緊急討伐依頼、魔人種発生 前編
――前日、閉店後の迷宮フロア。
ポリポリ……。ポリポリ……。
通路の骨を拾って齧るラキモンの姿があった。
「物足りないラキ……」
ぴょこぴょこと歩きながら、とある小部屋に入る。
「うたちゃん、アレ唄ってラキ~!」
「あれ?」
小部屋の中には、目当ての歌い骸骨は居なかった。
「うーーたーーちゃーーん!!」
ラキモンは大声を出すが、返事はない……。
「いないラキかぁ……んぴょっ?」
床の隅に何やら光る物を見つけた。
黒くて丸い石のような物で、ピカピカと輝いている。
「きれいラキ! おいしそうラキね~!」
そう言うと、迷わず口に入れた。
ガリガリと音はするが、しばらくしてペッと吐き出す。
「ラッキーーッ!! 硬すぎるラキ!」
石を投げ捨てて、通路に出るとまた骨を拾ってポリポリと齧り始めた。
「ふぅ、これが一番ラキね~」
そう言いながら、ラキモンは迷宮の奥へ姿を消した。
――ジョーンの家。
俺は背伸びをして布団から起き上がった。
「快晴、快晴!」
昨日は結局誰もベビーベロスに勝てなかったなぁ。
今度、俺も戦ってみようかな?
鼻歌を唄いながら、Tシャツに着替える。
GOダンジョンの取材も終わったし、フォロワーさんは増えてるし、絶好調じゃない?
自然と身体が揺れる。陽気な気分になっちゃうぜ。フゥー、ヘイヘイ!
「大分、髪も伸びてきたなぁ」
鏡を見ながら、前髪を引っ張る。う~ん、さっぱり切っちゃうか?
でもまた坊主は嫌だし……。
俺はハサミを持って、目に入りそうな前髪だけ少し整える。
「ふ~ん♪ ふふ~ん♪」
さてと、今日は外で食べていこうかなっと。
パルルルルルルル……。
「あー、動いて良かったー」
鍵がささったまま、庭の片隅にあった原付バイクに乗り街へ向かった。
寝起きの身体に、朝のひんやりとした風が心地良い。
「はー、極楽極楽」
やはり田舎は時間がゆっくり流れている。
この前まで感じていた、都会の喧騒が嘘のようだ。
しかし、色々と探してみても、時間が早すぎてうどん屋しか開いていなかった……。
仕方なく、コンビニでパンと唐揚げを買って、ダンジョンへ向かう。
開店準備を終えて、デバイスをOPENに。
すぐに、ベビーベロス狙いのお客さんが来る。
いやぁ、いい仕事するなぁ。
集客効果が高いのは良いことだ。うん。
数分後、カウンター岩前に、ダイバーが転送されてきた。
「え?」
俺は何事だと急いでダイバーに駆け寄った。
「どうしたんです? ベビーベロスですか?」
いや、それにしては早すぎるか!?
「あー、びっくりした。魔人だよ魔人、初めて見た!」
ダイバーはゆっくりと立ち上がった。
「魔人!? 魔人種ですか?」
「多分そう、動画で見たことあったから、店長さん、あれ、そのままにしとくと不味いかもよ?」
「え、どうしてですか?」
「あれは多分『バーメアス』って言って、何でも襲う魔人種だよ」
「何でも?」
「そう、ダイバーも、モンスも見境い無いんだ。俺も一人じゃ勝てる気しないから、今日は帰るわ」
ダイバーはそう言って、帰っていっった。
「すみません、ありがとうございました!」
ダイバーを見送ると、俺は慌ててデバイスを確認した。
マップを見てすぐにわかる。
赤い点が、赤い点を追いかけている……。
地下七階、迷宮フロアか。
ビューに切り替えると「ひっ」と思わず声が漏れた。
迷宮の通路の壁には、破裂したミドロゲルガの体液と肉片が飛び散っていた。
その通路の先には、一体のモンスが歩いている。
よく見ると、人の様な姿をしているが、耳は尖っているし、手には鋭い爪、下半身は山羊の様で、何より肌が青い。全身からは薄っすらと、黒い煙のようなものが揺らめいて見えた。
「あ、あれが魔人……バーメアス……」
ふと、その名前に引っかかるものがあった。
「ん? バーメアス? 何処かで……あっ! そう言えばバックドアが開いた時に、リーダーが言ってたよな?」
俺は、あの時のことを思い出した。確か、手強い奴だと言っていたはず……。
デバイスに目を戻すと、バーメアスはそのまま下に向かっていた。
八階に降りたバーメアスは、ウィスパーやボーンナイトらを、まるで蝿でも払うように倒していく。
こ、これは本当に不味い、いくら復活するとはいえ、片っ端から倒されてしまうと商売にならない。
どうする? 倒しにいくか?
いや、俺じゃ倒せそうにないな……。
ともかく、急ぎネットで情報を集める。
えーっと、魔人種の復活には法則性がなく、大抵の場合は倒すと当分復活しない……か。
となれば、全力でアイツを倒す事だけ、考えれば良いわけだ。
――そうだ!
俺は急遽討伐依頼を行う事にした。
討伐依頼とは、近場のダイバー達に報酬を用意して来てもらう方法だ。
ターゲットを倒したダイバーには、ダンジョン側が用意した報酬を進呈する。
※原則として、イベントの様に特別な入場料は取らない。
まずは、協会サイトに『緊急【 討 伐 依 頼 】ハンター求む! 魔人種『バーメアス』発生!! 討伐者には、当D&M一ヶ月フリーパスを進呈します! ※御本人様のみ』
かなり魅力的な報酬だと思う。これで来てくれるといいのだが……。
俺はサイトを更新した。
次に、花さんへメッセージを送った。
「ごめんね、魔人種のバーメアスってモンスの事、何か知ってる?」
すぐに返事があった。
『バーメアスが発生したのですか!? 早く倒さないと駄目です! 魔人種は核を破壊しない限り倒せません、核は体内を移動し、非常に手強い相手だと聞きます。私もすぐに行きます』
あぁ! そんな、悪いことしたなぁ……。
でも、来てくれるなら心強い!
「すみません、助かります! 後で埋め合わせしますから!」
俺はそう返事を送って、デバイスを見る。
ちょうど、バーメアスがバルプーニの首をちぎっていた……。
中編へ続きます。
※バーメアス26・27話参照。





