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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第三部

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46/214

バランスが難しいです。

「ふわぁ……」

 大きな欠伸をして、布団から起き上がる。

 カーテンを開けると、空はどんよりと曇っており、雨がぽつぽつと窓ガラスに水滴を作り始めた。

 短く息を吐き、ダンジョンへ向かう用意をする。

 台所に降りて、昨日買っておいた炭酸飲料と麦茶、おにぎりをバッグに入れ、居間の爺ちゃんと陽子さんに声を掛けた。

「いってきまーす」

「いってらっしゃい」

 陽子さんの柔らかい声に見送られて、俺は傘を広げた。


 足元が滑りやすい。

 水たまりを避けながら、獣道を進みフェンスを開ける。

 晴れた日にでも、水たまりを埋めとかないと。

 カウンター岩に荷物を置いて、タオルで身体を拭いた。

「いやぁ、これは本降りになりそうだぞ」

 黒い雲を見上げながら呟いた。


 たった二日の事だけど、花さんがいた時の余韻が俺のどこかに残っていて、なんとなくダンジョンが静かに感じる。

 また、週末までは一人。頑張らねば!


 開店作業を終わらせて、デバイスをOPENに切り替えた。

 この天気だと、今日はお客さんも少なそうだな。

 カウンター岩の埃を刷毛で払いながら、小さく頭を振る。


 しかし、ここ最近の売上は順調そのもの。

 メダルブームはやや落ち着いてきた様子を見せつつあるが、それでもまだ、恩恵を実感できる程のお客さんが来てくれている。

「アンデッド系を少し増やすべきかな」

 手元資金(DP)もある程度余裕があるので、俺は召喚をすることにした。

 デバイスで迷宮フロアをチェックする。

 うーん、スケルトン系はこれ以上必要ないか……。

 どうせなら、中位種を狙うかな。

 

 俺は召喚リストを眺める。

 ロードの復活が怪しくなった今、少し強めのモンスがいないと物足りないだろう。

 そう考え、少し奮発することにした。


・歌い骸骨(中位種)……50000DP

   チャリーン。


「配置は九階にっと」

 歌い骸骨を召喚する。数分後にデバイスに黄色い点が増えた。


 ――歌い骸骨は、美しい声で歌う。

 その歌声はダイバーたちを惑わす厄介な代物である。

 慣れていれば、単体での対処はそこまで難易度は高くはない。

 だが、他のモンスと群れで現れた場合、その難易度は跳ねあがるのだ。

 こういう少し意地悪なモンス構成も、より探索を楽しむ要素だと俺は考える。


 後は各フロアのバランスを見ていくことに。

 D&Mは、規模から考えると魔獣系や虫系、植物系のモンスは充実している。

 しかし、亜人系はゴブリンぐらいで少ない。

 少しぐらいはテコ入れした方が良いのか?


 俺は後ろの戸棚にある『月間GOダンジョン』のバックナンバーから、『別冊 徹底解説!モンス構成特集号』を広げた。


 え~っと、ウチのダンジョンだと、小規模ダンジョン(1~20階層)か。

 小規模ダンジョンの場合、全体構成よりは各フロアごとの調整がポイント……。

 以下、基本構成例。


【アクティブ型】

 魔獣系:4 虫系:3 粘体系:1 亜人系:2


【バランス型】

 魔獣系:3 虫系:3 粘体系:1 亜人系:3


【低コスト型】

 魔獣系:4 虫系:2 粘体系:3 亜人系:1


 ※特殊なモンス、植物系は構成に含まず。フロアタイプによって適切な構成は変化します、タイプに合った構成を心がけましょう。


 これを見る限り、ウチはバランスと低コストの中間といった感じだな。

 基本は魔獣系をベースに考えて、他のバランスで調整。

 うーん、悩むね。

 フロアタイプによっても変わるのか……。


 各タイプ毎の傾向は以下。


【密林タイプ(草原含む)】

 ・餌となる植物が多いので多様なモンスが発生しやすい。自然の生態系に近い環境、偏った構成には適していない。自然に発生したモンスバランスを見ながら繊細な微調整が求められる。



【迷宮タイプ】

 ・アンデッド系で構成される事の多いタイプ。自由度が高く、亜人系の投入にも適している。比較的偏った構成でも◎。


【洞窟タイプ】

 ・水場がある事が多いため、粘体系、植物系モンスが多く発生する。あまり大きなモンスの投入には適していない。アンデッド系も相性〇。


 さらに、投入モンスの強度バランスも考慮しなくてはならない。

 例えば、ナイトジャッカルだらけの階層に、中位種であるリュゼヌルゴスを投入してしまうと、天敵のいないリュゼヌルゴスがナイトジャッカルを喰らい尽くしてしまう。

 だが、そこにバルプーニが加わることでバランスが保たれるという事だ。

 ※かなり極端な説明です。


「むう……」

 俺は麦茶を飲み雑誌を見つめて唸る。

 下手に投入してバランスを崩すのが怖くなってきた。

 まあ、歌い骸骨は問題無いとして、密林フロアはしばらく様子を見るか。


「しかし、全然お客さんが来ないなぁ」

 

 そう言えば、最近矢鱈さんを見ていない。

 忙しいのだろうか?

 リーダーはたまに連絡があるのだが……。


 雨音が変わった。

 勢いが強くなり、当分止みそうにない。

 こりゃ駄目だと俺は外を眺めて溜息をついた。




 ――五徳猫が穴に落ちた後。

 

 必死で半纏ロープを引っ張る猫又たち。

 一匹の猫又が木の上から、鼓舞するように音頭を取っている。

「いち、に、にゃーん! に、に、にゃーん!」

 掛け声を送り、猫又たちがそれに合わせてロープを引く。


 ずる、ずる、と次第にロープが引き上げられて、ついに終わりが見えた。

「にゃ! あれは?」

 木の上の猫又がすたっと飛び降り、ロープの先を見る。

「これは、ケットシーさまの!!」

 ロープの先には、ケットシーの王冠が括り付けてあった。


「……どういう意味でござろう?」

 猫又たちは王冠を囲み、ああでもない、こうでもないと、それぞれの推理を語る。

 一匹の猫又が

「これは、ケットシーさまの知らせであろう。われらの中から次なる王を選べとのお達しに違いない」と言えば、もう一匹の猫又が

「なにを馬鹿なことを! これは無事の知らせ。急ぎ救出せよとのご命令だ!」と返す。

「なにをいうか!」

「そなたこそ、忠義に欠ける言動は慎め!」

「この! 言わせておけばー!」

「やるのか! シャーッ!」

 団子状にもみ合いが始まり、辺りは騒然となった。


「ええい! やめいやめい! やめぬかーっ!」


 なんとかその場が収まり、騒ぎを止めた猫又が

「よいか、この奥にケットシーさまがおられるのは間違いない。今一度、ロープを垂らしてみようではないか」と言った。


 他にこれといって良い案もなく、猫又たちはそれに従うことにした。

 穴にロープを放り込み、ギリギリのところまで入れてみる。

 特に反応らしきものはない。

 一匹の猫又が

「よし、拙者が降りて進ぜよう」と名乗りをあげた。

「おお!」

 皆が頼もしやと声をあげる。

 猫又は半纏ロープに掴まると、ゆっくりと穴を降り始めた……。


 穴の奥は暗い。

 だが幸いなことに、猫又は夜目がきく。

 暗闇に猫又の目がにゃりーんと光り、すいすいとロープを下っていく。

 

「む! 底が見えたでござる!」


 猫又はそっとロープから飛び降りた。

 見ると穴は横へと続いている。猫又は一度上を見上げてから進んだ。

「ご、五徳殿!?」

 しばらく進んだ後、五徳猫の姿があった。


「し、心配したでござる! 無事でござるか?」

「おう、猫又か。俺は大丈夫だ、それより手伝え」

 猫又が覗き見ると、ケットシーが倒れていた。


「ケ、ケットシーさま!?」

 猫又が取り乱すが、五徳猫が一喝する。

「こら! 早くしねぇか!」

「も、申し訳ござらん!」


 猫又がケットシーの足を持ち、手は五徳猫が持った。

 狭い穴をゆっくりと戻り、やっとの思いで半纏ロープの場所につく。

「おい、俺がケットシーを担いで上がるから、上に行って、皆にしっかり持ってろと言え。準備が出来たらロープを合図として揺らすんだぞ」

 五徳猫が猫又に言った。

「かしこまりまして候」

 猫又は素早くロープに飛びつき、するすると登っていった。


 しばらくすると、半纏ロープが揺れた。

 五徳猫はケットシーを背中に背負い、ゆっくりとロープを登っていく。

 途中、半纏が重みで裂けそうになるが、何とか持ちこたえて、無事フロアに戻ることが出来た。


「ご、五徳殿!!」

 一斉に猫又たちが集まる。

 五徳猫は背負ったケットシーを地面に降ろした。

「ケットシーさま!! よくぞご無事で!」

 猫又たちが声を掛けるが、ケットシーは目を瞑ったまま動かない。

「安心しろ、気絶しているだけだ」と五徳猫が言う。


 一匹の猫又が、水を汲んで来て、ケットシーの口に水を流し込んだ。

 ――数秒後。

「ゲホッ! ゲホッ! ウエェーッ! だ、だれニャ! 殺す気ニャ?」

 ()せながらケットシーが飛び起きた。

「良かった! ケットシーさまが目覚めたぞ!」

 猫又たちが互いに抱き合いながら、主の帰還を喜ぶ。


 五徳猫は、はしゃぐ猫又たちを横目に

「それにしても、なぜ気を失っていたのだ?」とケットシーに訊いた。

「お、落ちたのではニャイ! ちょっと下まで見に行っただけニャム、ちゃんと順調に登ってたのニャ、すると上から、突然大きな石が振ってきたニャムよ」

 ケットシーが頭を見せると、大きなコブが出来ていた。


 コブを見た五徳猫が、猫又たちに

「そういや、お前ら石投げたとか言ってたよな?」

 と言うと、猫又たちは、一匹、また一匹、そろり何処かに消えていく。

 ケットシーが目を吊り上げて

「石を投げたのは誰ニャム~!? シャーーーッ!!」と牙を剥く。


 残った猫又が震え上がり

「お、おた、お助けを~」と逃げ出した。

「待つニャーー! ゆるさニャイよーーー!!」

 ケットシーが猫又を追いかけ走っていく。

 

 五徳猫はやれやれと煙管を取り出し。

 ぷふぅ~と紫煙をくゆらせた。

 所持DP    964,182

 来客  42人  21,000

 染色  12回   3,000

 特注   2点   1,800

 石鹸  13個   1,300

 ガチャ 54回   5,400

 召喚      -50,000

――――――――――――――――

         946,682

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