TOKYO NARAKU ④
レムナントを撃破しながら、広い廊下を東エリアに向かって走る。
「オラァ!」
ルシール改を叩き込むと、外殻が弾け飛んだ!
こいつら単体だと、意外に弱いな。
ノーマルは低位種だし、当然と言えば当然か……。
先程から一人のダイバーが、こちらを伺っている。
さっきの奴といい、やはりPK狙いのようだ。
くそっ! すっかり忘れてたぞ……。
しかし、極力PKはやりたくない。
ダンジョンは皆で協力するものだろ?
少なくとも、俺はそう思っている。
効率などクソくらえ! 俺はフェアにモンスを倒してポイントを稼ぐ!
――LIFE TREE・東海林。
数人のダイバーに護衛され、ゆったりと通路を歩く東海林と銀丸。
「へぇ~、なんか蟲みたいで気持ち悪いな」
「おい! お前ら絶対、東海林さんに蟲寄せんなよ!」
「ハイっ!」
警護するダイバーたちが返事をする。
「しかし銀丸さぁ、ポイント貯まるまで暇だよなぁ」
「そ、それは仕方ないっすよ……」
「どっかに女いねぇかな?」
「まあ、これだけいれば、少しはいると思うっすけど……」
東海林が眉間に皺を寄せ、もう一度言った。
「なぁ、銀丸。どっかに女いねぇかなぁ?」
「は、はいっ! えっと……すぐに探します!」
銀丸は警護のダイバーに何やら指示を出した。
それを横目に見ながら東海林が呟く。
「ったく、良いよなぁ~お前は言われたことやってりゃいいんだから」
「……」
一瞬、黙った後、銀丸はくしゃっと笑い、
「いやー、ほんとその通りっす~! すみません、東海林さん!」とご機嫌を伺う。
「はは、やっぱ、銀丸おもしれーわ! ははは!」
「へ、へへへ……」
その時、一連のやり取りを見ていた警護の一人がクスッと笑った。
「あの、東海林さん、ちょっと先行っててもらっていいですか?」
「ん? ああ」
愛想笑いを浮かべながら、先程笑った警護の男をさり気なく後ろへ連れて行く。
皆から見えなくなったところで、銀丸は男の口を塞ぎ、いきなりアイスピックを男の足へ突き立てた。
「おい? てめぇ、何笑ってんだコラ? お?」
「ん! んーーーーーーーっ!!」
男の顔が苦痛に歪む。
銀丸はアイスピックを突き立てたまま、傷口を開くように持ち上げた。
「ぐももももーーーー!!」
「痛いか?」
男は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で頷く。
「痛いよなぁ?」
さらにアイスピックで両太もも、腰、腕、腹と突き立てる。
「んーーーーーっ!!!!!」
「俺の心はもっと痛かったぞ? あぁ? わかるよなぁ?」
血に濡れたアイスピックを見せて、
「ほら、一気に死なねぇとさ、ずっと痛ぇんだわ。回復薬もないしさぁ? へへ、これだと急所外せばず~っと、俺の気持ちを伝えられるじゃん? へへ、嬉しいよね? 聞いてんのか、コラッ!」と、男の頬を叩く。
「ぎ、ぎいてまず……」
銀丸は額がつきそうなほど顔を近づけ男の眼を覗き込む。
「あ~、うん。わかったみたいだね。よしよし。じゃあ、もういいや」
次の瞬間、銀丸は眉間にアイスピックを突き立てた。
男は霧散し、消える。
「さてさて、後は女かぁ~。いいのいるかなぁ?」
――東エリア。
共鳴針の反応が激しい。
そろそろだと思うんだけど……。
辺りを見回して、それらしい人影を探す。
主要通路はかなりの数のレムナントが発生しており、そこら中でダイバーたちが交戦中だった。
この辺りでポイントを稼いでいれば、リーダーが来るかな?
「よし! やるかっ!」
俺はルシール改を軽く素振りして、近くのレムナントに殴りかかった。
「シュッ!」
うーん、口で言ってもあんま変わらないな。
イメージ、イメージ……。
あの時の感覚は、まだ7割ぐらいでしか成功していないのだ。
幸い、練習相手は無数にいる。
早く自分のものにするためにも、実践練習あるのみぃ!
順調にレムナントを倒しつつデバイスウォッチを確認すると、現時点で討伐数はノーマル28体。やはり、ノーマルだとなかなか貯まらないなぁ……。
――ウゥーーーーー……!!!、ウゥーーーーー……!!!
突然、都庁内にサイレンが響き渡った!
辺りのダイバーたちが一斉に叫ぶ!
「来るぞー――!!」
俺はなるべく、全方向に逃げられる十字路付近で身構えた、その時――。
『ガガ……、ダンジョンコアの異常活性を検知。ピー、ガガッ……の異常活性を検知。ユニーク個体の発生に注意して……ガガ。ダンジョンコアの異常活性を検知。ユニーク個体の発生に注意して下さい……』
――緊張で心臓が高鳴る。
ユニークがどれほどの強さかわからないのが不安だが、やるしかない!
俺はルシール改のグリップを強く握りなおした。
同時に、通路全体に黒い影が無数に現れる。
「ぬぉわっ!」
驚いて声を漏らした瞬間、俺は出現したユニークレムナントに襲われた!
「ぐぬ……!」
攻撃を受け止めると、ガチッ! という鈍い音が鳴る。
ギチギチギチギチ……‼
ユニークは鉄パイプの様な腕から突き出た鋭い爪を鳴らす。
く、くっそ、この野郎!!
さらに、横からも別のユニークが襲ってくる!
『Giiiiishaaa!!!!!!!!!!!!!』
咄嗟に身を躱して、床を転がり逃げた。
「ちょ、多すぎるって……」
尋常じゃない数に、思わず固唾を飲む。
そこら中でダイバーの悲鳴とユニークの断末魔が上がった!
ま、負けてられない!
「オラァ‼ 基本、基本、基本ゥゥゥー‼」
個別に応戦しながらも、その勢いに圧倒された。
ギギギギギ……無数のレムナントが牙を擦る音や、カチャカチャと外殻が当たる音。
不気味な音が混ざり合い、館内に異様な空気を演出する。
「くそっ!」
目の前のユニークを蹴り、道を開く。
駄目だ、どこも蠢く蟲で埋め尽くされている。
「ぬぉおおお!!! オラオラオラッ!!」
手当たり次第に殴り続けるが、段々と手が痺れてきた。
そんなことはお構いなしに、次から次へとユニークが群がってくる。
「や、やばい……、キリがない……」
ついに隣で戦っていたダイバーの姿が、ユニークの群れに埋もれて消えた。
「ぐ……」
相手のいなくなったユニークが、一斉にこちらを向く!
「ちょ! こ、これ以上は無理だって!!」
渾身の力を振り絞って殴った瞬間、痺れでルシール改が手を離れた。
くるくると回転しながら、床を滑るルシール改。
「マズい!!」
すぐに拾おうとするが、上からユニークがわらわらと覆いかぶさってくる。
「うわっ! や、やめ……」
ダイバースーツにユニークの爪が喰い込むのがわかった。
えーっ! お、俺、序盤落ち?
折角、矢鱈さんに特訓してもらったのに……。
「うぅ~……うぉおおお!!!」
俺はポケットから取り出した共鳴針を握り、無我夢中でユニークの複眼に突き立てる!
『Gyiiii!!!!!!!』
ざ、ざまあみろ!
断末魔を上げるユニークの後ろから、さらにその後ろからも別のユニークが襲いかかってくる。
「や、やっぱ駄目……か……」
もう身動きできない程、ユニークがのしかかって……。
――ふっと、身体が軽くなる。
そっか、転送されたのか。
リーダー、怒ってるかなぁ……。
矢鱈さんと紅小谷にも謝らないと……。
「ジョーーーーーーーン!! 起きろぉーーーーっ!!」
凄まじい怒号に驚き目を開けるとルシール改が胸元に飛んできた。
「え?」
慌ててルシール改を受け止める。
目の前には、槍を肩に担いだリーダーの姿があった。
『Guuuuugshaaa!!!!!!!!!!』
「邪魔だ!」
団子状に群がり襲い来るレムナントを、リーダーが一閃すると辺りに氷の結晶が舞う。
きらきらと輝く結晶と共に霧散していくユニーク個体の群れ。
「リ、リーダー……!」
「ジョン! 早く起きろ、置いて行くぞ?」





