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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第三部

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とても助かっています。

 今日は日曜日。

 俺は早めにダンジョンへ向かった。

 花さんをフェンスで待たせるのは忍びないと思ったからだ。

「よっ……」

 ガラガラとフェンスを開けて、カウンター岩へ荷物を置く。

 外は快晴。雲はすべて台風が持って行ってしまったようだ。


 しばらくすると、花さんが顔を見せた。

「おはようございます」

 昨日と同じく髪を一つに束ね、Tシャツに紺のスカートという清潔感溢れるスタイルだ。

「おはよう」

 花さんがバッグを戸棚にしまって、エプロンを巻く。

「昨日と同じ感じで大丈夫ですか?」

「あ、うん。よろしくね」

「はーい」

 既にもう何ヶ月か働いたような安定感。

 花さんは、スムーズに作業を進めていった。


 俺はデバイスでフロアのチェックを行う。

 すると半纏を着た何匹かの猫又が、迷宮フロアをうろついているのが見えた。

 何をやってるんだろう? いつも寝てるのになぁ。

 樹液でも採った帰りだろうか……?


「ジョーンさん、この染色なんですけど……」

「あ、どれどれ? あー、特注のやつね」

 俺は花さんに、皮のよろいのバラし方を教えた。

「ここを、こうすると……ほら、簡単に外れるから」

「ホントだっ! 凄いですね!」

 目を丸くして花さんが言う。

「じゃあ、これをパーツごとね。ちょっとやってみて貰える?」

「はい、わかりました」


 いやぁ、ホントに飲み込みが早い。

 しばらくして、作業を終わらせた花さんが

「他に何かやる事はありますか?」と、エプロンを直しながら訊いてきた。

「うーん」 


 そういえば、花さんフロアチェックまだだよなぁ。

「じゃあ花さん、フロアチェックに行こうか」

「あ、はい」

 俺はメモ帳を片手に、花さんとダンジョンへ向かった。


「何をチェックすれば良いんですか?」

「んーと、まず、異物が無いか。それに、ダンジョンの構造に変化が無いか」

 俺は洞窟の岩肌や木陰をチェックしながら言う。

 花さんは頷きながら、メモを書いている。


「あとは、モンスの種類。突然、増えてたりするから、それも忘れずに」

「はい、昨日教えて頂いたモンスは全部メモってます」

 花さんが、ふふっと笑う。

 さすが、モンス好きを自称するだけはあるな……。

「大抵はデバイスで確認できるけど、細かいところは実際に見てみないとね」

「わかりました」

 真剣な表情で答える花さんに、俺は隅で丸くなるフレイムジャッカルを指さして言った。


「今はCLOSE中だから、大抵のモンスはああやって休眠してる」

「はうっ! か、かわいいですねぇ~!」

 急に甘えたような声になる花さん。

「そ、そうだね」


 洞窟フロアを抜け、迷宮フロアをチェックしていると、スコロペンドラが目の前を横切った。

「花さん、虫系モンスには気をつけてね。CLOSE中でも襲ってくる事があるから」

「そうなんですね、気をつけます」

 俺は、ロードが復活していないか確認をするが、石棺が見当たらない。

 上手く行けば、あと一回は復活があるのだけれど……。

 さすがに、そんな上手い話は無いかと迷宮フロアを後にした。


 密林フロアに入り、花さんに危ない植物やバルプーニなどの凶暴なモンスを教えながら進む。

 十五階に着きケットシー・パレスを目の前にすると、花さんが興奮気味で駆け寄る。


「これがケットシー・パレス。なんて美しい……」

「中には猫又がいっぱい寝てるよ」

「え? ホントですか! ちょっと開けても……?」

「ああ、大丈夫だよ」

「ありがとうございます!」

 花さんが嬉々として扉を開けると、そこかしこで、猫又たちが気持ちよさそうに眠っていた。

 あれ? 少し数が減ったような気が……。


 花さんがキョロキョロと辺りを見て

「ケットシーがいないみたいですね」と小声で言った。

 猫又たちを起こさないようにしているのだろう。

「んー、どこか行ってるのかなぁ」

 俺と花さんはパレスを出て、辺りを探すがそれらしきモンスは見当たらない。


 離れた場所から、花さんが呼んだ。

「ジョーンさん、すみません!」

 駆け寄ると、花さんが指さす壁に、子供が入れるぐらいの丸い穴が開いていた。


「これ、何の穴でしょう?」

「ああ、これはデスワームだね」

「デスワーム……。あれはちょっと苦手です」

 そう言って、花さんが珍しく顔を歪めた。

「確かに、あれはちょっと気持ち悪いもんね」

 デスワームの模様は人の顔に見えて気持ち悪い。

 巨大なミミズの様な身体で、鋭い牙を持ち、硬い岩でも簡単に穴を開けてしまうのだ。


 ふと、花さんが辺りを見た。

「あれ? 今、何か聞こえたような……」

「ん? どうしたの?」

「い、いえ、気のせいですね」

 花さんは笑った後、腕時計を見て言った。

「ジョーンさん、そろそろ開店時間が……」

「え? あ、ヤバいね。今日はこの辺で、別ルートはまた今度やろう」

 俺と花さんは、急ぎ一階へ戻った。


 開店してすぐに団体のダイバーたちがやって来た。

 順調に受付を終え、ダイバーたちを見送ると、森保さんが豪田さんと二人で顔を見せた。

「おはよー」

「おっす、店長!」

 豪田さんは満面の笑みである。

「いらっしゃいませ、今日はご一緒なんですね」

 俺が訊くと、豪田さんが顔を赤くして言った。

「ま、まあ、たまたま時間が合ってな。ははは」

「へー、たまたま毎週日曜に電話してきたんだ?」

 森保さんが、からかう様に豪田さんを見る。

「い、いや、その……」

 豪田さんは言葉に詰まってタオルで汗を拭いた。


「えっと、紹介します。新しく働いてもらう事になった、花さんです。平子さんの妹さんなんですよ」

「花です、よろしくお願いします」

 花さんが笑顔で頭を下げると、豪田さんが

「へぇ、平子の妹さんかぁ! 全然似てないなぁ」と笑う。

「ホントねぇ、こんな可愛い妹さんがいるなんて」

「いえ、そんな……」

 花さんが恥ずかしそうに俯く。

「まあ、これからよろしくな。俺は豪田だ」

「私は森保よ、花ちゃんよろしくね」

「はい! こちらこそ」


 二人の受付を終えて、ダンジョンに入っていく後姿を見送った後

「森保さんって綺麗ですよね。憧れちゃうなぁ」と花さんがうっとりした表情を浮かべる。

 花さんも十分綺麗だと思うが……。


 その時、表から鈴木くんがやって来た。今日は一人のようだ。

「お久しぶりです、ジョーンさん」

「ああ! 久しぶりだね! 元気だった?」

 相変わらずの好青年ぶりだ。

「はい、元気にやってます。最近は善通寺の方に行ってて、中々こっちに来れなかったんです。すみません」

「いやいや、そんなの気にしなくていいよ」

 俺はそう言って、花さんに鈴木くんを紹介した。


「こちら鈴木くん。山河大学のダンジョンサークルをやってるんだ」

「新しくバイトで入った平子花といいます」

 花さんはペコリと頭を下げると

「鈴木さんは、私の友達が大ファンですよ」と笑った。

「え? いやぁ、なんか恥ずかしいなぁ」

 鈴木くんは爽やかに笑う。

 どういうこと? 鈴木くんて有名人なのかな? 

 俺が不思議そうに見ていると、花さんが気を利かせて説明してくれた。


「鈴木さんは大学の人気投票で一位なんですよ。雑誌モデルもしてるから、SNSのフォロワーもすっごく多いんですよ」

「え……そうなの?」

「まぁ、少しだけです。はは」

 鈴木くんが照れくさそうにしながらIDを出した。

 花さんが装備を渡すと、鈴木くんは

「ありがとう」とまっすぐに花さんの目を見た。


 やはりモテる男は違うな……。


 鈴木くんを見送った後、

「やっぱり花さんもファンだったりするの?」と訊いてみた。

「え? 私ですか? まあ、カッコいいとは思いますけど、特にファンではないです。私の推しはラキモンですから」

「そ、そうなんだ。へー」

 ここまでモンス好きだと清々しいな。

 俺は花さんに麦茶を注ぐ。

「あ、すみません。ありがとうございます」


 しばらくして、森保さんたちがダンジョンから帰ってきた。

「お疲れ様です!」

「お疲れ様、ねぇ何か猫又が増えてない? 気のせいかなぁ」

 森保さんが少し上を向きながら言う。

 そういや、開店前も何かウロウロしてたなぁ……。

「まあ、私にとっては嬉しいことなんだけど」

「本当に猫好きだな」と豪田さんが笑う。

「わかります! モフモフ最高ですよねっ!」

 花さんも身を乗り出して森保さんに同意した。

「でしょ! いやぁ、あの半纏姿がたまんないのよ~」

「いいですよねぇ~。あの半纏種類があるの知ってました?」

「え、うそ? やだ、ちゃんと見とけば良かった~。でも、今日は着てない子が多かった気が……」

 一気に打ち解けた感を出す、森保さんと花さん。

 豪田さんは二人のやり取りを見て、鼻の下を伸ばしている。


 二人が帰った後、順調に客足も伸び、休日らしく忙しい時間が流れていった。

 あっという間に閉店時間となり、俺はカウンター岩にもたれる。

「ふぅ~、なんとか乗り切ったね」

「はい、大変でしたね~」

 そう言って笑う花さんを見て、俺は尋ねた。

「どうする? 一時間ぐらいならダンジョン開けるけど?」

 求人にも書いていたスタッフ特典だ。

「いや、私早く帰らないと、兄たちがうるさいので……」

 残念そうに花さんが笑う。

「そっか、まあいつでも言ってよ。じゃあ後は大丈夫だから、上がっていいよ」

「はい、ありがとうございます、また来週ですね」

「うん、お疲れ様」

 花さんはにっこりと笑って帰って行った。

 ううむ、毎日でも来て欲しいぐらいだ。


 静かになったダンジョンで、後片付けをしてデバイスをCLOSEにする。

「忘れ物はないよな」

 更衣室や、カウンター岩周りをチェックして、ダンジョンを出た。

 さてと、たまには外でうどんでも喰うかな。

 俺は足取り軽く、獣道を下った。




 ――時間は戻り、その日のD&M内。

 ここは迷宮フロア八階の小部屋。

 三匹の猫又が自分たちより一回り大きな猫に何やら訴えている。



「五徳殿、なにとぞ、なにとぞお力をお貸し願えぬか!」

 猫又たちが地に頭をつけて言った。


「ううむ。しかしのぉ……」

 座布団に座り、煙管を咥えた五徳猫が唸った。

 ぷふぅ~っと紫煙を吐き、猫又たちを思案顔で見つめている。


「そこを、なにとぞ! このままではケットシーさまが……」

「うむ、わかってはおるが、下には強いモンスもおるでな」

「何をおっしゃいます! 五徳さまのお力なれば、そのような輩など!」

「そうです、我らも及ばずながらおります故」

 猫又たちがニャーニャーと詰め寄る。


「わかったわかったから、そんなに喚くな」

 コンッと煙管の灰を落とし、五徳猫は

「仕方あるまい。どれ、案内をせい」と座布団から腰を上げた。

「五徳殿! かたじけない! では早速、こちらでござる!」

 猫又たちが、五徳猫を連れて小部屋を出た。


 するするとボーンナイトの脇をすり抜け、密林フロアへ向かう。

 走りながら五徳猫が猫又に訊く。


「して、その穴というのは一体?」

「それが、急にできた穴でして、石を落としてみたのですが音も聞こえぬ深さなのです」

「ふむ……」


 密林フロアに入り、草の間を隠れながら進む。

 先頭の猫又が手で合図をした。


 皆が足を止め、気配を殺す。

「ばるぷーにでございます。しばしお待ちを」

 五徳猫は黙って頷き、バルプーニが通り過ぎるのを待った。


「さ、今のうちでござる」


 再び、猫又が走り始めた。

 順調に階層を降りていく五徳猫たち。


 十五階層にたどり着き、穴の近くまで来ると再び猫又が合図を出した。


 急いで木陰に身を隠す一行。

「五徳殿、あれは管理者です。ここで一体何を……」

「あれが管理者か、隣の女は何者だ?」

「わかりませぬ、しかし、あ奴は危険故、ケットシーさまがいない今、手出しは禁物かと」

「そうか」


 一行は息を潜めて、成り行きを見守る。


「お、動きましたぞ! どうやら帰っていくようです」

「よしよし、では参ろう」


 五徳猫たちは、急ぎ穴の前まで来た。

 ぽっかりと口を開ける穴。五徳猫がそっと中を覗く。


「かなり深そうだな……」

 五徳猫はむぅと唸って

「お前たち、半纏を脱げ」と言う。

「な、なにを……ご冗談を」

 猫又たちは戸惑いながら笑って誤魔化す。


「ええい、はよう脱げ。そしてそれを結び、紐にするのだ」

「な、なるほど! さすがは五徳殿だ!」

 顔をほころばせながら、猫又たちは半纏を脱ぎ始める。


 そして、結び終えると

「五徳殿、これでようござろうか?」と半纏を差し出した。


「むぅ、少し短いな。もっと無いのか?」

「し、しばしお待ちを」


 猫又の一匹がパレスに走っていく。

 すぐに山のような半纏を抱えた猫又が戻ってきた。


「こ、これで足りもうすか! お、重い……」

 慌てて他の猫又が助けに入り、皆で半纏を結び始めた。


「これだけ長ければ足りるであろう」

 五徳猫は自分の腹に半纏ロープの端をくくりつけ、穴の前に立つ。

「ご、五徳殿、まさか!?」


「おうよ、ワシがここを降りる。お前たちは皆でロープをしっかりと持っておけ」

「か、かしこまりまして候!」

「おい、パレスの奴も呼んで来い!」

 慌ただしく猫又たちが集まって来て、ロープを握る。


「よし、準備はいいな?」


 五徳が振り返ると、猫又たちが一斉に頷く。

 そして、五徳が穴に向き直った瞬間


「にゃ、にゃんとーーーーーーーー!!」


 足を踏み外した五徳猫が穴へ落ちた。


 ゴロゴロゴロゴロ……。


「五徳殿ーーーーーー!!!!」

 シュルシュルと半纏ロープが飲み込まれていく。

 慌てて猫又たちがロープを引く。

「て、手ごたえがあるぞーー! 皆の者、離すでないぞ!」

 にゃあにゃあと騒ぎながらロープを引く猫又たち。


 果たして、ケットシーと五徳猫の運命や如何に!?

 所持DP    905,582

 来客  92人  46,000

 染色  20回   5,000

 特注   3点   2,400

 石鹸   8個     800

 ガチャ 44回   4,400

――――――――――――――――

         964,182

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