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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第三部

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緊急討伐依頼、魔人種発生 後編



 ――その時。

「なんやなんや? お通夜みたいやな?」

 その場違いなほど緊張感の無い声に、みんなが一斉に目を向けた。


「モ、モーリー!?」

 そこには、京都で出会ったプロダイバーのモーリーが立っていた。


「店長の知り合いか?」

 豪田さんがモーリーを見ながら言った。

「あ、はい……。京都に行った時に仲良くなったんですが」

 すると、モーリーが鼻で笑い、大きな声で

「ふんっ、何を水臭い事を……、親友や、親友!」と言って肩を叩いた。


 俺は少し気恥ずかしくなりながら尋ねた。

「はは、あ、ありがとう……。でも、モーリー、どうしてここに?」

「そんなもん、新幹線で一発や!」

「そうじゃなくて……」


 すると、モーリーは、急に真剣な表情に変わる。

「討伐依頼見てな。バーメアスやろ? あれは、ほっとくとホンマに厄介やねん。まあ、ジョーンには借りがあるからな」


 豪田さんが横から口を挟んだ。

「あんたの話はわかった。でも、アイツを一人じゃ無理だ、俺ら総出でも駄目だったんだぜ?」

「そうやな、でも……こっからはプロの出番や」

 そう言って、豪田さんの肩を叩く。モーリーの方が少し背が大きい。

 隣で見ていたプロダイバーが割って入った。

「偉そうにしてんじゃねぇ! 俺もプロだ、プロの俺らが負けたって言ってんだよ!」

 モーリーは表情を変えずに

「別に嫌味言うてるわけやないで? あ、ジョーンこれ頼むわ」とIDを出す。

「こ、この……」

 豪田さんが、今にも飛びかかりそうなプロダイバーを止める。


 モーリーは気にも止めずに、タブレットで装備を選んでいた。

 ふと、顔をあげて花さんを二度見する。

「え!? この子めっちゃ可愛いやん! ジョーンの彼女?」

「ちょ!! 何を言って……」

 花さんは顔を真っ赤にして俯いている。


 モーリーは悪い悪いと言って

「ほれ、ジョーン見てみ?」とタブレットを見せた。

 画面には小狐丸の名前、その横には+753の強化数値が見えた。

「す、凄い! こんな短期間で!?」

「まあ、俺が本気出せばこんなもんや、な? 凄いやろ?」


 後ろで聞いていたダイバーがボソッと呟く。

「京都? モーリー……もしかして……あの、森?」

 すると、豪田さんがモーリーに「あんた、名前は?」と訊いた。


 モーリーは装備を終えて、小狐丸を腰に差すと

「――俺は、森修司(もりしゅうじ)や」と答えた。


 プロダイバーの一人が咎めるように言った。

「森修司!? 嘘だ! あいつならナンバーズを持ってるはずだ!」

「ああ、あれな、使用期限が来てな。せやから、これをジョーンが俺にくれたんや。ええやろ?」

 そう言って、小狐丸を軽く叩いて見せた。


 花さんが俺に小声で尋ねる。

「ホントにジョーンさんがあげたんですか?」

「あ、うん、色々助けてもらったお礼に……」


 ダイバーの一人がモーリーに尋ねた。

「仮に、あんたが、あの京都十傑の森修司だとして、アイツを倒せるのか?」


 モーリーはやれやれと肩を竦めて

「本物でも偽物でもええわ。まあ、見とってや」と笑い、ダンジョンへ向かった。

「あ、モーリー!」

 俺の呼びかけに手を上げ、そのまま奥へと消えていく。

 数人のダイバー達がその後を追った。


「俺はもう、ペナルティ食らうとキツいから待たせてもらうぜ」

 豪田さんは腰を降ろした。

 俺は、残ったみんなに麦茶を配って回る。


 京都十傑って、有名なプロチームだよな?

 確かレイド専門だったと思うけど……。

 俺は花さんにも麦茶を渡してから、デバイスを見た。



 ――地下十五階・パレス前。


 ぼとん、ゴロゴロ……。

 ミノタウロスの首が、パレス前に転がる。

 そして数秒後、霧となって消えていった。


『ケケケケ!!!!』


 バーメアスは奇声を上げ、殺戮に飢えた獣のように、再び獲物を探しながら彷徨い始めた。

 空を舞うドラゴンフライや、スパイラルモモンガが襲いかかるが、バーメアスが手を振っただけで、あっけなく消える。


『シャアァアアーーー!!!』


 その時、威嚇音を発しながらリュゼヌルゴスがバーメアスを襲った。

 一瞬で素早く巨体を巻き付け、凄まじい力で締め上げる。

 バーメアスの体は、その巨体に隠れて見えなくなった。


『シャアアア……』


 リュゼヌルゴスは次第に締め付けを強くする。

 ギリギリと軋む音が聞こえた。


 ――バシュゥッ!!


 突然、赤い血が飛び散る!

 風船が爆発したように、リュゼヌルゴスの巨体がズタズタに裂けた。


 その中から、何食わぬ顔で血まみれのバーメアスが姿を見せる。

 そして、リュゼヌルゴスが霧となって消えた――その時。



「おーおー、やっとるねぇー」


 森がバーメアスと対峙した。

『ギギギギ……』

 バーメアスが上半身を捻りながら振り返り、金色の瞳を細めてニタァっと笑う。

 森を獲物と認識したのか、大きく口を開けて、無数の牙から涎を垂らした。


『グ……ケケッグエケ……コロス? ケケケケ!!!』


「やる気満々やな? 上等上等。なら、こっちも本気で行かせてもらうわ」

 森は腰を低くして構える。そして、呼吸を整えると何やら呟き始めた。


「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり……」

 ――その呟きは、森自らの精神に雫を落とす。

 水面に波紋が拡がる様に、森の感知領域が拡がっていく。

 

 バーメアスが飛び掛かって来る!

 しかし、最低限の動きだけで森はゆらりと攻撃を躱した。

「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす……」


『ケケケケケーーー!!!』

 バーメアスが鋭い爪を伸ばして振り下ろす。

 凄まじい猛攻を、森は剣の鞘で受け流していく。

「おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし……」

 森が言葉を発する度に、驚異的に集中力が高まり、精神が研ぎ澄まされていく。


『グルァ!!!』

 バーメアスが自らの左手を切断し、宙に放り投げる。

 すると左手が鳥の様に飛び回り、森を同時に襲った!

 

 森は呼吸を乱さず、目を閉じる。

「猛き者も遂には滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ」

 言い終えると同時に、カッと目を見開き剣を抜いた。


 ―― 無 常 九 閃 斬 ――


 その瞬間――バーメアスの身体に光の筋が幾重にも拡がった。

 細切れになって落ちる肉片の中に、ぼんやり光る黒い核が見えた。


「終わりや」


 森が小狐丸で横一閃すると、核は粉々に砕け散った。


 後ろで見ていたダイバー達が腰を抜かす。

「な、なんだ……何が起こった……」


 森はダイバー達に近づくと

「はは、これは居合っちゅうやつや。自分ら大丈夫か?」と手を差し出した。

「あ、ああ……すまん」

 ダイバーは起き上がって

「う、疑ったりして悪かった。本当に……」

「ええって、ええって。そんなん、もうどうでもええやろ? それよりパーッと打ち上げしようや!」

 森はダイバー達の肩に手を回して笑った。



 ――カウンター岩前。


「おい、帰って来たぞ!!」

「早くねぇか?」

 カウンター岩前に集まっていたダイバー達がざわめく。

 奥から、モーリーがひょいと顔を見せた。

 その両脇には、追いかけていったプロダイバー達が照れくさそうに笑っている。


「ジョーン、殺ったったで。これで問題なしや!」

 モーリーがそう言った瞬間、ダイバー達が一斉に叫んだ。

「うぉおお!!!」

「す、すげぇ!!」


「す、凄いよモーリー!!」

 俺はモーリーから小狐丸を受け取りながら言った。

 モーリーは笑いながら残りの装備を外して

「それより、フリーパスやけどな、これから皆で飲み比べして、最後に残ったもんの勝ちにしよう思てな」と周りを見た。


「ほぅ、飲み比べだと……?」

 横で黙っていた豪田さんがニヤリと笑って、拳を鳴らした。

「お、あんたイケる口やね?」

 豪田さんのチームが全員立ち上がる。

「俺ら元々、高知の出身よぉ、物心(バブ)ついた頃から、返杯返杯で育ってんだ!」

 モーリーが笑って「高知? 知らへんなぁ?」と煽る。

「こっ、このぉ!」

 豪田さんが、まぁまぁとみんなを抑える。

「どうだ店長! そういうことだからよ、時間も時間だし、みんなで打ち上げと行かねぇか?」


 俺は時計を見て

「あ、はい! そういうことなら。では、勝者に後日フリーパスを進呈しまーす!」と答えた。


「よっしゃあーーー!! やってやんぞーーー!!」

 皆が一斉に活気づく。

 モーリーがそれを見てボソッと言った。

「ジョーン、ええ店やなぁ」

「……うん、ありがとう」

「これで貸し借り無しや。お互い遠慮なしってことで、ええな?」

「わかった」

 俺とモーリーは拳を合わせた。


 すると、モーリーが皆と笑っている花さんをチラッと見て

「ジョーン、あれは早うせな、競争率高いで」と耳打ちしてきた。

「ちょ!」

「ははは、ほな、先に行ってるからな」

 モーリーと豪田さん達は、まるで昔からの知り合いみたいに騒ぎながら出ていった。

 


「賑やかでしたねぇー」

 そう言って花さんが笑う。

「うん、でも良かった。マジで助かったよ~」

 ヤバい、意識して顔が見れない……。

 くそっ、モーリーが変な事言うから。


「私、役に立てなくて、すみません」


「い、いや、とんでもない! 花さんが来てくれて、俺も本当に安心したというか、その、嬉しかったから……」

 ま、益々、顔が見づらくなってしまったぁー!!

 花さんが今、どんな顔をしているのかもわからない。


「……ありがとうございます」


「い、いえ、こちらこそ……」

 俯いたまま答え、沈黙が流れた。

 何か言わなきゃと考えていると、花さんが先に口を開く。

「あ、あの……私、今日は帰りますね。じゃあまた土曜日に」

「え、あ、うん。本当にありがとう! 気をつけて」

 慌てて顔を上げ、外まで見送った後、俺は、花さんが消えた獣道をしばらく眺めていた。


「い、いかんいかん! 俺は何を……」


 残った片付けを終わらせて、打ち上げ場所に向かう。

 すっかり暗くなった獣道を歩きながら、ふと、空を見上げると無数の星が煌めいていた。


「…………」


 俺は思わず足を止めて、その光景を写真に収めた。


 天の河を挟むベガとアルタイル。

 すっと指を広げて、結ばれぬ二つの星を繋ぐ。


 そこから、少し離れて輝く星が一つ。


「俺はデネブ(こっち)……だよな」

 と星を握った後、俺は再び獣道を歩き始めた。

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