! いいですね~!」

「私、肉うどん!」と、すかさず紅小谷。

「じゃあ、私は月見うどんにしようかなぁ?」

「はは、正月だよ? もちろん海老天ぷらでしょー」

 皆でワイワイ言いながら参道を歩く。

 いやぁ、楽しい。

 こうやって、来年もみんなで初詣に来たいなぁ……。


 その時、紅小谷が「あ」と言って、空を指さした。

「見てほら! あの雲、クジラそっくり!」

「ほんとですね! かわいー」

「はは、鯨は縁起物っていうからねぇ。何か良いことがあるかも知れないね?」

 そう言って、矢鱈さんが俺を見る。

「あ、はい! きっと、みんなに良いことがありますよ!」

 俺は満面の笑みで答えたあと、

「さ! うどんうどーん! 今日は食うぞ~!」と大声を上げた。

「ちょっと、恥ずかしいわよっ!」

「ふふふ、うどーん!」

「は、花さんまで……ジョンジョン! ったく、もう」

「ははは……」

「…………」


 うどん屋に着き、のれんをくぐる前に振り返り空を見上げた。

 鯨はもう、どこかに泳いで行ってしまったようだ。

あけましておめでとうございます。

今年も某大手ダンジョン~をよろしくです!

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