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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第二部

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41/214

東京へ行きました。

 今日はダンジョンの定休日。

 今は稼ぎ時なので、本当なら開けたいところなのだが、無理は禁物。

 過労で倒れたら元も子もない。


 ということで、俺は管理者向けの経営セミナーを受講するため、久しぶりに東京まで来ている。

 銀行から連絡があり、費用はかからないので、良かったら行ってみないかとお誘いを受け、少し悩んだが、今後の事を考えて受けてみる事にしたのだ。


 ――西新宿。

 雑居ビルのエレベータから出た。

「ふぅ、これからはグローバルな視野を持たないとな……」

 セミナーに感化され、漠然としたビジョンを植え付けられた俺。

 気分だけはスーパービジネスマンになっていた。


 久しぶりに新宿を歩くと、人の多さに驚かされる。

 これだけの人の中で、麦わら帽子を被っているのは俺だけだった。

「本当に人が多いなぁ……」

 来たついでに他店調査として、ダンジョンを見て廻る事にする。


 まず訪れたのは、歌舞伎町のアンダーグラウンド。

『夏限定企画!極悪水棲モンス連続召喚投入:三つ目(スリー・アイズ・)(シャーク)!!』

 待ち時間40分、長蛇の列が並ぶ。

 並んでいるダイバーたちに、スタッフがテキパキとドリンクや保冷剤を配っていた。

「凄いなぁ、三つスリー・アイズ・(シャーク)を連続投入とか、規模が違いすぎる……。」

 店舗縮小を発表したダンクロだが、この賑わいを見る限りとても信じられない。

 さすがは旗艦店といったところか。


 それから、新宿を離れ今度は池袋へ。

 東口を出て10分ほど歩くと、池袋ワンダーダンジョンへ着いた。

 一見すると喫茶店のような雰囲気。

 このダンジョンの特色はスタッフが全て、厳しい研修を終えた『執事』であるという事だ。

 男性客の場合は戦地に赴く王として、女性客の場合は女王、もしくは姫として出迎えられる。

 入場料は強気の1500DP、それでも客足は絶えない。

「やはり突き抜けた特色、他店にはない売りがある……」


 そして、次に訪れたダンジョンは西口にある『あるまげどん』だ。

 ここは、存在するモンス全てがアンデッドと言うとんでもないダンジョン。

 果たして、このメダルブームで、どのぐらい賑わっているのだろうか。


 遠目で見るだけでわかった。

 かなりの行列が出来ていて、客層は少し怖めの人が多い。

 うーん、列整理のスタッフもいないし、ゴミが散らばっている。

 いくら繁盛していても、この店から学ぶものはないだろう。

 俺は早々にその場を離れた。


 そして、しばらくブラブラと歩き、俺は笹塚ダンジョンにも寄ってみる事にした。

 紅小谷が言うには、そろそろヤバイとの話だったが。


 新宿まで一旦戻り、京王線笹塚駅で降り、歩くこと数分。

 懐かしい笹塚ダンジョンの前に来た。


「全然変わってないなぁ……」


 外から眺めていると

「あれ? 久しぶりじゃん」と声を掛けられた。

 見ると、当時、良く来ていた常連ダイバーさんだった。

「あ! どうもお久しぶりです!」

「ダンくん懐かしいね! 辞めたって聞いたけど?」

「ははは、そうなんです、今は実家に戻って自分でダンジョンをやってます」

 常連さんは驚いた顔で

「そうなの? へぇ、凄いじゃん」と言う。

「いやぁ、田舎の小さなダンジョンなので……」

 俺はそう笑って

「今日は潜って行くんですか?」と尋ねた。

「いやいや、もうここには来てないよ」

「え? そうなんですか?」

 常連さんは苦笑して

「もう、ここはダメだね。曽根もいないし、中も汚いしさ」と笹塚ダンジョンを見て肩をすくめた。

 そんなに酷いのか……。

「もう、時間の問題だよ。じゃ、俺用事あるから。頑張ってね」

「あ、ありがとうございます、また!」

 常連さんに手を振り、俺は溜息を吐いた。

 色々あったけど、自分が頑張って働いたダンジョンが、落ちていくのを見るのは複雑だなぁ。


 すると、中から黒い顔の男――店長だ。

 一瞬、顔が強ばる。店長は俺を見ると

「おお! ダンじゃないか! お前実家に戻ったんじゃないのか?」と馴れ馴れしく話掛けてきた。

「……どうも」

 俺は軽く頭を下げた。

 店長は真っ黒の顔をテカらせながら、ニヤニヤと笑う。

「いやぁ、丁度いいな。曽根崎の奴も辞めやがってさ。今空きがあるから、戻りたいなら戻ってこいよ? お前も大手で働く方が将来安心だろ? 何なら社員になれるように口訊いてやってもいいぞ?」

 こいつ……。何も変わってねぇな。

 ルシールがあれば殴り倒すところだが。

 しかし、今の俺はグローバルな視野を持つ経営者。

 もう、彼と同じステージに俺は立っていないのだ。


 俺は店長の目を見据えて

「いえ、結構です」とだけ言った。

「まあまあ、無理すんなって? こんなチャンス中々ねぇぞ?」

「いえ、結構です。それよりも、店前。少しは、清掃した方が良いんじゃないですか?」

「……何?」

 店長は俺を睨みつけた。

 俺は臆すること無く続ける。

「店は店主を写す鏡と良く言うでしょう」

「ほぅ、お前偉そうな口訊くようになったな?」

「ま、手遅れにならないように頑張って下さいよ、じゃ」

 踵を返しその場を離れようとする。

「おいダン! お前なんかにダンジョン経営なんて無理だぞ! せいぜい吠えてろ!」

 俺は足を止めて店長を見た。

「あ、そうそう。メダルブームご存知ですか?」

「当たり前だ!」

「僕のダンジョンも恩恵を受けてましてねぇ、忙しいわ、TV取材は来るわで毎日大変ですよ。まあ、このブームで客が飛ぶようじゃ、先は無いでしょうけどね。あ、大手の店長さんには関係ない話でしたか。じゃあ、僕は忙しいので」

「ぐ……この……」

 顔を真赤にした店長を鼻で笑って、俺はその場を去った。

 後ろから店長の怒鳴る声が聞こえたが、哀れに思う以外、何も感じなかった。



 それから、皆の分のお土産を買い、俺は実家へ戻る。

 飛行機なので僅か一時間、あっという間にうどん県へ着いた。

 タクシーで実家に戻り、居間へ入ると爺ちゃんがテレビを見ていた。

「ただいま~」

「おう、戻ったんか?」

「うん、疲れた~、はい、これお土産。陽子さんにも渡しておいて」と紙袋を渡す。

「へー、悪いな。お前も段々しっかりしてきたのぉ」

 爺ちゃんはそう言って、紙袋を横に置いて

「お前、その頭どうしたんや?」と訊く。

 俺は麦わら帽子を取って頭を撫でた。

「あ、ああ、ちょっと髪、焦がしちゃったから」

「危ないのぉ、火は気をつけないかんぞ?」

「うん、じゃあちょっと出てくるから」

「おう」


 俺は実家を出て、ご近所さんにお土産を渡しに行く。

 ダンジョンで大勢の人が出入りするから、知らないところで、迷惑をかけた事もあるだろうと思っての事。それに、ご近所さんは皆良い人ばかりだしね。


 こうして、誰もいない田舎道を歩いていると、東京での人混みが嘘のようだ。

 ゆっくりとした時間が流れる。

 あー、落ち着くなぁ……。


 数件廻り終えて最後の家を出た。

「ジョンちゃん、ありがとねー」

「はーい、じゃあ、失礼しまーす」

 最後のお土産を渡し終えて、俺はダンジョンへ向かった。


 さてと、休みのうちに出来ることをやっておくか。

 俺は補充や、消耗品の調達、石鹸作りなどを始める。

「グローバル、グローバルっと……」

 手際よく作業を終わらせて、明日の準備が整う。


「あいててて……」

 最近のハードな仕事で、さすがの俺も腰が痛む。


 うーん、このままだと身体が持たないな。

 バイトかぁ……。

 やっぱ週末だけでも雇うべきかな。

 そうだ!


 俺は母にメッセージを送ってみた。

「オレオレ、ダンジョンで週末だけでもバイトを雇えないかなあって思うんだけど、どう思う?」

 すぐに返事が帰ってきた。

『今の客数なら数字的には問題ないと思うわよ。(週末だけならね)』

「おk、ありがとう」

『じゃあね、頑張りなさい』


 なるほど、数字的にも問題はないのか。

 じゃあちょっと求人募集してみるかな。

 でも、雇うからには責任重大。完全なホワイト環境を用意せねば!


 俺は協会サイトで募集を出すことにした。

 

 ◎D&Mスタッフ募集のお知らせ◎

 ■勤務日  土日限定 12時~18時(休憩1時間)


 ■時給   1000円~


 ■資格   18才以上、性別、学歴不問、要ダイバー免許。


 ■待遇   閉店後一時間ダンジョン無料解放。

       麦茶飲み放題。希望者にはまかないのおにぎりを用意します。


 ■備考   時間等、なんでもお気軽にご相談下さい。

       当店を一緒に盛り上げてくれる方、お待ちしております!


 こんな感じかな。

 サイトにアップして、その他の準備に入る。


 ダンジョンで人を雇う際には、協会に従業員登録と機密保持契約書を提出しなくてはならない。

 この手続をしないと、簡単な受付補助業務さえする事は許されないのだ。


 小さなダンジョンや管理がずさんな所は、許可なくやっている場合もあるが、俺はきちんとやりたい派なので、この辺はきっちり手続きをしようと思う。

 

「さて、やることもやったし、今日は帰るかな」


 俺はフェンスに鍵を掛けて家に戻る。

 赤紫色の空がとても綺麗だった。

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