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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第四部

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クリスマス・イベント 後編

カウンター岩前の壁に、白い綿で作った雪や、ツリーに飾るようなオーナメント、そして入口の幕には大きめのリースを飾り付けてみた。無理矢理にでもクリスマス感を出していくぞっという強い意志表示である。


「よし、こんなもんかな」

 休憩がてら、デバイスをチェック。

「Wow……Amazing」

 俺はとあるメールを開いて硬直(フリーズ)した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ダンジョン協会からのメール】

『クリスマスキャンペーン☆北欧からの使者グランド・クリス限定召喚‼』

 ~5,000DPで貴方のダンジョンに本物のクリスマスがやってくる⁉~

 ※年末までは復活しますが、それ以降の復活はありません。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 な、なんと……。

 あのグランド・クリスが召喚できる……だと⁉

 いつものカスみたいなガチャはどこにいったのだ?

 しかも、年末までの限定復活⁉

 いったい、どういう仕組みなんだろう……。

 

 グランド・クリスといえば、トレント系の上位種。

 北欧ダンジョンに生息する、馬鹿デカいツリーモンスである。

 幹の部分に、悪魔のような顔があるのだが、それは模様(フェイク)

 本当の顔は、皮を剥いだ中にあるらしい。

 赤くて丸い実をたくさんつけ、それを投げて攻撃してくる。

 実は破裂すると、細かい棘の粒子を撒き散らし、その粒子を浴びて手や顔を擦ると、チクチク、ヒリヒリして物凄く不快になるのだ。

 攻撃自体はさほど警戒するようなものではないが、そのぶん防御力が非常に高い。

 

「これは、召喚するでしょ!」

 俺は鼻息を荒くしてデバイスを見つめた。

 

 ダンジョンの奥から、クリスマス用の飾りを抱えた花さんが戻ってきた。

「どうしたんですか?」

「あ! 花さん、グランド・クリスが召喚できるって‼ ほら!」

 花さんが小走りでカウンター岩に回り込み、デバイスを覗く。

「うわーーっ! ジョーンさんっ、もちろん召喚しますよねっ⁉ ねっ⁉」

 目を大きく見開いた花さんが、俺に顔を近づける。

「あ、う、うん! たぶん、どこのダンジョンもこれは召喚すると思う」

「ですよねー、凄い! あ~、動画でしか見たことなかったですけど、生で見られるなんて~」

 飾り玉を両手で握りながら、うっとりとした表情を浮かべる花さん。

 やっぱり、凄ぇ喜んでるな……。


「そうだ、クリスマスイベントはグランド・クリス討伐でいいんじゃないですか?」

 確かに……飾り付けはほぼ終わったけど、これといった目玉はまだ決まっていなかった。

「そうだよね。うん、でも討伐だけだとワンパターンだし……、何かもう一つ欲しいなぁ」

「何かプレゼントがあると良いかも知れないですね」

「プレゼントかぁ……」

 うーん、つまらない物をもらっても仕方がないからなぁ。

 俺と花さんは二人で唸る。


 駄目だ、思いつかない。

 時間もあまりないから、先に召喚場所を決めておくか。

 ここは詳しい花さんに……。

「グランド・クリスってどのフロアが合うと思う?」

「そうですねぇ……氷原フロアが良いんじゃないかと」

「寒すぎないかな?」

「それなら大丈夫です、元々北国の固有モンスですし、分厚い樹皮で覆われてますから」

「じゃあ、氷原フロアに決定だね。あとはプレゼントだけど……」

 俺は淹れておいた珈琲を花さんに差し出す。

 花さんが「いただきます」と言って珈琲に口をつけた。

「美味しい! ほんと、ジョーンさんって珈琲淹れるの上手ですよねぇ~」

「ホント? ありがとう。へへへ」

「そうだ、何か温かいものをサービスで出すってのはどうですか?」

「温かいもの……スープとか、うどんとか?」

「な、何でもいいと思うんです、グランド・クリスを討伐した後に、身体が温まればいいかなって」

「そっか、それいいね!」

 確かに、形式的に用意したのがバレバレなプレゼントより、冷えきったダイバーの身体を温めるスープや、飲み物の方が喜ばれるはずだ。

「じゃあ、ちょっと考えてみる」

「ふふ、楽しみです。あ! 私そろそろ行かないと……」

「あ、うん。本当に助かったよ、ありがとう」

 休みだというのに、買い出しに付き合ってもらったお礼を言う。

 花さんにはいつも助けてもらってるし、何かプレゼントを用意したいよなぁ……。

 そう思いながら、笑顔で帰っていく花さんに手を振った。


 メインはグランド・クリス討伐で良いとして、その後か……。

 と、そこに『ぴょ』という声が聞こえた。

『おは、ダンちゃんやってるラキ?』

 どこで、そんな言葉を覚えたんだろう……。

 ラキモンを見ながら俺はふと思いつく。

「おはよー、そうだ! ラキモンちょっとここに手を押してくれるか?」

『いいラキよ?』

「お、ありがとう! へへへ、これでよしっと」

『これは何ラキか?』

「へへ、内緒だよ」

『ぴょ~……』

 ラキモンは興味を失ったようで、壁の飾り玉を触りながらクンクンとにおいを嗅ぎ始めた。

「おいおい、食べちゃだめだぞ?」

『ぴょー。ダンちゃん、アレ……』

「すまんすまん、忘れてた。ちょっと待ってて」

 俺は瘴気香を取り出し、ラキモンに渡した。

『ぴょぴょぴょっ‼ ハグハグ……ぴょぴょーー!』

 相変わらずの喰い付き。

 瘴気香を作ってる会社に教えてあげたいくらいだ……。

「うまいか?」

 美味しそうに食べるラキモンを見て、またもや閃いた。

「エ、エウレカーーーっ‼」

『ぴょ?』

「ありがとう、ラキモンのお蔭だよ!」

『ちょっと、何いってるかわからないラキよ……、じゃあダンちゃんまたラキね』

 ラキモンはぴょんぴょん跳ねながらダンジョンへ戻っていた。


 よしよし、思いついたぞ~。

 クリスマスイベントは特製コーンポタージュスープを振る舞います!

 ラキモンにちなんで、ラキモンポタージュと名付けよう。

 ラテアートの要領で、表面に顔を描けば……SNS映えも狙えるかも⁉

 ついでに、カフェラテ、いやラキラテも用意しておこう。

 ふふふ……。

 グラン・クリスの召喚代もそんなに高くないし、なんとかなりそうだ。

 

 

 ――クリスマス当日。

 D&Mカウンター岩前は、大勢の常連客で賑わっていた。

 俺は丸椅子の上に立った。

「えー、本日はお集まり頂きありがとうございます! D&MをOPENして初めてのクリスマスです、討伐後には、とっておきのラキモンスープで温まって下さい! ポタージュが苦手な方には、特製ラキラテもありますので。では皆さん、準備はいいですかー?」


「「おおぉーーーーーーっ‼」」

 一斉に皆が声を上げた。

 

 既にグラン・クリスは氷原フロアに召喚、スープの味見は花さんに確認済み。

 我が計画に曇りなしっ!

「では、クリスマス討伐イベント開始でーーーす‼」


 ――パーーーーーンッ‼

 俺はクラッカーで合図した。

 

 ダイバー達は我先にと氷原フロアへ向かう。

 その中には、豪田さん、森保さん、絵鳩&蒔田コンビ、山田くんや丸井くんの姿もあった。

 

 昨晩リーダーにも連絡をしてみたけど、山口県の秋芳洞(あきよしどう)ダンジョンに矢鱈さんと行くらしい。写真を送ってくれるといっていたが……まぁ気長に待つとしよう。

 そうそう、紅小谷はクリスマス取材が多すぎると愚痴っていた。相変わらず多忙な日々を送っているようだ。

 

「良かったですね、みんな来てくれて」

 花さんが本日何度目かの味見をしながら言った。

 

「あ、うん、喜んでくれて良かったよ。あ、そうだ花さん、これ」

 俺は用意していたプレゼントを花さんに渡した。

「え……これって?」


「うん、色々お世話になっちゃったし、感謝の気持ちだから」

 少し照れながら答えると、花さんが「あ」と声を漏らす。

「どうしたの?」

「私も、実は用意してて……。ふふふ、おあいこですね」

 そう言ってバッグから小さな箱を取り出した。

「えー! 良かったのに! へへ、でも嬉しいなぁ」

 俺は頭を掻きながらプレゼントを受け取った。

「ジョーンさん、今のうちに開けても良いですか?」

「あ、うん。じゃあ俺もいい?」

 二人で頷き合いプレゼントを開ける。


「え⁉ 手形……ですか? あっ! モンスの!」

 俺のプレゼントは御朱印帳ならぬモンス帳だ。

 D&Mにいるモンスの手形を片っ端から集めた。メルト・ゴーレムやベビーベロスなんかは無理だったけど、ラキモン、ケットシー、スケルトンなど大抵のモンスは揃えてある。

「うわぁ、本当に嬉しいです……大切にします! あ、私のも見てくださいっ」

「うん」

 花さんからもらった小箱を開けると、綺麗な紫の土台に将棋の駒が一つ、宝石のように置かれていた。

「……駒?」

「えっと……以前、将棋って言ってたなぁと思って……。それ、兄に手伝ってもらいながら、私が作ってみたんですけど……」

 王将の駒は、手作りとは思えないほど貫禄があり輝いて見えた。

「いや、めっちゃ嬉しいよ! これ、マイ駒にします! へぇ~、上手いなぁ~」

 俺は駒を手に取って、カウンター岩で試しに指してみた。

 パチン。と、乾いた良い音が響く。

「マジでいいね、これ! ありがとう花さん」

「あ、裏も見て下さい」

 駒の裏を見ると、『ジョーン』と彫られていた。

「おぉ~‼ 花さん凄い!」

「はぁ~、良かったです。緊張しましたぁ~」

 花さんは安心したように大きく息を吐くと、またスープの味見をしようとした。

 俺が「ちょ」と笑いながら止めると、花さんがてへっと笑う。


 ――カウンター岩前に数粒の雪が迷い込む。


「雪ですね……」

「ほんとだ……」


 俺がゆらゆらと舞う雪を目で追っていると……

「ジョーーンさーーーん‼ か、顔がちくちくするーーーっ‼」

「な、なんだなんだ⁉」

 ダンジョン奥から、絵鳩と蒔田が涙目で走ってきた。

「あらら……、グランド・クリスの実にやられたんですね?」

 花さんが、慌てて二人に駆け寄る。

「うぎゃーーー‼ ちくちくするーーー‼」

「わかった、わかった、いま薬を出すから待ってて」

 俺はそう言うと、ポケットに王将をしまった。

 所持DP   1,889,782

 来客  99人   49,500

 染色   3回      750

 石鹸   5個      500

 ガチャ 64回    6,400

 召喚        △5,000

 スープ・飾り等  △30,000

 花さんバイト代48h △48,000

―――――――――――――――――

        1,863,932

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