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雑誌の取材を受けました。

 ――岩を引きずるような音で、ベビーベロスが唸っていた。

 ダークピンクの身体、三つに別れた愛くるしい顔がそれぞれに違う方向を向き、口元には左から青い炎、白い炎、赤い炎が揺らめく。

『ゴルルルルル……』

 次の瞬間――それぞれの口から、別々に炎が噴き出す!

 凄まじい火柱が回転しながらダイバー達を襲う。

 炎が地面に涎のようにぼたぼたと落ち、その炎は消えずに燃え続けていた。


「や、やべぇ、一旦逃げろ!」


『グルルゴアアアッ!!!』


 三つの頭が咆哮をあげ、逃げるダイバーに炎を吐く。

 一人のダイバーが青い炎に包まれてフッと消えた。



 ――カウンター岩前。

 転送されたダイバーがその場に座り込んだ。

「大丈夫ですか!?」

 俺はダイバーに駆け寄る。

「あ、ああ……、大丈夫。いやぁ、強いわ」

 ダイバーはそう言って残念そうに頭を振った。

 

「ま、仕方ない。また来るよ」

「お疲れ様でした、ありがとうございます」

 肩を落とすダイバーに丁寧にお礼を言う。

「うん、次は面子を揃えて来るから」

 軽く手を挙げて、ダイバーは帰っていった。

「ありがとうございます!」


 ダイバーを見送った後、カウンター岩へ戻った。

 うーん、ベビーベロスがここまで強いとは……。

 さすが上位種と言うべきか。

 ちょっと俺も甘く見てたよなぁ……。


 ベビーベロスは今のところ無敗である。

 色んなダイバーが挑んだ。

 もちろん豪田さんや森保さん達が、パーティーを組んで挑んだりもしたのだが、どうにも一歩届かずといった状況で、他のダイバー達も同様であった。

 矢鱈さんがいれば、また違った結果になったかも知れないが……。


 だが、お蔭で新規のプロっぽい人が来てくれるようになった。

 リーダーにもメッセージで伝えてみたが、今は山口県を廻っているそうで来れないらしい。

 ちなみに、クライヴォルグの強化は順調みたいだ。


 デバイスでベビーベロスを確認すると、戦いが終わってリラックスしているのか、右の頭が地面をクンクンと嗅いでおり、真ん中と左は溶岩をぺろぺろと舐めている。その後、ブルブルッと身体を震わせてフロアを巡回し始めた。尻尾がパタパタしていて可愛い。

 

「うーん、犬みたいだ……」



 ――閉店後。

「すみません、月刊GOダンジョンの小日向ですが」

 来た!

 口髭を生やした優しそうな人だ、機材を両肩にかけている。

「はい、どうも! 店長のジョーンです」

「今日は宜しくお願いします。早速ですけど、ベビーベロスの写真を撮らせて頂いても大丈夫ですか?」

「あ、はい! えっと、どうしましょう? メンテにしましょうか?」

「なるべく、そのままを撮りたいので、OPENで入らせてもらえますか?」

「え、大丈夫ですか? 一応上位種ですし……」

 俺が心配そうに尋ねると小日向さんは

「これでもプロですから、撮るだけで戦いはしませんし。こう見えて逃げるのは得意なんです」と笑う。

「そ、そうですか。じゃあ……本当に大丈夫です?」

「ええ、ご心配なく」

「わかりました」

 俺はデバイスをプレOPENに切り替えた。

 最新機種は本当に便利だ。

 IDだけ通す。小日向さんがカメラを首から下げて「じゃ、すぐに戻ります」と言ってダンジョンへ向かった。


 デバイスで小日向さんの動きを追う。

「す、すげぇ……」

 素早い動きでモンスの死角に入り、するすると階層を下っていく。

 こんなにも避けれるものなのか……。

 さすがは、月刊GOダンジョンの記者だと俺は感心する。


 小日向さんが十六階に着き、ちょうど迷宮フロアと洞窟フロアの境目あたりに身を隠した。

 うーん、あのポジションは……溶岩が目の前にあるからかな?

 そして、地面に寝そべるようにして、カメラを構えるとベビーベロスが来るのを待っている。

「ベビーベロスはどこに行ったんだ?」

 ビューを動かして探すと、ちょうど小日向さんの方へ向かっていた。

「よしよし、その調子」

 カメラを向ける小日向さんの前に、ベビーベロスが近づいて行き、溶岩を舐め始めた。

 しばらくして、小日向さんがゆっくりと後退する。

 身を起こして素早くベビーベロスの視界から消えると階段へ走った。


 少し経って、一階に小日向さんが戻ってくる。

「どうも、良いのが撮れましたよ」

「い、いやぁ! 凄いです! 驚きました!」

「いえいえ、専門ですから当然です」

 小日向さんはカメラの液晶画面を見せてくれた。

「うわぁ! 迫力ありますね!」

「でしょ? ははは。じゃあ写真は終わりましたので、簡単な質問を良いですか?」

「あ、はい!」

 俺は椅子と麦茶を用意して、小日向さんに「どうぞ」と言う。

「ありがとうございます、では……」

 向かい合って座る。

 小日向さんが麦茶を一口飲み、口を開いた。

「えー、発生したのはいつ頃でしょう?」

「昨日です。元はケルロスでした」

「なるほど、なにか変わった条件というか、きっかけみたいなものはありますか?」

「えーと……」

 俺は小日向さんに、花さんから教えてもらったフロア構成や、溶岩を増やした事などを説明した。


「なるほど、興味深いですねぇ」

 小日向さんはうんうんと頷き

「わかりました、では、記事があがりましたらお知らせします」と席を立った。

「あ、はい。ありがとうございます!」

 機材を片付けながら小日向さんが、ふと俺を見た。

「あ、ベビーベロスの写真、使いますか?」

「え! 良いんですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。じゃあ後でメールでお送りしますよ」

「ありがとうございます!」

「ははは、いえいえ。それじゃ、今日はありがとうございました、失礼します」

「お気をつけて!」

 機材を抱えたまま、頭を下げて小日向さんが帰って行った。


 いやぁ~、これで俺もGOダンジョンデビューかぁ……。

 どんな記事になるんだろう。

 わくわくするなぁ……。


 後片付けを始めて、帰り支度が出来た頃、スマホにメールが届いた。

「お! 来たかな?」

 見ると小日向さんからだ!

 ベビーベロスの写真が添付されている。

「おぉ~!! カッコいいな!!」

 これはSNSにアップしておかないと……ククク。

 写真をアップ、取材の事も言いたいが我慢だ。

「さてと、帰りますか」

 俺は荷物を持って家路についた。




 ――数時間前、ベビーベロス交戦中の裏では……。


 地下十五階、ケットシーパレス内。

「ニャムゥ、一体ニャにがあったニャムか……」

 しかめっ面のケットシーが唸った。

「物見によりますと、昨日の夜に様子が変だったと申しております」

 側近の猫又が膝をついて上申する。

「あの犬コロめ。目障りニャムゥ……ニャんとかニャらんものニャムか?」

 猫又たちが顔を見合わせて、一匹の猫又が一歩前に進み出た。

「某に考えがござりまする」

「ニャム! 申してみるニャム!」


「はっ、9階に歌い骸骨という者がおりますれば、其の者を使えばあの犬めも……」

 猫又が頭を下げる。

「ニャム? 歌い骸骨とはニャにものニャムか?」

「はっ、それは恐ろしい歌を唄う骸骨であります」


 ケットシーが身を乗り出して訊く。

「ニャムゥ……で、その歌を訊くとどうなるニャム?」

「はっ、たちまちのうちに泥酔した様になり、身体の自由を奪うのです」

「それは良い。さっそく呼んでくるニャム!」

「はっ、畏まりまして候!」

 猫又たちがシャシャシャと黒い影になり、パレスから飛び出していった。


 しばらくすると、琵琶と骸骨を抱えた猫又たちが戻ってくる。

「おぉ~! 来たニャムか!」

「お待たせ致しましたケットシー様。こちらが歌い骸骨殿でござる」


 猫又が歌い骸骨を座らせて、琵琶を渡す。

 歌い骸骨はベンベンと音を出すとカクンと頭を下げた。


「ニャム、そなたのことは聞いたニャムよ。ニャム、犬コロにもその歌は効くのニャムか?」

「……」

 歌い骸骨は何も答えない。

「ニャム? どうしたニャムか?」

 ケットシーの呼びかけに猫又たちが歌い骸骨を覗き込む。

「歌い骸骨殿?」

 返事がない。

 猫又たちが、歌い骸骨の目の前で手を振る。

「どうしたニャムかね? これ以上死ねニャいはずニャ?」

 すると、歌い骸骨がベンベンと琵琶を弾き始めた。

「お! 動けるニャムね、よか……」

 

 ベンベンベンベン……。

『◎×▽…&%$◎◎~!”#$%&~~』

 歌い骸骨がこの世のものとは思えぬ歌声で唄い始めた。


「ニャ、ニャムゥ……、や、やめるニャム……」


 ベベン、ベンベンベン……。

『◎×▽…&%$◎◎~!”#$%&~~』


 パレス中の猫又たちがフラフラと歌に合わせて踊り始めた。


 ベベン、ベッベッベンベンベベベ……。

『◎×▽…&%$◎◎~!”#$%&~~』


 一段と激しくなり、琵琶ソロが始まる。

 ベンベロ、ベンベロ、ベンベンベンベロ、ンッベ! ンッベ! ベロン、ンベッベッ!

 一拍おいて、琵琶をかき鳴らす。

 ベベベベベベベベベ……。

 そして、また唄い始めた。

『◎×▽…&%$◎◎~!”#$%&~~』


 遂に、最後まで抵抗していたケットシーも踊り始める。

「ニャ、ニャムゥ~……」


 歌い骸骨を円で囲むように、ケットシー達はぐるぐると周りながら踊る。

 その日、パレスでは遅くまで奇妙な宴が続いた……。



 所持DP   1,854,532

 来客  96人   48,000

 染色  10回    2,500

 特注   3点    2,700

 石鹸  16個    1,600

 ガチャ 37回    3,700

―――――――――――――――――

        1,913,032

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