表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/214

閑話 リーダー曽根崎のぶらりダンジョン旅

 奥へと続く、一本の暗い通路。

 まるで、闇が口を開けているようだった。

 足を一歩踏み出すと、乾いた玉砂利の音が鳴る。

 同時に、ぽ、ぽ、ぽ、と通路の両脇に蝋燭が灯っていく。その頼りない蝋燭の灯りに照らされた白い道が、ぼんやりと浮かんでいるように見えた。


 玉砂利を踏みしめながら進んでいくと、大きな円形状の広間に辿り着いた。

 その瞬間――一斉に何百という蝋燭の火が広間を囲むように灯る。


 そして、暗闇の中から白洲梯子がかかった能舞台が姿を現す。

 大きな鏡板には立派な松の絵が描かれており、ここがダンジョンの中とは思えない。

 異様な空気の中、曽根崎は思わず―(ナイン)―を握りしめた。

 

 ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、と鼓を打つ音が聞こえる。

 曽根崎は腰を落とし身構えた。

 ――空気が重くなる。

 舞台に二体の狂言師のような出で立ちをしたモンスが、ふぁさっと音もなく舞い降りた。

 雪のような白い髪と燃えるような赤い髪――連獅子、右近と左近。


「来たか!」


『そろり、そろり、そろそろり!』


 二体は舞台上をこちらに向かって歩み出る。


『けらり! けらり! 何者ぞ?』

 赤い髪をなびかせて左近が問う。


「ふんっ、知ったことか!」

 曽根崎は跳ねるように飛び上がり、右近に―Ⅸ―を振り下ろす!


『ひらり! ひらり!』

 宙を舞い、曽根崎の攻撃を躱す。


『ずかずか! ずずいと!』

 右近が白い髪を振り乱し、凄まじい蹴りを繰り出す。

「ぐっ……」

 曽根崎は―Ⅸ―を盾に防ぐが、吹き飛ばされた。

 ゴロゴロと転がるが、すぐに体勢を立て直す。

『けらり! けらり!』

 二体は並んで凄まじいスピードで襲いかかって来た。

「この……うりゃあ!」

 曽根崎は四連撃で迎え撃つ。

 ―Ⅸ―の鋭い矛先が、右近と左近を貫く。

「やったか!?」

 しかし、二体はふっと姿を消す。

「ど、どこに消えた!?」

 構え直して辺りを警戒する。


『おろか! おろか! 砂とちりや!』

『ちりまっせい!』

 両脇から曽根崎を挟撃する右近と左近。

 すかさず―Ⅸ―を振り回し、攻撃をいなす。

 すると、ふぁさっと二体は距離を取り、髪を振り回しながら、曽根崎の周りをぐるぐると旋回し始めた。


『はっ、いよぉー!』

『はっ、そおれ、そおれ!』


 次第に速度を増す二体。

 紅白が混じり一本の線となる。


 曽根崎が甲賀手裏剣を投げる。

 甲高い音が鳴り、手裏剣が弾かれた。

「くそっ!」


『か、か、か、げら!、げら!、げら!』


 二体は高く舞い上がり、大きな出刃包丁を曽根崎に向け、矢のように一直線に襲いかかった。

「舐めるな!」

 曽根崎は右近の刃を受け流し、左近の鬼の様な面に―Ⅸ―を叩き込んだ!

 パァン! と音がなり、左近の面に亀裂が入る。


『おのれ! おのれ! うらめしや!』


 左近は面を抑えて、距離を取る。

 すかさず、曽根崎が飛び、左近に『化け蝦蟇油』を投げつけ―Ⅸ―を振って出刃を打つ。

 ――火花が散った。

 ごぉっ! と左近が炎に包まれる。

 そして、振り返りざまに、右近の面を曽根崎は―Ⅸ―で貫いた!


「これで、終わりだ!!」

 

 曽根崎が着地すると、二体は霧散し二つの勾玉がぽと、ぽとっと地面に落ちた。

「ふぅー、危なかった……」


 曽根崎は勾玉を拾って腰袋に入れる。

 残された舞台に目をやり、その場を去った。



「お疲れ様です」

 笑顔のスタッフが曽根崎を迎える。

「ああ、お疲れ様」

 曽根崎は装備とIDを渡して、今日のDPを確認する。

「お、結構いったな」

「いやぁ、お客さん凄いですねぇ。一人で連獅子を倒すなんて」

 スタッフはキラキラとした目で言った。

「まあ、ナンバーズのお蔭だね」

「それにしても凄いですよ~。あ、プロの方ですよね?」

 と、小声で尋ねる。

「うん、まあ一応」

「実は僕も目指していてるんですけど、なれますかね?」

「……いや、俺がなれると言ってもなれないよ」

 曽根崎は苦笑した。

「え、そうですか……」

 スタッフは残念そうな顔をして目を伏せた。

「というか、なるかならないかは、自分で選ぶんだよ。何でもそうだろ? 俺も自分で選んだんだ、プロになるってな。誰かが決めるんじゃないよ」

 そう言って、曽根崎は秋田の能代ダンジョンを後にした。


 曽根崎はスマホを取り出して地図を見る。

「えーっと、秋田はこれでOKっと。次は山形の七つ滝ダンジョンか」


 プロとして活動を始めた曽根崎は、自らのクライヴォルグを強化すべく、手元に―Ⅸ―があるうちに、難易度の高いダンジョンを訪れアイテムを収集していた。クライヴォルグも確かに強い武器ではあるが、やはりレイドクラスにまで強化しなければと考えての事だ。

 旅の途中、色々なダイバーから一緒に回らないかと誘いを受けたが、曽根崎は全て断った。中にはプロダイバーで構成されたチームもあったが、群れるのは性に合わなかったのだ。

 それに、曽根崎の目標は矢鱈を越えることであり、矢鱈は――群れない。


 電車に揺られながら、スマホのニュースを見ていると、ジョーンのダンジョンでレアメダルが出たという記事を見つけた。

「うおっ! あいつは本当にツイてるな」

 曽根崎は微笑み『やったな、ブームも来てるし頑張れよ』とジョーンにメッセージを送る。



 山形に着き、時間も遅かったので安いホテルに泊まった。

 部屋に入るなり、ベッドに身体を投げ出して、曽根崎はそのまま眠ってしまった。


 翌日、七つ滝ダンジョンへ向けて出発する。

 七つ滝は六十里越街道沿いにある日本の滝百選にも選ばれている名所だ。

 近くの七つ滝公園から、その全景を見渡せるようになっている。

 そして目当ての七つ滝ダンジョンは公園から少し離れた所にあった。

「ここか」

 曽根崎は、受付に行きIDを渡した。

 女性のスタッフが訊く。

「お一人様で大丈夫ですか?」

「はい、お願いします」

 曽根崎は、指定した装備を受け取って更衣室に向かった。

 中は旅館のような雰囲気で更衣室も広い。

「へぇー、いいところだなぁ」

 キョロキョロと辺りを見ながら、装備を終えて、ダンジョンへ向かう。

「そろり、そろり、だったか? ははは」

 一人でふざけながら、奥へ進んだ。


 入口は狭く、少し屈んで入る形になっている。狭い部分を抜けると広い空間が広がっていて、巨大な鍾乳洞のようなダンジョンだった。

 地面を蹴って足場を確かめてみる。

 水に濡れていて、つるつると滑りやすい。

「こりゃ、やりにくいなー」

 曽根崎はしゃがんで、腰袋から蔓を編んだ紐を取り出して靴に巻いた。

「これで少しはマシだろ」

 グリップを確かめて頷くと、水を避けて奥へと進んだ。


 出てくるモンスはやはり水棲タイプのモンスが多い。

「おりゃっ!」

『ピギィ!』とシーラキングが霧散する。

 シーラキングは大きな魚人のモンスで鱗に覆われているが、手足は人間に近い形をしている。

 余裕な表情でどんどん奥へ進んでいく曽根崎。


 地下へ地下へと降りて、地底湖があるフロアに出た。

「うわ~、広いなぁ~」

 天井も高く、地底湖もかなりの大きさである。

 水は澄んでいて、底の岩肌が見えている。


「おい! 危ねぇぞー!!」


 声の方を見ると、数人のダイバーたちがこちらを向いて叫んでいる。

 別ルートで来たグループだろう。

 曽根崎は辺りを見るが、特に変わった様子はなかった。

「なんだろう?」

 とりあえず、手を振ってみた。

 すると向こうから「来るぞーー!!」とダイバーたちが叫び、散開した。

「え!?」

 慌てて曽根崎も、場所を離れる。

 同時に、地底湖の真上に金色に輝く大きな本坪鈴(ほんつぼすず)が現れた。


 ――ガラン、ガラ~ン! ガラン、ガラ~ン!


 鏡のようだった地底湖に波紋が広がる。

 そして中央からぶくぶくと泡が立ち、巨大な両頭の白蛇が現れた。

「あれがここの主か!」

 曽根崎は―Ⅸ―を構え、様子を伺う。


 他のダイバーの一人が、高台に登り矢を放った。

 バシュッ! という空気を裂く音と、稲妻のような閃光が迸った。

「なんだありゃ? スゲェな」

 高台のダイバーは下のダイバーたちに指示を出している。

 あの男がリーダーなのだろう。

 すると、高台の男が曽根崎に向こう側に回れと合図を出した。

「ここは、従っておくか」

 曽根崎は指示通りに身を低くして場所を移る。

 岩陰に隠れて様子を見ていると、下にいたダイバーの一人がやって来た。

 ダイバーは息を切らせながら

「悪いな、俺は井岡、他のやつらは同じ地元のチームなんだが、あんたは?」と訊く。

「俺は曽根崎だ。全国のダンジョンを巡っている」

「へぇ、プロか?」

「ああ、うん。一応な」

 井岡は曽根崎の―Ⅸ―を見て目を見開く。

「おいおい、それって……」

「ああ、ナンバーズシリーズの(ナイン)だ」

「す、すげぇ! はは、強運だな? ウチの大将だけかと思ったぜ」

「大将?」

 井岡は高台を指さして言った。

「ほら、あの高台のやつさ。安田って言うんだけど、あいつが持ってるのは―(スリー)―だ」

「マジで!? へぇ、Ⅲって弓なのかぁ……」

「属性を選んで射撃できる上に、矢の補充は必要なし。やばいよあれは」

「みたいだな」

 曽根崎は高台に目を向けた。

 安田は、雷の矢を白蛇に向けて放ち続け、段々と白蛇を地底湖の端へと誘導している。

「よし、そろそろ白蛇が間合いに入るぞ!」

 と言って、井岡が岩陰を離れ、曽根崎も後に続いた。


『シャアアアアアアア!!!!』


 うねうねと巨体を揺らし、白蛇は口から紫色の舌を出す。

 そして、口からダイバー目掛けて毒液を吐いた!

「うわっ!」

 地面に付着した毒液からは煙が上がっている。

「気をつけろ! 当たったら終わりだぞ!」

 ダイバーたちが声を上げた。

 曽根崎は距離を取りつつも、タイミングを図っていると、安田が弓を構えているのが見えた。

 周りを青白い稲妻が鋭い音をたてて迸っている。

 そして、光の粒子が円を描きながら一点へと集まっていく。

「あれは!?」

 井岡が「伏せろ!」と叫ぶ。

 曽根崎が急ぎその場に伏せると


 ――迅雷剛烈弓!!


 凄まじい稲妻の矢が白蛇に向けて放たれた!

 右側の白蛇の頭半分が消し飛ぶ。

『グシャアアアアア!!!!』

 白蛇が身を捩らせて湖面を叩き、水飛沫が辺りに撒き散らされた。

「ふぇー、すっげぇな……」

 曽根崎が頭を上げると、高台から安田が叫んだ。

「トドメをさせーーー!!」

 一斉にダイバーたちが白蛇に向かって襲いかかった。

 しかし、どの攻撃も今ひとつ決定打に欠ける。

 曽根崎も―Ⅸ―で連撃を放つが、硬い鱗に阻まれてしまう。

「うひょ~、くっそ硬ぇ!」


 すると、いつの間にか安田が近くまで来て

「おい、お前のそれ、―Ⅸ―だろ? 出し惜しみすんな!」と叫ぶ。

「ありゃ、バレてたか……」

 曽根崎は―Ⅸ―をくるくると回して構えると

「オッケー、後は任せな」と笑い、白蛇に向かって走った。


「うぉおおおお!!!!」


 曽根崎は棒高跳びの要領で空高く舞い上がり、白蛇目掛けて―Ⅸ―を振り下ろした。


 ――串刺しの(カズィクル・)九槍(ナインランス)!!


 瞬間、―Ⅸ―を中心に円形状に九つの槍に分かれ、白蛇を貫く!

『グシャアアアアアッ!!!』

 白蛇は断末魔を上げて霧散した。

 曽根崎が着地して―Ⅸ―をくるりと回した。


「す、スゲェ!! 曽根崎さん、あんた凄いんだな!!」

 井岡たちが駆け寄ってくる。

「いやぁ、それほどでもこいつのお蔭さ」

 そう言って、曽根崎が―Ⅸ―を見ると安田がやって来て

「お見事! ありがとう、助かったよ」と手を差し出した。

「いえ、こちらこそ」

 曽根崎は手を取って笑った。


「おーい、ドロップがあるぞー!」

 声の方に皆が集まる。

 白蛇からドロップしたのは、白蛇の皮だった。

「あー、皮の方か」

 残念そうに安田は顔を顰めた。

「皮じゃ駄目なのか?」と曽根崎が訊く。

「皮はもう、持ってるんだ。俺達は『白蛇の鈴』を狙ってる」

「そうか、そりゃ残念だったな」

 安田は問題ないと笑って、皮を曽根崎に差し出した。

「どうだ? 使うなら、持っていくか?」

「え、いいの?」

「もちろん、なぁ、みんな?」

 皆が持ってけ持ってけと頷く。

「へへ、じゃあ遠慮なく頂くよ。ありがとう」

 曽根崎は皮を受け取って「俺はこれで」と戻ろうとした時、安田が曽根崎を呼び止めた。

「どうだ? 俺達は復活を待つが、一緒にやっていかないか?」

「いや、俺は先を急ぐから。悪いな」

 曽根崎は皮を持ち上げて軽く振ると、地底湖を後にした。



 帰りの電車の中。

 曽根崎は白蛇の皮と書いたメモを横線で消す。

「よしよし、集まってきたぞ~」

 手帳には、クライヴォルグをレイドクラスに強化する為のアイテムが書き留めてあった。

 窓の外を眺めながら曽根崎は満足気に頬を上げた。

※これに出てくる連獅子は架空のモンスです。実際の狂言や歌舞伎とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ