改装をしました。
翌日、俺は朝早くダンジョンへ向かった。
――足取りが軽い。
それもそのはず、俺の手には天才(花さん)の書き記した計画書が握られているのだからな!
ガラガラとフェンスを開け、そろそろ油をささないとなぁと思いつつ、カウンター岩へ向かう。最新型のデバイスを前に、俺は手をすり合わせて
「さぁ、やるぞぉ~」と意気込んだ。
花さんと相談した結果、手前半分は迷宮フロアにする事になった。
フロアの改装は上位種モンスの召喚に比べれば安いものだ。
「えーと……え!?」
デバイスの画面を見て俺は驚く。
フロアに配置する操作性が格段に上がっている!
なんと、マップに小さなグリッドが表示され、細かな位置調整ができるようになっていた。素晴らしい! 早速、迷宮用の壁を選ぶ。
・煉瓦壁(ビンテージ風)×1……600DP
・古代壁×1……750DP
・蔦付き石壁×1……600DP
・石壁(光沢あり)……800DP
「確か壁は何でも良いって言ってたよな」
俺は一番安い煉瓦壁を手前半分のブロックに配置する。
その際、少しだけ迷路状に配置、計50ブロックを使用した。
「よしよし、次は溶岩を……」
・溶岩×1……1200DP
・溶岩泉×1……2500DP
あれ、どっちがいいんだ?
溶岩泉は、えーと、次々に湧き出します、か……。
うーん、あんまりあっても困るだろうし、ここはノーマルで。
溶岩を一か所にかためて4ブロック配置。
さて、あとは木を……。
計画書を見ながら、慎重に場所を調整してガジュラの古木を7ブロック配置する。
最後にモンスを召喚。
スケルトンを5体迷宮側に召喚、奥にスライム、フレイムジャッカル、デスワームを配置して、えー、デスワームはなるべく他のモンスから離して配置っと。
「よっし! 配置完了!」
ビューでフロアを確認する。
おぉ! めっちゃ良い! さすがだなぁ……花さんすげぇわ。
俺がデバイスを見ながらうんうんと頷いていると
「おはようございまーす」と声が聞こえた。
振り返ると花さんがこちらに駆け寄ってきて
「あ、配置終わったんですか! 見せてもらっても?」と声を高くする。
「もちろん、相談したとおりに配置してみたんだけど……どうかな?」
花さんは、食い入るようにモニタを見つめてフロアをチェックする。
「うんうん、完璧ですっ! ジョーンさん!」
満面の笑みで振り向く花さん。
「ありがとう! 良かったぁ~」
これで十六階は当分様子見になるな。
そうだ、早くイベントの用意をしなければ。
「ねぇ花さん、水蜘蛛イベントなんだけどさぁ」
「あ、早くやりたいですよね」
「うん、それで何か気になる事とかないかな?」
俺はイベント内容のメモを見せた。
「えーと、岩なんかの配置はこの前終わってますもんね……。気になるとしたら、ドラゴンフライかなぁ……」
「え?」
「あ、いえ、水蜘蛛の方が中位種なので個体そのものの強さは上です。でも、相性が悪いんですよ~。水蜘蛛の張る網は粘着性がある水糸なんですけど、ドラゴンフライの吐く火球ですぐに破られてしまうんです。例えばダイバーが戦っているときに、ドラゴンフライが横から網を溶かしちゃう可能性も出てきますし……」
「そっか、難易度が変わってしまうのか」
花さんがモニタを見ながら頷く。
「はい、なので……水蜘蛛3の土蜘蛛2ぐらいの割合をキープしながら、常時投入を調整してあげれば良いかもです」
顎に手を添え、真剣な表情の花さんはまるで学者のようだった。
「な、なるほど!! いやぁ、ホントに勉強になります!」
「そ、そんなぁ、やめてくださいよぉ」
あわあわと恥ずかしそうに花さんが手を振った。
その可愛らしい姿に、思わず頬が緩む。
いかんいかん、しっかりせねば。
「投入の操作もあるし、来週の日曜日でどうかな」
「いいですね、私も気になりますから嬉しいです」
「よし、じゃあ決まりだね!」
俺は協会サイトにイベントの告知を入れた。
『来週日曜日開催 D&M納涼祭! 増え続ける恐怖のW連鎖……水蜘蛛&土蜘蛛連続投入イベント決定!』
当日限定で、地下十三階の池に連続投入、奮ってご参加下さいませ!
こんなもんかな。
これで後はイベントを待つのみ!
「いらっしゃいませー」
花さんの声に振り返ると、絵鳩&蒔田コンビが立っていた。
「こんにちは」
「……は」
相変わらず蒔田の声は聞こえない。
「あ、ああ、いらっしゃい」
絵鳩がタブレットに気づき、あれあれと指さして蒔田に教える。
二人とも新しいタブレットに興味津々だが、触っていいものかどうか様子を探っているようだ。
「あ、それ新しくなったんだ。いいでしょ? 最新型だよ」
俺がそう声を掛けると、二人はおぉ~っとタブレットを触リはじめる。
しばらく遊んで満足したのか、装備を決めて
「おねがいしまーす」とタブレットをカウンター岩に置いた。
「はい……ってこれ何?」
丸い筒のような、笛? 何だろう?
すると絵鳩が、ふふんと鼻を鳴らして
「秘密兵器」と言った。
「ひ、秘密兵器……」
蒔田が絵鳩に何か耳打ちをする。
絵鳩がうんうんと頷いた後
「これは革命をもたらすと言ってる」と言った。
「革命?」
横で花さんも不思議そうに筒を見ている。
すると、蒔田が口を開く。
「……れは…の…毛を……にして……なん…す」
ちょ、マジで何言ってるかわからん。
「えっと……」
俺が困惑していると
「えー、そうなんですか!? すごい!」と、花さんが驚く。
ちょ、花さん聞こえたの!?
もしかして、モスキート音的な!?
「え、ちょ、ご、ごめん、もう一回いいかな? ははは」
笑って誤魔化しながら、俺が訊くと花さんが代わりに教えてくれた。
「これは牛鬼の産毛を弾に加工して、吹矢にしてるんですよ!」
「な、なるほどぉ! 蒔田すげぇな!」
確かに牛鬼の産毛は硬い。
防具の素材に使うのが普通だが……いや、この発想は無かった。
どのぐらいの威力があるんだろうか?
「離れた敵も余裕」
そう言って、絵鳩と蒔田がニヤリと笑った。
「そ、そうか。それは捗るよな。うん」
二人は顔を見合わせて
「じゃ、行ってきます」と、軽く手を振ってダンジョンへ入って行った。
「お、おう、頑張ってな」
「いってらっしゃいませ」
驚いた、あんなの初めて見たなぁ。
「蒔田さんは器用ですねぇ」
「あ、うん、確かに」
俺は二人の様子をデバイスで追ってみた。
へぇ、動きが大分良くなってるなぁ。
元々、運動神経が良いのかな?
お! 吹き矢使うみたいだぞ。
マッドグリズリーと対峙する絵鳩の後ろで、吹き矢を構える蒔田。
吹奏楽部みたいだなと俺が笑おうとした、その時。
絵鳩がさっと身をかわして横に避け、蒔田の吹き矢から火花が散る!
マッドグリズリーのお腹に丸い穴が開いた。
「ま、マジかよ……ど、どういう仕組みなんだ?」
二人は楽しそうに飛び跳ねている。
お、恐ろしいもん造りやがって……。
「どうかしました?」
驚いている俺に花さんが尋ねる。
「あ、いや、二人とも成長したなぁって。ははは……」
「?」
花さんは不思議そうな顔で俺を見た後、ガチャの補充へ向かった。
その後、何人かのお客さんの受付を済ませると、ダンジョンから絵鳩と蒔田が帰ってきた。
「お疲れ様」
「おつかれです」
絵鳩はふぅと息を吐く。
「しかし、それ凄いな?」
吹き矢を指さして蒔田に訊くと、代わりに絵鳩が答えた。
「メガ牛鬼砲、すべてを灰にする」
「ちょ、確かに凄かったけど……」
二人はクククと悪戯な笑みを浮かべて
「じゃあ、また来まーす」と軽く頭を下げて帰って行った。
「ありがとう、またー」
「ありがとうございました」
花さんがクスッと笑って言う。
「可愛らしい二人ですね」
「え、ああ、そうだね……」
花さんが昔の絵鳩を見たら驚いただろうな……。
俺は想像すると可笑しくなって思わず吹き出す。
「どうしたんですか?」
「い、いや、なんでもないよ! さ、今日も頑張ろう!」
「は、はい……?」
キョトンとする花さんを横目に、俺は仕事に戻った。
所持DP 1,537,732
来客 97人 48,500
染色 15回 3,750
特注 3点 2,700
石鹸 18個 1,800
ガチャ 55回 5,500
改装費 -79,900
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1,520,082





