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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第三部

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緊急討伐依頼、魔人種発生 中編

「うわっ!」

 俺は思わずデバイスから目を逸す。

 なんて残忍なんだ、魔人種ってやつは……。


 その時、外からガヤガヤと声が聞こえてきた。

 豪田さん達のグループだ。

 ベビーベロスを狙うと言っていたので、その為に組んだパーティーなのだろう。

「おう、店長! 今日は負けないぜ~」

「ご、豪田さん、ベビーベロスより、厄介な相手が……」

 俺はバーメアスが発生した事と、討伐(ハンティング)依頼(・オーダー)について説明をする。

 豪田さんは頷いた後、振り返って声を張った。

「おい、みんな聞いたよな! 予定変更、魔人狩りだぁ!!」


「おぉーーーー!!」

 威勢の良い声が響く。


「あ、ありがとうございます!」

「なぁに、任せとけって。それよりフリーパスは本当に貰えるんだよな?」

 片眉を上げて俺を見る豪田さんに

「はい、もちろんです!」と答える。

 全員の受付を終えると

「よーし、みんな聞いたな? 早いもの勝ちだぜ!」

 と、豪田さんが声を上げ、それにパーティーのメンバーが応えた。

「ヨッシャー!」「俺のもんだぜ!」

「じゃ、店長! 行ってくるぜ!」

 斧を掲げる豪田さんを俺は見送った。

「はい! おねがいします!」



 ――この時の俺は、どこかで舐めていたのだ。

 矢鱈さんとリーダーが、二人で倒した相手、大勢で向かえば大丈夫だろうと思っていた。

 豪田さんも強い。プロの常連さんもいる。それなのに。

 まさか、あんな事になるなんて……。



 ――地下十階・迷宮フロア。


「おい! 後ろだ!!」

 豪田は仲間のダイバーに向かって叫んだ。

『ケーケケケケケケ!!』

 中空に浮かびながらバーメアスがダイバーの背後にまわった。

「う、うわぁあああ!!」


「やめろぉおおーー!!」


 ――豪田が叫ぶ!

 バーメアスの腕が、躊躇いなど微塵も見せずにダイバーの体を貫いた。

 ダイバーは光の粒になり瞬時に転送される。

『ケケケケケ!! ハァァァァ! 皆殺しだ……』

 金色に光る瞳で豪田を見据えながら、その青い顔がぐるりと一回転する。


「き、気持ち悪いやつめ!」

 顔の回転が止まり、バーメアスの口が大きく開いた。

 涎の引いた無数の鋭い牙を見せ、奇声を上げて豪田に襲いかかった!!


「くっそぉおおおーーーーーーーー!!!!」





 ――カウンター岩前。


 パーティーは全滅だった。

 最後まで残った豪田さんが、たった今、転送された。

「はぁ……はぁ……」

「だ、大丈夫ですか!」

 俺は息を荒くする豪田さんに声を掛けた。


「ああ、大丈夫だ。いやぁ、店長すまん! ありゃちょっと手に負えねぇわ……はは」

 豪田さんがしょんぼりとした顔で笑う。


「い、いえ、そんな……」

 豪田さんのパーティーはロードイベントにも参加していた手練である。

 今回、対ベビーベロス用に面子も揃えたと言っていたのだが……。

 バーメアスは一体、どれだけ強いというんだ?


「ジョーンさん、大丈夫ですか!?」

 振り返ると、花さんが息を切らせながら駆け寄ってきた。


「あ、ああ。花さん悪いね、休みなのに……」

「いいんです、それよりバーメアスは?」

 花さんが尋ねると、豪田さんが

「倒せなかった、すまん」と申し訳なさそうに言った。

「いえ、あの、バーメアスの核が移動する事は皆さん知っていますか?」

「ああ。魔人種は核を持っていて、移動するからな」

「では……強くなっていく事も?」

 花さんがそう言った瞬間、場が静まり返った。



「バーメアスは、相手を倒す毎に強くなる特徴があります。だから、初期段階で倒さないとダンジョン中のモンスが大変な事に……」

 花さんの説明を静かに聞いていた俺は、思わず声を漏らした。

「そ、そんな!」

「店長! こりゃのんびりしてらんねぇぞ! 俺も他の仲間に声かけてみるわ」

 豪田さんは仲間と一緒に連絡を取り始めた。

「す、すみません、ありがとうございます!」


 俺はリーダーに直接電話を掛けた。今は少しでも情報が欲しい。

「あ! リーダー、すみません! バーメアスの弱点を知りませんか?」

『おぉ! 久しぶりだな! バーメアスがまた出たのか?』

「はい、それより、以前はどうやって倒したんです?」

『えーっと、あん時は矢鱈さんがいたからなぁ。トドメは矢鱈さんだよ』

「そ、そんな……」

 矢鱈さんクラスのダイバーなんて、いるわけ……。

『お、おい! ジョーン! 大丈夫か?』

「あ、はい、リーダー、バーメアスは何かを倒す度に強くなるそうなんです」

『え!? そうなの! 俺達が相手したのは、発生直後だったからなぁ……。とにかくジョーン、核を上手く追い詰めろ。そんで残った肉片ごと潰すんだ、それしかない』

「追い詰める……」

『くそっ、俺は九州にいるからなぁ……。ジョーン、お前なら大丈夫だ、こういう時こそ、みんなを頼れ! どうにか切り抜けるしかねぇぞ!』

 そうだ、黙って見ていても何も変わらない。やれることをやるしかない!

「リーダー、ありがとう! 俺、頑張ってみます!」

『おう、一応、俺の知り合いにも声を掛けておくからな、頑張れよ!』

「はい! じゃあ、また」


 俺は電話を切って、花さんに尋ねた。

「花さん、核を追い詰めるってどういう事だと思う?」

「えっと、例えば体をニつに分断すれば、どちらかに核が残りますよね? それを繰り返していくことじゃないでしょうか」

「そっか、うん、そうだそうだ」

 頷きながら、豪田さんに相談をする。

 こうなったら俺も行くしかないだろう。


 しかし、豪田さんは難色を示した。

「うーん、店長の意気込みはわかるが……。正直、戦力不足だ。分断が成功しても、残った核を叩き潰すのがなぁ。俺でもギリギリ通用するかどうか」

「……」

 くそっ、不甲斐ない自分に腹が立つ。



 何か出来ることはないかと考えていると、豪田さんの呼びかけもあって、かなりの人数が集まってきた。中にはフリーパス目当てのプロもいるようだ。


「店長、もう一度行ってみる。プロも数人来てるみてぇだし」

「あ、はい! あの何か出来ることは……」

「ハハハ、店長はどーんと構えときゃいいんだって!」

 そう笑うと、豪田さんはみんなに向かって声を張った。

「さっき説明した通り、分断作戦でいく! 核は俺のチームで潰す。その代わり、フリーパスは討伐後に抽選で決める事にする! だからみんな、悪いが協力して倒そうぜ!」

「おぉーーーー!!」

 みんな納得しているようだ。

 豪田さんはリーダーシップをとるのが上手だなぁ。

 それに比べて俺と来たら……。


 俯く俺に、花さんが

「駄目ですよ、ジョーンさん。店長がそんな顔してちゃ」と微笑んだ。

 うっ! 思わず耳が熱くなった。

 いかんいかん、俺はこんな時に何を!

 しっかりしろ! 壇ジョーン! お前のダンジョン愛はこんなものか!!

「が、頑張ってくださーーーい!!」

 俺は精一杯声を張って、みんなを送り出した。




 ――地下十五階、ケットシーパレス。

「ケットシーさま! すでに十二階まで来ております!」

「ニャムゥ……あれは魔人ニャムね」

 猫又が青褪めた顔で

「どうされます? あわわ……」

 と、ケットシーのマントにしがみつく。

「このままニャと、時間の問題ニャム。パレスを捨てて逃げるニャ!」

「ええ? よろしいので?」

「こんなもの、いつでも建てられるニャム! メルトゴーレムの方から逃げるニャムよ!」

 ケットシーの指示に、猫又たちが一斉に身支度を始めた。



 ――地下十二階・密林フロア。


「いたぞ! B班は東へ! C班は西へ回れ!」

 豪田が指示を出しながら、バーメアスとの距離を測る。


 ゆっくりと密林の中を歩いていくバーメアス。

「こっちに気付いていると思うんだが……」

 プロダイバーの一人が豪田に囁いた。

「ああ、相手にされてないのかもな」

「豪田さん、B班動きます」

「おう」


 バーメアスの足が止まる。

 首だけがゆっくりと西側へ向いた。


 ――B班の急襲。

 三人構成の二組で、バーメアスに襲い掛かった。

 一人の剣がバーメアスの左腕を落とす。

「やったぞ!」

 喜ぶ仲間を豪田が手で制する。

「安心するな、C班に合図だ」

「は、はい!」

 仲間がC班に合図を送ると、東の森からダイバーたちが躍り出て、挟撃の形になった。


「よし、俺達も距離を詰める!」

 走り出す豪田の後に皆が続く。


 が、その時!

「ぎゃぁああ!!」

 バーメアスの左腕が矢のように飛び、周りのダイバー達を貫いた。

「なっ……なんだと!?」


 思わず豪田の足が止まる。

 左腕を肩に戻しながら、バーメアスがこちらを向いて笑っていた。


「B、B班とC班が……一瞬で……」

「く、くそっ! 強くなってやがる……!!」

 ギリッと歯を食いしばる豪田。

 後ろのプロダイバーが豪田に「来るぞっ!」と叫ぶ。


 バーメアスが黒炎のような髪を振り乱し、凄まじい勢いで突進してきた!

『ケケケケ!!!!』

 激しい衝突音が響く。

「ぐ……」

 豪田は、獣神の斧でバーメアスの鋭い爪を受け止めている。

「豪田さん!」

「いいから、早く殺れ!!」

 同時に、プロダイバーが横から鉈を振り下ろした。

『ギィイイイイーーー!!』

 バーメアスの手首が地面に落ちる。

「気をつけろ! 肉片にも気を抜くな!!」

 叫んだ瞬間――豪田の体をバーメアスの手首が貫いた。





 ――カウンター岩前。


「豪田さん!!」

 転送された豪田さんに、みんなが駆け寄った。

「……すまん店長、力不足だ」

「そんな、すみません本当に……」

「かなり強くなってやがる、この調子だと本当に不味い……」

 豪田さんが悔しそうに歯を食いしばった。


 さっきから、新たに駆けつけたダイバー達も挑戦しているが、バーメアスを倒せないでいる。さらに言えば、ダイバー達が倒されて帰ってくる度に、バーメアスが強くなっているという、負のスパイラルに陥っていた。

 くそっ、何か、打開策があれば……。

 俺はカウンター岩に手を付き、叫び出したい衝動を抑えていた。

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