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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第二部

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僕は燃えています。

『おっはようございまーっす! 飛びだせとうちモーニング!』

 大井アナがにこやかにタイトルコールをする。


「お、始まったぞ!」

「ジョーンくんちゃんと映ってるの?」

 爺ちゃんと陽子さん、そして俺の三人でテレビの前に座る。

 そして、番組はいよいよメダルの話に。

 

 ――数分後。

 放送が終わり、俺はがっくりと肩を落とした。

「まあ、宣伝になって良かったんじゃない?」と陽子さん。

「ジョーン、まあ……頑張れや」

「あ、うん……」

 ぐぬぬ、編集されて俺の喋ったところが殆どカットされているではないか!

 丸井くんのインタビューが多いのはわかるが……。

 まあ、ダンジョンの宣伝は、約束通りに放送してくれたから良しとするか……。


 朝からモヤモヤとした気分でダンジョンへ向かう。

 あー、もうちょっと出たかったなぁ……。

 開店準備は昨日済ませてあるので今日は楽だ。

「さあ、今日もいっちょ頑張りますかぁ!」

 と、気を取り直してデバイスをOPENにした。


 開店してすぐに数人のダイバーがやって来る。

 その内の一人が朝の放送を見て来たと言い、やっぱテレビの効果って凄いなと思う。


 その後も、新規の来店が数分おきに続き、これはメダルブームと相まって、当分安泰じゃないの?

 なんて浮かれているところに、スマホにメッセージが入った。

「あれ紅小谷だ、どうしたんだろう?」

 画面をタップしてメッセージを開く。


『おはよう、ジョンジョン。放送見たわよ、何で麦わら帽子なんか被ってんの? あと、ケットシー・パレスの写真送ってくれたらサイトで紹介しとくわよ、じゃあまた』

 おお、優しいな。今日の閉店後にでも撮っておくか。


 俺はカウンター岩で石鹸を包みながら思う。

 これを型に流し込んで、フィギュアっぽくすればどうだろう? でも、型を作るのは難しいだろうなぁ、と考えているとカップルがやって来た。


「ジョーンくん、久しぶりです!」

「ひ、平子さん!?」

 平子さんは、近所のホームセンター島中(しまなか)の人で6つ子である。

 うーん、クラシックタイプの薄い色付きレンズ……平子Bか!?


「いやぁ、やっと来られました、中々休みが取れなくて、ははは」

 平子Bが笑う。隣に立っているのは、彼女さんだろうか?

 でも、確か平子Bは、絵鳩を気に入っていたような気が……。

 俺は、隣に立つ女の子を見た。絵鳩たちと同い年ぐらいかな?

 だが、纏っている空気感からして全然違う。

 女の子にしては背が高く、スラっとしている。身長は165㌢ぐらい? 髪は緩くパーマのかかったベージュ系のセミロング、うっすらと発光しているような肌の白さに加えて、はっきりとした目鼻立ち。

 ラフなTシャツ姿でも十分に魅力的だった。


「それはそれは、えっと……こちらは……」

「ああ! 初めてでしたよね? 一番下の妹です、ほら挨拶しろよ」

 い、妹!? な、何人兄弟なんだ!?


「はじめまして、花っていいます」

 少し照れくさそうにペコリと頭を下げた。

 まさに、花が咲いたような……。

 ていうか、お兄さんたちと全然似ていない。一体何なんだ、この突然変異的な可愛さは……。

「て、店長の壇ジョーンです。よろしくお願いします!」

 くそっ! 第一印象が大事だと言うのに!

 俺は燃えた髪を思い出してイラッとした。


 平子Bがそっと俺に近寄り

「ジョーンくん、最近絵鳩ちゃん来てる?」と耳元で訊いてきた。

「ああ、来てますよ。なんか友達が出来たみたいで、良く二人で来てますね」

「へぇ、そうなんですね。ふぅ~ん」

 もっと、訊きたそうにしている平子Bは放っておき

「それより、いもう……花さんもダイバー免許をお持ちなのですか?」と尋ねた。

「あ、はい。兄たちに取っておいた方が良いと言われたので。実際にダンジョンへ入るのは初めてなんですが……」

 そう言って不安そうに目を伏せる花さん。

「そ、そうなんですね、あの、怪我とかしないように頑張って下さいね。お兄さんもいますし、大丈夫ですよ!」

 と、俺は精一杯のエールを送り、二人に装備を渡した。


 平子Bはいつもの鎖帷子にモーニングスター。

 花さんはレンジャースーツにダガーである。(兄に買って貰ったそうだ)

 ボディラインが強調される濃紺のレンジャースーツのせいで、花さんの均整の取れたスタイルの良さが際立つ。いやぁ、ここまで完璧だと現実味が無いな。まるでアニメのキャラクターみたいだ。


「じゃ、ジョーンくん行ってくるね」

「行ってきます」

「気をつけて! いってらっしゃ~い!」

 二人を見送って、俺は大きく溜息を吐いた。


 なんだろう、少し疲れたな……。

 急に現実に戻ったようで、変な気分だ。


 それから、客足は順調そのもので、やはりテレビを見たというお客さんが多かった。

 機嫌よく雑用をこなしていると、意外に早く平子兄妹が帰ってきた。


「お疲れ様です」

 可愛らしい声で、花さんが言った。

「お疲れ様でした!」

 俺は急いで二人に麦茶を差し出した。


「こりゃ嬉しい。ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「いえいえ、どうぞどうぞ」


 平子Bが花さんに「ほら、早く」と肘で突く。

 何だろうと二人を見ていると、花さんがモジモジしながら口を開いた。

「あのぉ、アルバイトの募集を見たのですが……」 

「え? は、はい……」

 平子Bが横から笑って言う。

「こいつ、どうしてもここで働きたいらしいんですよ。今日も一緒に来てくれって」 

「そ、そうなんですか!?」

 見ると、頬を少し赤らめた花さんが小さく頷く。

「兄に相談したら、ジョーンさんをご存知だと聞いて、一応訊いてからと思ったのですが、履歴書も持ってきました」

 俺は花さんから、履歴書を受け取る。

 とても丁寧で綺麗な字、何故か受け取るのが申し訳ないような気持ちになってしまった。


「でも、大丈夫なんですか? その、雑用が殆どになってしまうんですが……」

「はい! 大丈夫です!」

 花さんが元気よく答えた。


 俺がどうしようと答えあぐねていると

「あの、私、ちょっと変だと思うのですが、モンスが好きでして……。モンスをたくさん見れる仕事がしたいんです!」と花さんが言った。

「え? そ、そうなんですか……」

 ちょ、女の子でモンス好きとか珍しいな……。

 うーん、という事はモンスを怖がる事はないわけか。


「えっと、今、おいくつですか?」

「19です」

「えっと、時給とかはご覧になりました?」

「はい、大丈夫です」

 そう言って花さんが、じっと俺の目を見つめてくる。

 

 ドキッとして思わず目を逸してしまった。

 まいったな……。本当は男の子が良かったんだけど、これじゃ断れないなぁ。

「その、お兄さん方は問題ないのですか?」

 俺は平子Bに話を振った。

「ええ、上の兄貴もジョーンくんの所なら問題ないそうで」と平子B。

 どういう基準なのだろうか……。

「ジョーンくん、妹は真面目だしヤワじゃないんで大丈夫ですよ! 僕たちが保証します!」

 満面の笑みで平子Bが妹をプッシュする。

 まあ、平子兄弟を見ていれば、花さんも真面目だろうとは思うけど……。


 そこまで言うなら、お願いしてみるかな?

「わかりました。じゃあ、いつからにしますか?」

「え! 採用して貰えるんですか!」

 花さんの顔がパッと明るくなった。


「ええ、お願いします」

「ありがとうございます! いつからでも大丈夫ですっ」

 平子Bが「良かったな」と微笑んで

「ジョーンくん、妹をよろしくお願いします」と俺に頭を下げた。

「いやいや、大袈裟ですよ。こちらこそお願いします」

「あと、申し訳ないのですが、これから店に戻らないといけないので、俺は先に……」

「あ、ああ、そうなんですね」

 と俺が言うと、平子Bが花さんに言った。

「お前、色々とジョーンくんに訊いておけよ」

「あ、うん」

「じゃあジョーンくん、お先にすみません! また来ますね!」

「あ、ありがとうございました!」

 平子Bを見送り、二人になった。

 途端に、意識してしまって耳が熱くなる。


「えっと……」

「あ、ああ、すみません。改めて、ジョーンです。よろしく」

「花です、花って呼んで下さい」

 ちょ、さすがに呼び捨てはハードルが高い。

 ど、どうしよう、何から言えばいいのか、全く頭が回らない。

「ジョーンさん、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、ごめんごめん。じゃあちょっと、細かい説明をするね」

 いかんいかん、気持ちを切り替えねば。

 俺は麦茶をグイッと飲み干して、気合を入れた。

 そして、花さんの顔をなるべく見ないようにして、各種必要書類や、注意事項、作業内容などの説明をする。

「という感じです。後は初日にやりましょう」

「はい、わかりました」

「じゃあ、来週からよろしくお願いしますね」

「よろしくお願いします!」

 花さんは、しっかりと頭を下げて帰って行った。


 俺は協会サイトから求人募集の告知を取り下げる。

 こんなに早く見つかるとは思わなかったなぁ。

 それに……いやいや、何を浮かれているんだ、壇ジョーン!

 たかが可愛いだけじゃないか!


 そんな浮ついた気持ちも、午後からの忙しさであっという間に掻き消された。

 その日、無事に営業を終えた俺は、カウンター岩を背にその場に座り込んだ。


「あ~、今日もやり切ったぞ~」

 俺は口を開けてしばらく天井を眺めた。

 そして、よっと立ち上がり、紅小谷に送る宣伝用の写真を撮りに行く事にした。



 ――十五階層。

 ケットシー・パレスに着き、スマホで写真を撮り始めた。

「この角度がいいかな」

 色々と違う場所から撮っていると

「ニャム……管理者、何をしているニャム……」

 寝ぼけたケットシーが目を擦りながらパレスから出てきた。

「いや、別に何も……」

「怪しいニャムね……ニャにか隠して……」

 ケットシーは喋りながら、その場にペタッと横になり寝てしまった。

 ホントに猫みたいだな……。

 俺はケットシーを抱えて、パレスの中へ運ぶ。

 パレスの中は、あれからまた増えたのか猫又だらけである。

 空いているスペースに、だらーんと伸びたケットシーを寝かせて、俺はそっとパレスの扉を閉めた。


 一階へ戻り、紅小谷に『よろしくね』とメッセージを添えて写真を送った。

「これでよしっと」

 残った後片付けを終わらせてダンジョンを出る。

 ガラガラと黒いフェンスを閉めて、家路につきながら、俺はふと、後ろを振り返った。


 ――残照の中に佇むダンジョン。

 思えば、皆に助けてもらいながら、がむしゃらに頑張ってきたけれど、俺も遂にバイトを雇うまでになったのか‥…。

 ダンジョンもいつの間にか拡がって、ケットシー・パレスまで出来た。

 イエティガチャや、染色のサービスも順調だし……。


 うん、少しは自信がついてきた気がする。

 行ける、きっと行けるさ!

 

 そう、いつかはグッドダンジョン賞を取れるダンジョンに!

 俺は決意を新たに、再び前を向いて歩き始めた。

所持総DP:864,582

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