希少種が発生しました。
朝。目覚めてすぐにスマホを見た。
昨日はすぐに寝てしまったからなぁ……。
「ふぁっ!?」
SNSのフォロワー数を見て驚く。
夜中の間に、何があったんだ……?
俺は早速呟いてみた。
『フォ、フォロワーさんが増えてる!』
しばらくフォロワー60人という数字を見つめた後、カーテンを開けて背伸びをした。
うーん、用意するかなぁ。
軽くシャワーを浴びて、着替えを済ませる。
おにぎりを握る前にSNSで呟いた。
『おにぎり握るなう、D&M10時からで~す!』
さりげなく店の宣伝も入れてっと……。
昨日まではフォロワーさんが一人もいない状態で、独り言状態だったが、今の俺には、60人ものフォロワーさんがいる! そう考えると、テンション上がるなぁ。
用意を済ませると、俺はダンジョンへ向かう。
口笛を吹きながらフェンスを開けて、カウンター岩に荷物を置く。
タブレットを手に取り、フロアのチェックを始めた。
「ちょ!! ケルロスが……!!」
地下十六階に寝ているケルロス、いや、ケルベロスと言っても良いのだろうか?
少し小さくなった気がするが、頭が三つになっている!
あれ? ここからまた、大きくなっていくんだっけ?
ちょっと、これは花さんに訊いたほうが良さそうだな……。
俺は花さんにメッセージを送った。
『おはよう! ごめん、ちょっと質問なんだけど、これってケルベロスになったってことかな?』
デバイスの画面を写真に撮って添付。
よし、後は返事待ちだ。
メッセージを送った後、開店準備を始める。
ガチャの補充や、染め物の準備、掃き掃除などを終わらせて、丁度開店時間となった。
「ふぅ……」
『開店しました、ご来店お待ちしております!』
カウンター岩で、麦茶を飲んでいると矢鱈さんがやって来た。
「ジョーンくん、おはよう!」
「おはようございます!」
今日も白い歯を輝かせて微笑む。
「昨日はありがとうね、まさか来てくれるとは思わなかったよ」
「いえいえ、あの本めっちゃ面白いですよ! 僕も海外ダンジョン行ってみたいです、ちょっと怖いですけど……」
俺は興奮気味に感想を伝えた。
「ホント? ありがとう! あ、そうそう、俺、引っ越しする事になって」
矢鱈さんは特に表情を変えずに言った。
「……え!?」
「次は九州に行こうと思ってさ」
「そ、そうなんですか……」
俺が呆然としていると
「ちょ、そんな、二度と会えないわけじゃないから」と笑いながら言う。
「は、はい……」
それはわかっているけど、やっぱり寂しいよな。
「ジョーンくんとはもう友達だし、僕は仕事で日本中飛び回ってるから、またすぐに顔出すって」
そう言って矢鱈さんが親指を立てた。
「わ、わかりました! いつ行かれるんですか?」
「うん、これから」
「ブーーーーーーーーーッ!!」
思わず麦茶を噴き出す!
「す、すみません! これからって……今ってことです?」
俺はこぼれた麦茶を拭きながら訊く。
「そうそう、もう行かないと、下に車待たせてあるから」
「え、もう……? 突然すぎじゃないですか?」
「ははは、このぐらいが僕には丁度良くてね」
思わず顔を見合わせて、吹き出してしまった。
「ふふ、はははは!」
矢鱈さんらしいと言えば矢鱈さんらしいな。
浮世離れしていると言うか、普通の人とはギアが違うと言うか。
「じゃ、ジョーンくんまたね、元気で」
「はい、矢鱈さんも、お元気で。待ってますね!」
最後までシュッとしてるなぁと俺は感心しながら、矢鱈さんを見送った。
少し寂しくなるけど、また来てくれるみたいだし、俺にはフォロワーさんもいるし。
よ~し、頑張るぞ~!
程なくして、花さんから返信が届いた。
『おめでとうございます! ちょっと驚きました、これはケルベロスですが『ベビーベロス』と言うとっても珍しい種ですよ! 小さいですが、上位種です!』
ベビーベロス!? 初めて聞く名前だな……。
俺はスマホで検索してみる。Wikiがヒット。
【ベビーベロス】
・ケルベロスの変異種。特徴は身体が成体のケルベロスの半分ほどの大きさであり、個体数が極端に少ない。可愛らしい見た目ではあるが、攻撃的な性格と言われている。
こ、これはもしかして、かなりラッキーなのではっ!?
俺は花さんに返事を送る。
『いやぁ、花さんのアドバイスのお蔭だよ! 朝早くにごめんね、ありがとう!』
すぐに返事が届く。
『とんでもないです、では頑張ってください!』
いい子だなぁ、俺はしみじみと思いながらタブレットでベビーベロスを見た。
確かに小さい。
三つの頭がそれぞれに何かをクンクンと嗅いでいて、まるで犬のようだ。
とても攻撃的には見えないけど……。
とにかく、すぐに告知をしておこう。
俺は協会サイトに『ケルベロスのレア種、ベビーベロス爆誕!!』と告知文を入れた。
かなりレアみたいだし、お客さん来てくれるといいなぁ。
と、そこに紅小谷からメッセージが届いた。
『ベビーベロスが発生したのね~、おめでとう』
「早いね! そうなんだよ、ちょっと可愛らしい感じw」
『後で写真送ってよ』
「わかった。あ、矢鱈さん九州に行くって。さっき来てもう行っちゃったよ」
『え? ありがとう連絡してみるわ、じゃね』
さすが紅小谷、早いなぁ。
常に公式をチェックしているんんだろうか?
スマホを眺めていると豪田さんと森保さんがやって来た。
「おっす店長! 見たぜ、SNS!」
「私もフォローしちゃった」
「え? ホントですか!! ありがとうございます!」
俺は麦茶を差し出す。
「まあ、今日はベビーベロス? っていうの見に来たんだよ」
豪田さんが満面の笑みを浮かべている。
「あ、ああ、見てくださったんですね? なんか希少種らしくて」
「豪田くんは犬派だからねー」
森保さんが覗き込むように豪田さんを見た。
「べ、別にそういうわけじゃないけどな」
少し顔を赤くして、豪田さんが頬を掻いた。
「へぇ、犬派なんですね」
「ど、どっちかと言えばの話だからな? じゃあ店長行ってくるわ」
「じゃあねー」
「あ、はい。お気をつけて」
二人を見送った後、立て続けにお客さんが来店する。
「いらっしゃいませー」
聞くと、やはりベビーベロス狙いだと言っていた。
早くも集客効果があるとは、これはエースの予感!
順調に客足が続く。
染め物も今日は意外と注文が多いなぁ。
午前中は、カウンター岩と染め物の場所を行き来しながら、あっという間に時間が過ぎる。
「ガチャの補充をしないと……」
予備のカプセルを補充して、カウンター岩で珈琲を飲んでいるとスマホが鳴った。
見たことのない番号だ。誰だろう?
「もしもし……」
『あ、D&Mさんでしょうか?』
「はい、そうですけど」
『私、月刊GOダンジョンの小日向と言いますが、今お時間大丈夫ですか?』
げ、月刊GOダンジョン!?
「は、は、はい! だ、大丈夫です!!」
『ええと、D&Mさんのサイトを拝見しまして、ベビーベロスが発生したと言う紹介を見たのですが、こちらを取材させて貰えないかなと思いまして』
「しゅ、取材ですか!!!」
『どうでしょう、もちろん謝礼はお支払い致しますので』
「も、もちろんです!! お願いします!」
『ありがとうございます。では、都合の良いお時間をお伺いしてもいいですか』
ヤバい! めっちゃ手に汗が!
汗を拭いながら
「えっと、開店前か、閉店後ならいつでも!」と答える。
『じゃあ、閉店後によろしいですか?』
「はい、大丈夫です!」
『では明日の閉店後に、取材は30分程度で終わりますので。私、小日向がお伺いします、宜しくお願いします』
「はい、ありがとうございます! お待ちしております!」
て、手が震えとる……。
お、俺が、あの月刊GOダンジョンの取材を受ける日が来るなんて。
ダンジョン沼時代からの愛読書であり、俺のバイブル。
ああ、この感動をフォロワーさんに伝えたいが……。
取材前だから言っちゃ駄目だよなぁ、明日、小日向さんに訊いてみよう。うん。
うわー、言いたい、ぐぅーー。
あ、そうだ、ファンとしては、電子書籍版も出して欲しいと伝えなければ。
あー、そわそわしちゃうなぁ。
それとなく呟いてみようかな。雑誌の紹介ぐらいなら良いよね?
『僕の愛読書、月刊GOダンジョン。街角モンスのコラム、おすすめです!』
ふふふ……、これで実際にD&Mの記事が載ったら、みんな驚くかな?
俺はニヤニヤと妄想しながら珈琲に口をつける。
お! お客さんだ。
「いらっしゃいませー!」
所持DP 1,801,732
来客 86人 43,000
染色 16回 4,000
特注 2点 1,800
石鹸 11個 1,100
ガチャ 29回 2,900
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1,854,532





