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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第三部

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閑話 ジョーンの休日

 今日はダンジョンの休業日。

 俺は『本は揃えてナンボの宮鰐書店(みやわにしょてん)』に来ている。

 店前には既に並びの列の最後尾が、入口から少しはみ出していた。

 

『いやぁ~凄い行列だ』

 俺はさりげなく写真に撮り、並びの人をボカシ加工してからSNSにアップした。


 お気づきだろうか?

 そう、私ジョーンこと壇ジョーンは、この度、色々な方のすすめもあり、正式にSNSデビューをしたのであります! 元々、連絡用にアカウントを持ってはいたのだが、実際に自分で何かを発信したことは無かったのだ。

 まぁ、まだ始めたばかりなので、フォロワーさんはいないんだけど……。


 さて、何故宮鰐書店に来ているかというと、今日は矢鱈さんの新刊『矢鱈掘介が行く! アジア秘境ダンジョンツアーガイド2018』の発売日。そして、ここ宮鰐書店で矢鱈さんのサイン会が行われるのである!


 俺は最後尾に並び、順番を待つ。

 矢鱈さんの人気は知っているが、ここまで人が集まるとは……。

 じりじりと太陽が照りつける。並んでいる人達も暑そうだ。

 徐々に前へとに進み、やっと店内まで入った。

 ふぅ~涼しい、お! 矢鱈さんだ!

 遠くに矢鱈さんがサインをしているのが見えた。

『矢鱈先生がサイン中! 順番もう少し!』

 またもSNSにアップしてみた。うーん、なかなか面白いな。


 遂に俺の順番が来た。

「おはようございます、矢鱈さん」

「おぉ! ジョーンくん! わざわざ来てくれたの?」

 矢鱈さんが驚いた顔を見せた。

「へへへ、今日はいちファンとして来ました~。先生! サインをお願いします!」

「ははは、ありがとう。ジョーンくんへでいいかな?」

「あ、D&Mさんへでお願いします」

「わかった、D&Mね」

 矢鱈さんは慣れた手付きで、シュッとサインを書き終える。

 やっぱプロだなぁ。

「はい、ありがとう」

 手渡してくれたガイドブックを抱きしめるようにして

「ありがとうございます!!」と俺は頭を下げた。

「じゃ、また今度」

「はい、お待ちしてますから」

 そう言って、ささっと後ろの人に軽く頭を下げてから店を出た。


 外に出て、ガイドブックの表紙を眺める。

 おぉ~、カッコいいなぁ。

 木の根と洞窟が一体になったような入口の前で、矢鱈さんが立っている。

 これは多分、海外のダンジョンの入口かな?

 現地のダイバーらしき人も、たくさん写っている。

 皆、これでもか! というぐらいの笑顔だ。


 俺は上機嫌でそのままカフェコーナーに入った。

 カウンター席に座り、早速本を開く。


〈現地ではコーディネーターに注意〉

 兎角、日本人というのはカモにされやすい。

 押しに弱い人が多いイメージなのだろうか? ダンジョンへの道案内を頼むと、必ずと言っていいほど、海千山千の胡散臭い連中が集まってくる。だが、彼らに悪気はない。彼らは彼らで仕事をしているに過ぎないのだから。彼らと上手く付き合うには、現地の相場を正しく知る事。そして、はっきりと自分の主張をすることだ。


〈各地域のガイド一日当たりの報酬相場〉

 ・フィリピン  300DP

 ・インドネシア 280DP

 ・ラオス    240DP

 ・ベトナム   200DP

 ・カンボジア  180DP

 ・ミャンマー  150DP

 おおよその目安。これを基本として、良いガイドなら別でチップを用意したい。

 気をつけるのは、渡しすぎない事。相場以上に払いすぎるとカモにされたり、襲われたりする危険がある。


〈とある老ダイバーの話〉

 ミャンマーである老人と仲良くなり

「その昔、天から二人の神が降り立ち、聖なる種をこの地に埋めた。長い年月をかけ、その聖なる種はこの地に根付き、我らにダンジョンをもたらしたのじゃ」とまあ、こういう話を聞いた。

 老人はこの辺りでは最古老のダイバーで、いまだに現役。もう、深い階層には行かないらしいが、それでも凄い。使っている武器は古びた短剣のみ。一緒に潜らせて貰ったが、その動きは熟練ダイバーでさえ、一目置くほどのキレがあった。

 町の入口には言い伝えられている二人の神の像が立っている。左が『प्रकाश(プラカッシュ)』右が『अंधेरा(アンディヒラ)』、日本語では光と闇という意味になるそうだ。年に二回、町ではこの二人の神を祀り、盛大に宴が行われるとの事。

 ・矢鱈さんと老ダイバーが肩を組んでいる写真



 なるほどなぁ……。

 俺は珈琲を飲みながら頷く。

 旅行記風の短い日記があり、カラーページが豊富で写真だけでも楽しめる。

 各地域のおすすめダンジョンなんかもあって、

 これは家でじっくり読もう。

 そうだ、宣伝もしておこう!

 宣伝と言ってもフォロワーさんはいないけど……。


 本の写真を撮ってアップした。

 珈琲をぐいっと飲み干し店を出る。

 しかし、暑いなぁ……。

 滲む汗を拭きながら、俺は家へ帰ることにした。


 家へ戻り、部屋で短パンとTシャツに着替え、布団の上に寝っ転がった。

 しかし、フォロワーさんというのはどうやったら増えるんだろう?

 何気なく紅小谷のアカウントを見てみた。


「え?」


 フォロワー数がとんでもない事になっている!

「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅう……」

 ちょっと意味がわからない。そんなにも増えるものなのか?


 うーん、ま、まあ、さんダの管理人だしなぁ……。

 他の有名なアカウントと比べても、やはり桁違いのフォロワー数だ。


「やっぱ凄いよな……」

 うーん、でも俺は俺。あまり気にしないでおこう……。

 とは言っても、やっぱり気になるものは気になる。

 イベントとかを呟けばいいのだろうか?

「そうだ、訊いてみればいいか」


 俺は紅小谷にメッセージを送ってみた。

「オレオレ、紅小谷みたいにフォロワーを増やすのってどうすればいいの?」


 しばらくしてスマホに返信が届いた。

『ジョンジョン、そういう質問はヤメてくれる? 答えようがないわ』

「ごめん。ちょっと気になっちゃって」

『あまり気にせずに、ダンジョンの事でも呟けば?』

「うん、わかった」

『じゃあね、私も後でフォローしとくから』

「ありがと!」


 ダンジョンの事か……。

 うーん、気になって仕方ない。

 数分おきにスマホをチェックしてしまう。

 何でだろう、別にSNSには興味無かったのになぁ……。

 

 その日、俺は遅くまでスマホを眺めて過ごした。

 検索履歴には「SNS フォロワー 増やす」などのワードが並ぶ。

 色んなサイトを見て疲れた俺は、いつの間にか眠っていた。


 ――壇ジョーン垢、いまだフォロワー降臨せず。

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