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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第三部

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72/214

トラブルは御免です。

 ――ダンクロ丸亀町店。

「な……、なんとおっしゃいましたか」

 犬飼の表情には焦りが見え、心なしか声が震えていた。

 会長の脇に控える側近が、代わりに口を開く。

「あと一週間で結果がでなければ、撤退だと言っている」


「そ、そんな……」

 青ざめる犬飼に側近は「当然だ、当初の24階層計画も失敗に終わり、コア不定着。これから徐々に階層は縮小していくだろう。ロストは時間の問題だ」と無表情で答えた。


「し、しかし」

「くどい。ロストとなれば、我が社の信用問題にも発展する。コア定着が失敗した今、撤退しか道がないのはわかっているだろう? それに、この状況で近隣店に勝てると思っているのか?」


「……」

 犬飼は反論できず、黙って目線を落とした。

 その様子を見ていた会長が、ゆっくりと口を開く。

「犬飼くん、残念だが、これは客観的事実に基づく選択だ。決して、君が悪いとは言っていない。残った時間を君がどう使うのか、ワシが気にしているのはそれだけだよ」


「か、会長……」


 会長は小さく頷いて席を立つ。

「そうだ、犬飼くん。D&Mには行ったかね?」

「え、ええ。OPEN前に一度」

「どう思った?」

 犬飼が恐る恐る答える。

「……小規模ですが、コアに恵まれていると思いました」

「それだけかな?」

 会長は真っ直ぐに犬飼の目を見据えた。

 犬飼は必死で答えを探しているようだったが、言葉を続けることが出来なかった。


「そうか……。行こう」

 会長は残念そうに溜息をつき、事務室を後にする。

 犬飼は見送ることも忘れ、呆然と立ち尽くしていた。



 ――D&M。

「どうしたんですか? ジョーンさん」

 花さんが、きょとんとした顔で覗き込む。


「あ、いや、何か今、背中がぞわっとして、ははは」

「風邪ひかないでくださいよ? 急に寒くなってますし」

「あ、うん。そうだ、簾外しておくかな」

 俺は入口の簾を外して、自分のアイテムボックスに保管する。ダンジョンの物で作ってあるのでこういう時は便利だ。


「そろそろ暖房も考えないとですね」

「確かに、更衣室も冷えるから……」

 初めての冬だもんなぁ、どのぐらい冷えるのか少し不安だ。

「何か簾みたいな、いい方法があればいいんですが……」

「うーん、メルトゴーレムを削っても、肝心の核がないとただの岩だし……。まぁ、納屋にストーブがあるから、それを使ってもいいかな」


 俺はそう言いながらカウンター岩に戻り、ホットコーヒーを二人分淹れることにした。

 辺りにコーヒーの香りが漂い始める。

「ん~、いい匂い」

 うっとりした表情を浮かべる花さん。

 俺はコーヒーを渡したあと、一口飲んで「やっぱ、タリみが大事だよね~」と頷く。

「美味しい! ジョーンさん淹れるの上手ですね!」

「そう? へへへ」

 そこに、誰かが走ってくる足音が聞こえる。


 俺と花さんが入口に目を向けると、血相を変えた鈴木くんが「ジョ、ジョーンさん! た、大変なんです!」と駆け込んできた。

「どうしたの!?」

 慌てて、俺はカウンター岩を出て駆け寄る。

「はぁ、はぁ、あの、て、店長が……おかしく……なっちゃって……」

 息を切らせながら鈴木くんが言う。

「こ、これ……」

 花さんが水を差し出す。

「あ、ありがとうございます」

 鈴木くんは水をぐいっと飲み干して「あの、うちの店長が、突然大声を上げ始めちゃって、店で暴れてるんです!」


「え!?」

 俺と花さんは顔を見合わせた。


「ちょ、どういうこと?」

「なんか、会長さんが帰ってから様子がおかしくて、それからしばらくして、急に叫びだしたと思ったら、お前D&Mのスパイだろとか、ジョーンさんを呼んでこいとか暴れ始めて……」

 え? 俺、何もしてませんが……。

「ジョーンさん、すみません! 僕も何がなんだかわからないんですが……。多分、僕がジョーンさんと店前で話していたせいかも知れないです! ぼ、僕、どうしたら……」

 鈴木くんは微かに震えていた。余程、驚いたのか、怖かったのか……。

 それにしても、一体、何があったんだ?


「落ち着いて? 鈴木くんは何も気にしなくていいよ、俺は大丈夫だから。ね?」

「本当にすみません……。気が動転してしまって。僕、もう一度店長に話してみます」

「あ! ちょ……」

 そう言って鈴木くんは、返事を待たずに走り去っていった。

 おいおい、戻って大丈夫かよ……。


「ジョーンさん……」

 花さんが不安そうな顔で俺を見ている。


「……」


 犬飼はどうしてしまったんだ?

 会長に何か言われたとか……。

 ていうか、俺は部外者だし、ダンクロの事なんてどうでもいいだろ?


 でも、鈴木くんは心配だな……。

 うーん、ダンクロは大手、本部もすぐに動くだろうけど。

 どうする? 厄介事は関わりたくないのが本音。勝手に自滅してくれれば、それで……。


 それで?


 それでいいのか?

 

 デバイスをCLOSEに切り替える。あれ、何やってんだ俺?

 自分でも何をやってるのかわからない。でも、勝手に身体が動く。


「悪い、花さん。今日は休みにする」


 ――気づくと俺は走り出していた。

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