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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第二部

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メダルブームが来ています。

 ――ちっさなメダル。

 その僅か直径3.5センチ程度の丸い金属に、人はなぜ、こうも強く惹きつけられるのだろうか?


 ババーン!(効果音)

『月曜SP おっさんダイバー奮闘記 ちっさなメダルを追え!!』(タイトル回転)

「はい、おっさんダイバーですっ。というわけでね、皆さんこれ! これ、知ってます?」

 おっさんは手のひらに数枚のメダルを乗せて、一枚をつまんで見せた。


「これ『()()()()()()()』といいます。えっとね、これは何が出来るアイテムかっていうと……実は何もできませんっ!! ごめんなさいっ!」

 カメラに向かって拝み倒すおっさん。


「でも見て下さい! ほら、綺麗でしょ~? しかも、このメダルの凄いところは、デザインがとにかく豊富! 同じメダルを集めようとし――」

(ジョーンが動画をスキップ)

「で! そ・ん・な・メ・ダ・ル・な・ん・で・す・が! 今日はこれをネタに――」


 俺はスマホを消した。

 いま巷ではジワジワと、ちっさなメダルブームの波が来ている。


 有名配信者たちも、こぞって特集を組むようになっているが、ちっさなメダルで何本も動画を作るのは難しいらしく、どれも似たような内容になっていた。


 そもそも使いみちが、集めたり、鑑賞したりぐらいしか思いつかない。

 しかも、ダンジョンの中でしか見られないという。

 せめて家に持ち帰れるなら、どこかに飾ったりできるけれど……。


 なので、大抵のコレクターは、写真でアーカイブを作り、ネットで公開する程度だ。

 でも、中には、コレクションの写真集を、自費出版する猛者もいる。


 最近はコミケなどで、そういうニッチなジャンルのダンジョン書籍を売る人も増えてきた。

 まさに趣味が金に変わる時代だなぁと思いつつ、俺は更衣室の掃除を済ます。


 そういえば、俺も少しだがメダルを持っている。

 昔の沼時代に集めた事があったのだ。

 その先に広がる、広大な沼と、先行者の累々たる屍をみて、俺は集めるのをやめたが、顔見知りのダイバーは「今更引き返せるかっ」という言葉を最後にその姿を見ていない。

 元気に集めてるだろうか……。


 開店してほどなく、タイムリーなお客さんがやって来た。

「あ、丸井くん! おはよう!」

「どうも、お邪魔します」

 へへへと坊主頭を掻きながら笑って、カウンター岩の前に来た。

 メダルの丸井くん。

 彼は幸か不幸か、メダル沼に片足を突っ込んだ未来ある若者だ。(30.31話参照)


「どう? 集まってる?」

「そうですね、今だいたい200枚ってところです」

「に、200枚!? す、凄いね?」

「いえ、全然です。まだダブりも無いですし……。それに、最近ブームとかでライバルが増えてしまって、スケルトンの取り合いになっちゃうんですよ……」

「あ~、なるほど。それは確かに困るねぇ」

 メダルブームは数年前にも一度あった。

 まあ、こういうブームは大抵すぐ終わるから、終わったらニワカから貰えば良いんじゃね? ぐらいに俺なら思ってしまうが……。


「あ、この前やっとゴブリンシリーズのNo.23が出たんですよ!」

 えっと……。

「No.23ってのは凄いの?」

 俺はとりあえず当たり障りのないように訊いてみた。

「えーと、ゴブリンシリーズは現在確認されているのがNO.256までなんです。一応、W.S.M.Rの公式本のデータなので間違いないと思うんですけど」

 ちょ……丸井くん。

 しばらく合わないうちに、片足どころか頭の先まで……。

「ごめん、そのW.S.M.Rって……」

 丸井くんは、ちょっと驚いた顔で窺うように答えた。

「えっ? World Small Medal Recordsですけど……」

 し、知らない……。メダルの組織か?

「そ、そうなんだ、へ、へぇ~、凄いね!」

 少し瞳孔の開いた目で丸井くんが

「ジョーンさんも、集めましょうよ!」と身を乗り出す。

「い、いや……。ほら! 俺はダンジョンがあるし、片手間じゃあ、ちょっとねぇ? ははは」

「そうですか……」

 残念そうに呟いて、丸井くんはIDを取り出した。

「ご、ごめんねぇ、はは」

 俺は装備を渡す。丸井くんの装備は、いつの間にか対スケルトンに特化していた。

 大金槌に皮のよろい、か……。まさにスケルトンスレイヤーだ。


「じゃあ、行ってきます!」

「あ、ああ、頑張ってね」

 丸井くんは颯爽とダンジョンへ駆け出した。


「……さてと」

 丸井くんを見送って、俺は染料をチェックする。

 うん、やはり時間が経っても傷んだりしないようだな。 

 匂いも変わらないし、これなら品質には問題ないだろう。


 ふと、紅小谷の『人が集まることに便乗するのよ』という言葉を思い出す。

 便乗……。

 そうか! このメダルブーム、乗らない手はないぞ!

 しかし、乗るとしてどうやって?


 スケルトンを増やしたところでなぁ……。

 コレクターが喜ぶ事、か。

 ううむ、全然思いつかない。


 俺は気分転換に珈琲を淹れる事にした。

 香ばしい薫りがカウンター岩の周りに漂う。

 

 後ろの棚に飾ってあるダンジョロイドを見つめながら思った。

 コレクターはデジタルデータで満足なのだろうか?

「やっぱ、飾りたいよなぁ」

 カードゲームとか好きな人は専用のファイルなんかを持ってるし……。

 

 そうか、ファイルか!

 しかし、ダンジョンの中だけでしか見れないファイルやホルダーみたいな物に、果たして需要はあるんだろうか?


 うーん。

 それに作れるかな?

 古銭を入れるホルダーみたいな物……か、難しい。


 木の板に丸い凹みを作って、そこにはめる。

 これだと見やすいけど、丸井くんみたいに200枚ともなると、板だけで結構な重さになるし嵩張ってしまう。駄目だ、これは却下。


 布を使ったとしても、メダルの重さがなぁ……。

 やはり、メダルを集めるイベントの方がいいのかな?


 珈琲を啜りながら、あれこれ思案していると、丸井くんが血相を変えて走ってきた。

「ジョ、ジョジョーンさん!!」

「どうしたの!? そんな慌てて……」

「ちょ、ちょ、こ、これ! これ見て!!」

 丸井くんは俺に一枚のメダルを見せる。


「え? ちっさなメダルでしょ?」

 何かレアな種類でも見つけたのかな?

「よーく見て! ほら!」

「ん? そう言われても……」

 俺はメダルを受け取り、表裏を見るが何が違うのかわからない。

 模様はスケルトンだけど……。


「違います! ジョーンさん、横、横を見て!」

「え? 横?」

 しびれを切らした丸井くんが、俺からメダルを取って、メダルの側面を指をさした。

「ほら! ギザですよギザ!!」

「へー、ホントだ。珍しいの?」

 丸井くんが言葉を失って一瞬、固まる。

「丸井くん……?」

 ハッと気付いた丸井くんが

「ジョーンさん!! これは大発見ですよ!!」

 そう叫び、更衣室の荷物からスマホを取り出す。

 そして何やら操作して、画面を見せた。


「これはW.S.M.Rの公式アプリですが、このデータベースの何処にもギザなんて載ってないんです!!」

「ギザギザの10円みたいな感じ?」

「うきーーーーっ!! 違いますよっ! 世界中のダイバーが、まだ発見していないメダルってことですよぉーーーーー!!!!」

 丸井くんは、半狂乱とも思えるほど取り乱している。

「ちょ、丸井くん? わかった、わかったから、ちょっと落ち着いて」

 俺は麦茶を出して、落ち着くように宥めた。


 麦茶を飲み干して、丸井くんは落ち着いたようだ。

「ふぅ、すみません。つい……」

「とにかく、そんな凄いメダルなら良かったじゃん。おめでとう!」

「ありがとうございます、でも、これをアプリに登録しちゃったら、ここにコレクターが押し寄せるかもしれないですし、ご迷惑になるかも知れません……」


 そうか、確かに今ブームだし、マスコミとか来ちゃったりするかも。

 となると、発見されたダンジョンとして、D&Mも一躍有名ダンジョンに……。

 これは、一気に赤字解消の予感?


「それは……嬉しいかも」

「え?」

 丸井くんが予想外といった表情で俺を見る。


「いや、ウチとしては助かるなぁって……はは」

「いいんですか?」


「もちろん、ていうかこっちがお願いしたいぐらいだよ」

「良かった、じゃあ登録させてもらいます。第一発見者には、名前を付ける権利があるんですよ」

「へぇ! そりゃ凄い! なんて付けるの?」

「へへへ、実は決めてたんですよ、いつか見つけた時の為に――」

 少し照れくさそうにして

「丸井メダルにしようと思います」と満面の笑みを見せた。


「……あ、ああ、良いんじゃない? シンプルだし」

「ホントですか? 良かった。じゃあ登録しちゃいますね」

 丸井くんはメダルの写真を撮って、スマホを操作する。

「できました、やったー! 反響が楽しみです! へへ」

 笑顔の丸井くんに「良かったねー」と頷くと……。


 ――ブブブ、ブブブ。


「あ、早速コメントが入ってますよ! へぇ~海外の人で……」

 ――ブブブ、ブブブ。

 ――ブブブ、ブブブ。

 ――ブブブ、ブブブ。

 ――……。

 丸井くんのスマホが狂ったように鳴り始める。


「え……」


 二人で顔を見合わせる。

 その間も永遠と通知が続く。


「す、凄い反響だね?」

「そ、そうですね、珍しいですから……」


 ――ブブブ、ブブブ。

 ――ブブブ、ブブブ。

 ――ブブブ、ブブブ。


「と、止まらないね?」

 俺は段々と恐怖を覚える。

 もしかして、とんでもない事をしてしまったのでは……。


「ジョーンさん……もう6,000件越えちゃってます……」

「ろ、ろくせん……」


 俺と丸井くんは、震えるスマホを見つめて立ちすくむ。

 ダンジョンに通知音だけが響いていた。

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