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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第三部

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助っ人が来てくれました。

 閑古鳥が鳴いている。

 黒い躰に首の周りだけモフモフの毛。枯れ木の枝をしっかりと掴む足には鋭い爪が光っていた。夕闇に同化して、目をしっかりと凝らさないとその姿は見えない。しかし、金色の双眸だけは、しっかりと俺を見据えている……。


『スッカラカァーーーー……、スッカラカァーーーー……』


 変な鳴き声だ。

 一体、ここは何処なんだ? 辺りを見回しても何も見えない。


 薄い靄に覆われて、途方に暮れる。

 いつまでも、ここにいたって仕方がない。

 そう思って、一歩足を踏み出すと――地面が割れた。


「うわぁああああーーーー!!!」


 布団から飛び起きる。

 見慣れた自分の部屋を見て、夢だったんだと安堵した。


「あ~、いてて……」


 少し頭が痛い。パジャマは寝汗でぐっしょりと濡れていた。

 俺は一階に降りてシャワーを浴び、身支度を済ませる。

 まだ、少し夢の余韻が残っていた。


 嫌な夢だったなぁ……。

 おにぎりを握りながら、夢を思い出して溜息をつく。


 今日はダンクロのオープン日だ。

 気にしていないつもりだったが、深層心理ではずっと考えていたのかも知れない。夢に出てきた閑古鳥の姿を思い返しながら、俺はダンジョンへ向かった。


 開店準備を終わらせて、デバイスをチェック。

 そろそろ、向こうも開店のはずだけど……。


 その時、紅小谷からメッセージが届いた。

 紅小谷:『おはよ、今日ダンクロオープンよね? 何か対策はしてるの?』

 ぐ……。痛い所を突いてくるなぁ。

 実はオペレーション・フラワーと銘打ってみたものの、具体的アイデアが全く浮かばずに、ずるずると今日に至ってしまったのだ。

 俺:『実は、偵察には行ったんだけど、これといった対策が思いつかなくて……。』

 すぐに返信が届く。

 紅小谷:『この、たわけーーーーっ!! なんでもっと早く相談しないのよ? バカなの? ダンクロに寄ってから、そっちに行くわ』

 え? そうか、取材で来てるのか。

 俺:『わかった、待ってるよ』

 返信をして、俺は大きな溜息をついた。


 うーん、どうしたものか。

 対ダンクロで一番の脅威は向こうが24H探索無制限(フリーダイブ)ということだ。

 かと言って、24Hなんて出来ないし……。


 しばらくして、最初のお客さんがやって来た。

「いらっしゃいませ!」

 何度か来てくれている同い年くらいの男性客だった。

「おはよう、いやぁ、ダンクロ凄い人だったよ」

 ぐぬ……。第一声目がそれか。

「へ、へぇ~そうなんですねぇ。やっぱり大手ですからねぇ」

「うーん、なんか女の子が多かったかなぁ……」

 お客さんは思い返すように少し上を向く。


 女性客か、鈴木くん目当ての子たちかな?

「あと、フロアもまだ少なかったね」

「え?」

「いや、だってオープンしたばっかだし、8階層ぐらいしかなかったよ? そんなもんでしょ」

「は、8階層……?」

 俺と花さんが偵察した時は24階層だったはずだけど。

「まぁ、俺はこっちに来るけどね、あ、石鹸もらえるかな?」

「あ、はい! ありがとうございます!」


 お客さんを見送って、俺は考えた。

 どういうことだ? 8階層? 分岐を見つけられなかったのか?

 いや、分岐は確か12階だったはず。

 何かトラブルか……?

 だとすると、可哀そうだが、ウチとしては願ってもないチャンスなのでは?


 それから、数人のお客さんが来たので、それとなくダンクロの事を訊いてみたが、24階層だったよというお客さんは一人もいなかった。


「ジョンジョン、おつ」

 入口を見ると、紅小谷が小走りでやって来た。

「あ、お疲れ様。あのー……、ごめんね、なんか」

 紅小谷は手をひらひらと振って

「ったく、何を言ってんのよ? そんなことより、対策を練るわよ」と言う。

「あ、はい!」


 俺は急いでアイスティーを紅小谷に差し出した。

「ありがと」

 紅小谷がアイスティーに口を付ける。

「で、一応ダンクロの状況を説明しておくわね」

 そう言って、スマホを操作しながら紅小谷が説明を始めた。

「まず、フロア構成、全8階層、いたって普通の迷宮タイプで、モンスはアンデッドがメイン。これと言った売りは今のところ無いわね」

「あの、それなんだけど、俺と花さんで偵察した時は24階層だったんだ。変じゃない?」

「24階層? 確かに変ね……。ていうか、オープン前になんでわかんのよ?」

「いや、犬飼っていう店長に中を少し見せてもらって、その時にフロアマップを見たんだよ。マップには確かに24階層って」


 紅小谷はうーんと唸って

「何かの理由で、ジョンジョンに嘘のフロアマップを見せたのかしら。でも、そんなことする理由が思い当たらないけど」

「だよねぇ。でも8階層なら、ウチには影響ないんじゃ?」


「たわけーーーっ!!」

 突然のお叱りに、ビクッと俺は肩を震わせた。


 ストローでガシャガシャと氷を掻き回しながら

「いい? このダンジョン業界では、あんたはもう、看板背負って参戦してるプレイヤーなのよ? 驕りは身を亡ぼすってことを知りなさい!」と言う。

「は、はいっ!」

 紅小谷の言うとおりだ。俺はどこか甘い考えをまだ持っている。

 最近、とんとん拍子にお客さんも増えていたから……。


「とにかく、最悪の状況を考えて手を打たないと。向こうは大手、どんなテコ入れがあるのかもまだわからないのよ?」

「うん、確かにそうだね」

「メダルブームが下火になりつつあるとはいえ、アンデッドメインで24Hやられたんじゃ、少しは影響あると考えたほうがいいでしょ?」

「確かに……。どうしよう?」


「この、たわけーーーっ!! それを考えるのがあんたの仕事でしょうが!」

紅小谷がバチーンとカウンター岩を叩く。

「は、はいぃ!」


 紅小谷はアイスティーの氷を鳴らしながら

「今は宣伝に力を入れるべきね。あと、宣伝するからには、何か売りがないと」

「売りか……。ベビーベロスとか、パレスかなぁ」

「まぁ、確かに強い売りだとは思うけど、もうこの辺りのダイバーは知ってるでしょ? 何か目新しいものを考えないと」


 俺は腕組みをして唸る。

 目新しいものと言っても、何がある?

 ダンジョンは当分拡張しそうにないし、ガチャや染め物、石鹸なんかも、すでに知れ渡っているしなぁ……。


 ふと、紅小谷が俺に尋ねた。

「ジョンジョンってダンクロにいたのよね?」

「え、ああ。そうだよ、笹塚店にいたけど」

「ダンクロってオープンの時、何か特別なことやるの?」

 そういえば、俺はベテランバイトとして、新規オープンに駆り出されることが多かった。当時の記憶をたどってみる。

「えっと、確か初回入場無料とか、回復アイテムサービスとか、あとはモンス連続投入とかかなぁ」

「ってことは、いくら8階層とはいえ、連続投入される可能性もあるってことね」

「じゃあ、こっちも連続投入で対抗するとか?」


 紅小谷は少し黙ったあと、

「いや、それだと資本が大きい向こうが有利だわ。ここには、独自のサービスがあるから、それは良いとして、何かで、お客さんの目を引けば良いと思うの」と言った。

「SNSとか? あれから結構フォロワーさん増えたんだよね~」

 俺は紅小谷にスマホの画面を見せた。


「へぇ、意外……これは使えるかも知れない」

「何か宣伝するとか?」

「フォロワーに拡散してもらうのよ。D&Mをね」

 そう言って、紅小谷はスマホで何やら調べ始めた。


「見たところ、ダンクロはSNSに力を入れてないみたい。ダンクロ丸亀町店の情報もサイトには載ってるけど、SNSの方には流れてないわね」


 紅小谷は大きく頷いて俺に言う。

「方向性は決まった、SNSでバイラルマーケティングね」

「ば、ばいらるマーケティング?」

 戸惑う俺に、紅小谷はニヤリと笑って言った。


「さぁ、ジョンジョン。――ダンクロを落とすわよ」



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