表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/214

お土産をもらいました。

 雨もすっかり上がり、気持ちの良い朝だった。

 ジジジジジ……と蝉の鳴く声が聞こえる。

 すでに日差しは強く、猛暑日を予感させた。


 ダンジョンへ着き、荷物を置いた後、首からタオルをかけた俺は、麦わら帽子を掴んで、獣道の補修に向かう。

 昨日見た時に、かなり凸凹になっていたからなぁ。

 環境整備は管理者として当然の務めだ。

 幸い農作業道具は、実家に揃っているので、納屋からネコ(農作業用一輪車)にシャベルを乗せて、補修用の土を採りに裏山へ向かった。

「ふぅ……」

 道具を運ぶだけで汗が吹き出る。

 タオルで汗を拭い、早速土をネコに入れて行く。

 山盛りになったところで、獣道へ向かい凹んだ部分に砂利を入れ、その上から土を盛る。

 獣道は緩やかな坂になっていて、かなりの重労働だった。

「う……お、重い」

 一つの穴を埋め、シャベルで均して踏み固める。

 濡れたTシャツを脱ぎ、上半身裸で作業を続けた。

 雨上がりで、完全に乾いていない地面からの、モワッと立ち上がる湿気が容赦なく体力を奪う。

 一旦、水を取りに実家へ戻り、頭から水を被った。

「ふー、気持ちいい」

 濡れたままで作業を続け、穴を埋め終わる頃にはヘトヘトになっていた。

 農具を片付け、整備の終わった獣道を眺めて頷く。

「あー、何とか開店までに間に合ったな」


 俺はカウンター岩へ戻り、新しいTシャツを着て椅子にもたれた。

 麦茶を飲みながら、ふと思い出す。

 そういえば、ケットシーの姿を見ていないなぁ。

 ちょっと覗いてみるか。

 俺は時計を見て、まだ間に合うなと十五階へ行き、ケットシー・パレスへ向かった。

 草をかき分けて進んでいくと、デスワームの穴が塞がれているのが見える。

「あれ? 石が詰まってる……。モンスが埋めたのかな?」

 さほど気にせず、パレスへ向かい扉を開けると、猫又たちが所狭しと丸くなっている。

 奥で寝ていたケットシーが、むくっと起き上がり

「む、ニャムニャム……曲者ニャム?」と大きな欠伸をした。

「いや、邪魔して悪いね」

 俺は静かに扉を閉めた。

 うん、問題なさそうだと、一階へ戻りデバイスをOPENにした。


 しばらくして、久しぶりに矢鱈さんがやって来た。

「久しぶりー」

「おはようございます!」

 おおっ! 色白だった矢鱈さんが、濃い小麦色に日焼けしている。

 俺は笑顔で出迎え、麦茶を出した。

「ありがとう」

 矢鱈さんは麦茶を飲み、グラスを置いた。

「そうだ、これお土産」

 そう言って、バッグから木彫りの小さな犬を取り出す。

「え!? お土産?」

「実はフィリピンからインドネシアまでぐるっと東南アジアを一周して来たんだけど」

「ええっ!?」

 矢鱈さんの口元から真っ白な歯が覗く。

 肌が黒くなったぶん、余計に白く感じた。


「最近は、国内だけじゃなく、海外ダンジョンにも足を伸ばす人が増えたからさ、新しくガイド本を書こうと思ってね」

「な、なるほどぉ~!」

 さすがカリスマ。

 俺は木彫りの犬を手に取りながら、さすがプロだなぁと感心する。

「それは、キマットっていうフィリピンのモンスを象った民芸品なんだ」

「へぇ~、そうなんですかぁ! 可愛いですねぇ!」

 俺がまじまじと木彫りの犬を眺めていると

「実際戦うと、可愛いなんて言えなくなるよ」と矢鱈さんが苦笑した。

「そ、そうなんですね……」

 見た目と違い、恐ろしいモンスなのだろうか。

 ともかく、矢鱈さんに丁寧にお礼を言って、キマットの置物を後ろの棚に飾った。


「でも東南アジア一周なんて、凄いですねぇ、どうりで最近見かけないなぁって思ってました」

「急に決まってね。そうだ、ラオスでは丁度レイドに当たってね。ラッキーだったよ」

「向こうのレイドってこっちと変わらないんですか?」

「うん、同じだね。ただ、向こうのダイバーたちは、生活がかかってる人が多いから、よそ者はあまり歓迎されないんだよ」

「そうなんですか?」

 矢鱈さんはそうそうと頷いて

「向こうでは、今の日本みたいに普通の人が行く場所じゃなくてね、どっちかと言うと一発当てに行く若者とか、ちょっとガラの悪い人たちが多いかなぁ」と言った。

「へぇ~、知らなかったです」

「まあ、それも一部の地域だけどね」

 そうか、じゃあ日本は恵まれた環境なんだな。

「じゃ、そろそろ行ってくるよ」

「あ、はい」

 俺は矢鱈さんに装備を渡す。

 手を振る矢鱈さんに「頑張ってくださーい」と送り出した。


 いやぁ、矢鱈さんは凄いなぁ。

 ガイドブックが出たら買わないと。

 いつか俺も東南アジアとか海外のダンジョンを見てみたい。

 まあ、当分先の話だろうけど……。

 そう思いながら、俺はキマットの置物を眺めた。

 

 

 ガチャの補充をしていると、入口から

「ハーイ! ジョーン! 久しぶりデス!」と大きな声が聞こえた。

 振り返ると、ニコラスさんが手を振っている。

「あ、お久しぶりです!」

 俺はカウンター岩に戻り、ニコラスさんからIDを受け取る。

「オウ! キマットね、このモンス、厄介ヨ!」

 ニコラスさんがキマットの置物を見て言った。

「そうらしいですね、これお土産で頂いたんです」

「お土産、素晴らしい風習デス! オー、私ジョーンにお土産ナイネ……」

 ニコラスさんが悲しそうな声を漏らした。

「いえいえ、大丈夫ですよ、お気遣いなく。来て頂けるだけで十分ですから」

「ジョーン、優しい男、ナイスガイね!」

 親指を立て、ニコラスさんはフゥッと笑う。

「そ、そうですか? ははは」

「おや? これは何でスカ?」

 染め物の染料を見て、ニコラスさんが尋ねる。

「ああ、これは素材や装備なんかを好きな色に染めるんですよ、こんな感じで」

 そう言って、俺はサンプルの素材を見せた。

「アッメージンッ!! 素晴らしい! ジョーン、君はアイデアマンね!」

 ニコラスさんは、染め物を見て褒めちぎる。

「い、いやぁ……それほどでも」

「ジョーン、ウチの会社に来まセンカ?」

「へ?」

「ジョーンなら大歓迎! お給料もいっぱ~いネ?」

 にっこりと笑ってニコラスさんが言う。


 お、俺がサークルピットに……。

 世界的な企業、しかもゲームとかやってる会社。

 ゲーム好きな俺としては夢のような話ではあるが……。

 

 二つ返事で「はい」と答えたい気持ちが無いとは言わない。

 だが、やはり俺にはダンジョンしか無い。

 これが、()()()()()()やりたいのだ!


「いえ、折角ですが……僕にはダンジョンがありますので……」

「それはとても残念デス……。でも、気が変わったら、連絡クダサ~イ」

 ニコラスさんが財布から名刺を取り出した。

「あ、ありがとうございます!」

 名刺を受け取る。名刺には会社名が無く、ニコラスさんの名前と連絡先だけ書いてあった。

「それは、プライベートな名刺ネ。直接私に繋がるヨ」

 そう言ってニコラスさんが親指を自分に向ける。

 この名刺、欲しい人にはとんでもない価値があるんだろうなぁ。

「大事にします」

「じゃあ、この話はこれでオシマイね。ダンジョン行くよ」

 俺は装備を用意して、ニコラスさんを見送った。

 

 うーん、なんか信じられないなぁ……。

 嘘でも嬉しい。

 こうなったら、もっとアイデアを出して、ニコラスさんを驚かしてやろう。


 むむむ……。

 だが、アイデアなんてそうそう出るもんじゃなく、俺はしばらくの間、ただ唸り声を上げ続けた。


 と、その時スマホが鳴る。

 ――紅小谷?


 慌てて電話に出ると

『たわけーーーっ!! あんたまだイベントやってないの? バカなの?』

 紅小谷の怒鳴り声が響く。


「あ、あははは……。そうなんだよねぇ」

 俺は笑って誤魔化す。


『ったく、サイトみたけどさぁ、ガチャや染め物は……まぁいいと思う。ただ、グズグズしてると、お客さんに飽きられちゃうわよ!』


「それはわかってるんだけど……なかなか」

『この、たわけーーーーっ!! ちょっと調子がいいからって甘えてんじゃないわよっ! いい? あんたがそうやってる間にも、他店は知恵を絞って集客を考えてるの! 今週末にそっちに行くから、それまでに何か考えときなさいね! わかった?』


「あ、うん」

『あ、うん……じゃねぇよ、ホントにわかってんの?』

「は、はいっ! わかってます!」

『もう、しおりさんにもよろしくって言われてるんだから、頼んだわよ? じゃ』

「あ……」


 切られてしまった。

 母さんが噛んでるのか……。

 

 でも、紅小谷の言うことは正しい。

 正直、浮かれていた自分が恥ずかしくなった。


 これは気合を入れて考えねば!

 俺はメモ帳を広げて、イベント案を考える。


 前回のように上位種を召喚するか……?

 うーん、しかし花さんの給料も考えるとリスクがデカい。

 纏まった出費はなぁ……。


 となると、中位種連続投入か。

 アンダーグラウンドでもやっていた連続投入。

 向こうは三つ目鮫、やはり夏らしく水棲モンスが良いよなぁ。


 そうだ、池もあるし、ちょっと真似するようで嫌だけど試してみるか?


 俺はデバイスで水棲モンスの召喚リストを見る。

 ウチで召喚できるのは……と。


 ・フライングキラー(低位種)……950DP

 ・メガロマウス(低位種)……1200DP

 ・二頭鮫(中位種)……30000DP

 ・水蜘蛛(中位種)……35000DP

 ・ミズチ(中位種)……50000DP

 ・シーサーペント(中位種)……60000DP

 

「うーん、色々あるけど……」


 この中からだと水蜘蛛かなぁ……。

 水蜘蛛なら、一体でも子を生むので多数のダイバーに旨味がある。

 連続投入にしても、数が少なくてすむし……。

 何よりワクワク感が凄い。

 だって、巨大蜘蛛だよ、巨大蜘蛛?


 などと、鼻息荒く考えていると、お客さんがやって来た。

「いらっしゃいませ」

 急いでデバイスを切り替える。

 接客をしながら、そうか、俺は今、ワクワクしてるのかと実感した。

 所持DP    946,682

 来客  87人  43,500

 染色   8回   2,000

 特注   0点       0

 石鹸  15個   1,500

 ガチャ 48回   4,800

――――――――――――――――

         998,482

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] たわけ!Σ( ̄□ ̄;) え!?紅小谷さんは愛知の人? 注)名古屋弁でたわけはあほ、ばかのこと
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ