銀行へ行きました。
――ウィーン。
自動ドアが開く。俺は冷房の効いた銀行から出て実家へ戻る。
ふ~んふふ~ん♪~(´ε` )
俺は自然と鼻歌を唄っていた。
なぜ銀行かと言うと、月末なので、DPを一度精算しようと銀行へ来ていたのだ。
その際に、銀行の人からDP特定口座なる便利なものを紹介され、開設も済ませてきた。
この口座が開設できるのはダンジョン事業者のみ。
なんと! 売上DPをデバイスから直接口座に移すことができ、この口座を利用した場合、ダンジョン税が20%から18%へ減税されるのだ。(早く言ってよぉ~って思った)
さらには、確定申告が超絶楽になる。
経費などの必要情報を口座サイトに入力すると自動で納税もできるうえ、申告に必要な書類までダウンロード出来てしまうという至れり尽くせりな口座だ。
色々な制度があるのだなぁと驚いた反面、もっと宣伝してくれよとも思った。
普及させたいのか、させたくないのか? 全くもって不思議である。
とまあ、他にも銀行の人に色々なレクチャーを受けたので、今月から早速試してみようと思う。
しかし、多少売上が上がったからと言っても、今のままではただのお遊び。
せめて、CF比50%以上を目指したいよなぁ。
※覚えたてで使いたいだけ。
銀行でコピーしてくれた週間東洋ダンジョンの特集記事から一部抜粋。
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※CF比……C(月売上)/F(ダンジョンフロア数×DPAN基準額)
※DPAN……(Dungeon Portfolio Analysis of Risk)ダンジョン協会が四半期ごとに発表するフロア毎の基準売上額である。都道府県別に基準額は異なり、多くの企業がDPANを目安に経営指標を算出する。
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(参考:香川県DPAN基準額:89,000)
家に戻り、居間でテレビを見る爺ちゃんに
「爺ちゃん、これ」と俺は茶封筒を渡した。
「ん? これは?」
爺ちゃんはきょとんとした顔で俺を見る。
「最近、お客さんも増えてきてさ、食費ぐらいは出せるようになったから」
爺ちゃんは、少し黙って茶封筒を見つめた後にっこりと笑った。
「ほうか、なら美味いもんでも食うてくるかの」
「うん、じゃあ行ってくるね」
「おう、頑張れよ」
爺ちゃんが茶封筒をヒラヒラとさせた。
ふぅ、これで少し気が楽になった。
本当はもっと渡したいのだが……。
フェンスを開け、いつものようにカウンター岩に向かう。
あれから一週間程経つが、特に問題は起きていない。
数匹の猫又が氷原フロアで氷を運んでいるのを見かけたぐらいだ。
調べると、どうやらトレントの樹液をかけて食べているらしい。
かき氷的なノリなのだろうか?
本当に不思議なモンスである。
開店してすぐに「こんにちはー」と絵鳩&蒔田コンビが来た。
「いらっしゃい、出来てるよ」
「ほんとですか!」
絵鳩と蒔田はキャッキャしながらハイタッチをした。
俺は預かっていたフェザーメイルとボーンクレセントをカウンター岩に乗せた。
「「おぉ~!!」」
絵鳩のフェザーメイルは薄い青、蒔田は薄いピンク、ボーンクレセントは黄色に染色した。
二人とも、興奮しているのか更衣室の鏡に向かってポーズを取ったり、蒔田はボーンクレセントを構えたりしている。
「これはよき!」と絵鳩。
蒔田も何か言っているが、ここからだと聞き取れない。
その後、二人は受付を済ませて早速、ダンジョンに向かっていった。
デバイスから協会サイトを確認していると、バナー広告に目が止まった。
『協会公認、新規管理者様支援キャンペーン!! グリモワールAIが貴方のダンジョンにふさわしいモンスを召喚します!!』
詳しく見てみると、申請から一年以内のダンジョン対象とある。
さらに読み進めると、対象のダンジョンは一回限りではあるが、グリモワールAIを使って、モンスを召喚できるらしい。(しかも、無料で)
こんなうまい話があるのか!? それに、グリモワールAIってなんだ?
説明にはこう書いてあった。
以下、原文ママ。
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次世代召喚システム、グリモワールAI!
只今、弊社で開発、運用を進めております『グリモワールAI』は、様々なダンジョンコアへのダイレクトアクセスを実現しました! これにより、管理者様のダンジョン規模、構成モンス、フロアタイプ等のデータから、当社が保有するダークプールに蓄積された膨大な検証データを元に、これまで悩まされてきた召喚投入モンスを、自動決定する次世代型召喚システムです!
今回は検証中のグリモワール・レメゲトンの試験運用モニターとしてのご案内になります。
ご希望になられる管理者様は『モニター応募』のボタンを押して下さい。
料金等は一切かかりませんが、データを利用させて頂きます。※先着50名様限定
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これは、判断のしようがないが……。
何か難しそうだけど、タダだし協会公認ならやってみてもいいのかなぁ?
俺はしばらく悩んだ末に、応募ボタンを押した。
すると、画面に『応募を受け付けました。当社担当よりご連絡をお待ち下さい』と出た。
意外と待たされたりするのだろうかと思っていると、直ぐにデバイスにメッセージが届いた。
『この度は弊社、キャンペーンにご応募頂きありがとうございます。 D&M 壇・ジョーン 様のデバイスにグリモワール・レメゲトンをご利用頂けるコードをご案内させて頂きます。デバイスの設定より下記コードをご入力の上、必ずCLOSE時にご利用下さい。尚、コードの使用は一度限りとさせて頂きます。 グリモワール・フル・インベストメント社 担当 竹内門助』
早いな……。
まあ待たされるよりはいい。
えーと、必ずCLOSE時に、か。
俺はコードをメモに書き、メッセージを閉じた。
早速、閉店後に試してみようと思う。
しかし、最適なモンスって何が出るんだろう。
運良く上位種とか出れば……。
いやあ、これ得しかないんじゃないのかな。
喜びを抑えつつ、カウンター岩で期待を膨らませているとスマホにメッセージが届いた。
「あ! リーダーだ!」
『釧路の阿寒湖ダンジョンに来てるぜ! さみぃ!』
添付:リーダーが寒そうにピースしている画像。
「おぉ! 北海道!?」
俺は返事のメッセージを送った。
『北から南下するんですか?w 風邪ひかないでくださいねw』
そうか、いよいよプロとして廻ってるんだ。
確かナンバーズの期限までに全国制覇とか言ってたけど、あの人なら本当にできそう……。
「よっ!」
「あ、矢鱈さん、こんにちは」
矢鱈はタオルで汗を拭きながら
「今日も暑いねぇ」と言った。
俺は麦茶を入れて差し出す。
「ありがと」
矢鱈さんは喉を鳴らしながら一気に飲み干す。
「ぷふーっ、いやぁ生き返った、ごちそうさま」
「いえいえ」
「そういえば、あれから変わりはない?」
「ああ、パレスですか? 今のところ大人しいですね」
「そうか、そりゃ良かった」
「お蔭で森保さんが最近良く来てくれるようになりました」
と言って俺は笑った。
「はは、彼女、猫好きだからねぇ」
「女性客が増えた気もします」
「そういえば、福岡でレイドだってさ」
「え? 本当ですか?」
「うん、紅小谷から連絡があってさ。リヴァイアサンだって」
「リヴァイアサン……どのぐらい強いんですか?」
矢鱈さんがうーんと考えて答える。
「レイドボスの中では中程度かなぁ」
「一度、参加してみたいなぁ」
「ジョーンくんは店番があるもんね」
矢鱈さんは残念そうな表情を見せる。
「まぁ仕方ないです」
俺が苦笑いを浮かべると、矢鱈さんが腕時計を見て、申し訳なさそうに
「さてと、今日は用事の途中で寄っただけなんだ。またゆっくり来るよ」と言った。
「あ、そうなんですか。すみません、わざわざありがとうございます」
「いやいや、ごめんね。じゃあ」
「はい、また~」
矢鱈さんを見送って、俺はスマホでさんダを見た。
本当だ、福岡の『のこのしまダンジョン』でリヴァイアサン発生中とある。
しかし、紅小谷は凄いな。恐ろしい速さだ。
日本中、飛び回ってるのかな?
「ジョーンさんお疲れでーす」
「ああ、お疲れ様」
絵鳩&蒔田コンビが戻った。
「どうだった?」
「気……上…ま……」
蒔田が何か言った。うーん、聞こえない。
「気分が上がるって」
絵鳩が言い直すと蒔田もうんうんと頷く。
「ああ、そうか、そりゃ良かった!」
二人は終始キャッキャしながら
「じゃあまたー」と言って、帰っていった。
「ありがとー!」
それから、新規客や団体客も来てくれて、接客や染色に追われるうちに、無事営業が終わった。
「さてと……」
俺は閉店作業を終わらせて、CLOSEにした後、デバイスの設定を始めた。
手順はニコラスさんが来た時と同じ手順でコードを入力するだけだ。
入力を終わらせると、デバイスに
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―― グリモワール・レメゲトン ――ver_3.16
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というロゴが表示され、STARTボタンが表示された。
俺は少し緊張しながらボタンを押す。
Now Loading....
の文字が点滅する。
うーん、結構長い。ドキドキする。
数分が経っても、一向に表示は点滅したままだ。
「えー、壊れてんのかなぁ……」
どうしよう、触るのも怖いし……。
少し他事をして、時間を潰そうと預かりの染色をする。
染色を終わらせて、デバイスを見てみると
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召喚完了
配置階層:8 モンス名:五徳猫
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「ま、また猫……」
五徳猫は猫又の進化系モンスだが低位種である。
俺は軽く溜息を吐き
「猫カフェみたいにならなきゃいいけど……」と帰り支度を始めた。
月末所持DP 526,032(一週間分含む)
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特定口座へ 326,032
食費出金 -23,600(3,600税)
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特定口座残高 302,432
月初所持DP 200,000
所持DP 200,000
来客 22人 11,000
染色 8回 2,000
特注 2点 1,200
石鹸 4個 400
ガチャ 17回 1,700
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計 216,300





