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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
番外編 Wow!! Pink Dungeon⁉

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ピンク♡ダンジョン

岩カウンターの中で備品の整理をしているとスマホが震えた。


「およ? リーダーじゃん」


通話をタップする。


「もしもーし、お久しぶりです」

『おー、オレオレ、元気か?』


「はい、元気ですよ~。筋トレも続いてます、へへへ」


久しぶりにリーダーの声を聞くと、何だか和むなぁ。


『お、偉いじゃん、まぁ筋肉は嘘をつかないからな。それより、ちょっと話があってさ。この後、時間あるか?』


何だろう、あらたまって……。


「え、はい、今日は昼までなんで、特に用事はないですけど……」

『おしっ、じゃあトキワのスタバで待ってるからな』


「えっ、あ、リーダー?」


切れてしまった……。


何だったんだろう?

特に慌ててる様子でもなかったし、トラブルって感じでもなかったけど……。

まあ、せっかくのお誘いだし、さっさと片付けを終わらせるか。


俺は腕まくりをして作業に戻った。



    *  *  *



「あの虫の配信ってジョーンのとこなのか⁉ へぇ~たまに俺も見てるぜ」

「本当ですか⁉ いやぁ~丸井くん喜ぶだろうなぁ~」


プロダイバーとして活動を始めてから結構経つけど、ずいぶん逞しくなったよなぁ……。

カフェラテに口を付けながら、久しぶりのリーダーの姿を見てちょっと嬉しくなる。


互いに近況報告が一段落したところで、急にリーダーがそわそわし始めた。


「どうしたんですか? トイレなら……」

「違う違う、あのさ、その……」


珍しくもじもじしている。

こんなリーダーはあまり見たことがない。


「はい?」と、耳を近づける。


「お前、ピンクダンジョンって知ってるか?」


「……はい?」


「ばっ……! ち、違うって、その、この前潜ってたときにさ、たまたま一緒になった顔見知りのダイバーから聞いたんだよ!」


顔を真っ赤にして席を立つリーダー。


「ちょちょ……座ってくださいよ、みんな見てますから」

「あ、あぁ、すまん、悪い」


リーダーが座ったところで、

「いきなり言われても何の話だかわからないんで、説明してもらえますか?」と俺は尋ねた。


リーダーが少し間を置いて、俺に耳を貸せと手招きした。


「そいつが言うには、城東の八重垣新地に……その、ピンクダンジョンってのができてるらしいんだ」

「えっ⁉」


ピ……ピンクダンジョン⁉


「それって……やっぱりそういう……」


ゴクリと喉を鳴らすとリーダーが静かに頷いた。


どういうこと⁉

ダンジョンでそういう……えっ⁉


「すみません、まったくどういうことか想像もできなくて……」

「俺もだよ」


リーダーが力なく笑う。


「でさ、そいつにもし行くことがあったらどんなのだったか教えてくれって言われてな……だからその……ほら、なんだ、あれだろ?」

「いや、何言ってるか全然わかんないんですが……」


「だから! い……行くか?」

「え?」


「あぁーもう! お前わざとやってんだろ! 空気読めよ! そういうの読める世代なんだろ⁉」

「いや、ちょ、ちょっと待ってくださいよ、わざとなんかじゃないですって!」


「一緒に行くかって言ってんの!」

「……⁉」


ピ、ピンクダンジョンに……⁉

てことは、つまりそういう……。


「あ、ああああの、リーダー、実は自分、不器用でして、そういったことは免疫というか、そのぉ……」

「ん? お前花さんと何もないの?」


「あるわけねぇだろ! あ、いや、すみません、あるわけないじゃないですか……」

「い、いや、俺もデリカシーなかったな。いきなり悪かったよ。あはは……」


お互い、気まずくなりカフェラテに口を付ける。


「ふぅ~……ジョーン」

「はい」


リーダーがテーブルに両肘を付き、顔の前で両手を組んだ。


「もっと大きく成長してみないか?」

「え?」


「ひとりの男として、経験を積むべき時が来た。つまらないだろ? いつまでもちまちま筋トレやっててもさ」

「……どういうことですか?」


「ひとつ、上の男になるってことだ」


そう言って、リーダーはスマホの画面を俺に見せた。


―――――――――――――

四国♡ピンク♡ダンジョン♡高松

―――――――――――――


  ずんどこペロンチョ


うふ~ん♡

ずんペロの店長、吉田よ~ん♡


平日は朝の10時から夜の8時までやってるわ~ん♡

週末と祝日は12時から夜の10時までよ~ん♡

いまならお友達と来店で特別割引もやってるわよ~ん♡


―――――――――――――


「こ、これは……」

「な? まったく意味がわかんねぇだろ?」


「たしかに……いかがわしい感じだけはわかりますが、何をするのかは一切不明というか……」


「でも、ちゃんとダンジョンなんだよ。協会に登記されてたからな」

「えぇっ! 調べたんですか⁉」


「ああ、基本だろ? 最近は闇ダンジョンも増えてるからな。潜って出てきたらDPごっそり抜かれてたって話も聞くぜ?」

「物騒ですね……」


「まあ、プロダイバーとして違法なダンジョンなら通報の義務もある。だからこれは、あくまでも確認の意味合いが限りなく強い……うん、そうだ確認だ」

「確認……」


説得力は皆無だが、たしかに一度くらいはどういうものなのか知っておきたい気持ちはある。

でも、もしそういうダンジョンだったら……。

万が一、花さんに知られたら、二度と口も聞いてもらえなくなったり……。


「ジョーン、不安なのは俺も同じだ。そういう感じでヤバいなと思えば帰ればいいだけさ。な?」

「そ、そうです、よね……帰れば」

「そう、帰れば」


俺達は目を合わせて頷き合った。



    *  *  *



――八重垣新地。

まるで出島のような場所にちょっとそういうお店が並んでいる。


人気の無い細い路地を、リーダーとふたりで俯いて歩く。

スマホの地図を見ながらリーダーが指を指した。


「あれだな」


見上げると、ネオン看板に「ずんどこペロンチョ」とポップな字体で店名が書かれていた。

建物は小さいパルテノン神殿のようだった。


「「……」」


俺とリーダーは無言で看板を見つめた。


「心の準備はいいか?」

「ウィ」


「……行くぞ」


リーダーが颯爽と門をくぐる。

俺は慌ててその後に続いた。


「――いらっしゃいませ」


おや? なんかこう、もっとピンクなどぎつい感じを想像していたのだが……。

意外にも落ち着いたトーンというか、穏やかな雰囲気の店員さんだ。


「初めてなんですが……」とリーダー。


「それではご案内します」


店員さんはカウンターの上にパンフレットのようなものを開いた。


「こ、これは……」


パンフレットには女の子の顔写真がずらっと並んでいた。

や、やっぱりそういう……!


「先に申し上げて起きますが、当店は「無し」です」

「へ?」

「な、なし?」


「はい、「無し」でやらせていただいております」


それってそういうのが無しってこと……?

少しだけホッとしている自分がいた。

ちらりとリーダーを見ると、リーダーも少し緊張が解けた顔をしている。


「そ、そうですか、それでこの子たちは……」


「この中から気になる子を選んでいただき、当店ではフレンドと呼んでおりますが、そのフレンドと一緒にあちらからダンジョンへ潜っていただくシステムとなっております」


店員さんが指さす方を見ると、ピンク色をしたサテン生地のカーテンが吊られた入り口があった。

う~ん、いかがわしい……。


「えっと、一緒に潜るの?」

「ええ、ご一緒に」


「装備とか……」

と、俺が横から尋ねると、店員さんはまるでその質問を待っていたかのように薄い笑みを浮かべた。


「フレンドの装備もこちらから選んでいただくシステムとなっております……」

スッと別のパンフを取り出す。


「い゛っ⁉」


そこにはメイド服やきわどいビキニ、修道服、ナース、制服、某アニメキャラコスプレなどなど……多種多様なコスチュームが用意されていた。


「お好みのものはございますか?(ニチャァ…)」


俺とリーダーは生唾を飲み込んだ。



    *  *  *



「れいなでーす、指名ありがとーよろしくね~♡」

「アッ…ハイ…」


「声ちっさ~♡ や~んかわいい~♡」

「エッ、アッ、ハイ……」


ヤバい、これはヤバい……。

清楚系のものすごく綺麗なお姉さんを選んでみたものの、こんなに密着してくるなんてっ……!

良い匂いがしてクラクラする……。


ぐいっと腕組みをされ、もはやアレが二の腕にばっちり当たっちゃってる。

歯医者でうっかり当たったとかのレベルじゃない。

まるでヨギボーだ……!


「じゃあ、いこっか?♡」

「アッ…ハイ…」


ピンクのカーテンをくぐる。


リーダーはすでに修道女を連れ、先に旅立っている。

長い付き合いだが、リーダーの知らない一面を垣間見た気がした。


中に入ると、ひんやりと冷たい空気を感じた。


レンガの壁が続いている。

へぇ、これは……迷宮タイプか。


「あの、ここってどういうモンスが出るんでしょうか?」

「う~ん、なんだっけ~♡ うねうねしたやつとかぁ、ネトネトしたやつとかかなぁ~♡」


耳元で囁くように答えるれいなさん。

くっ、だめだ、聞いた俺がバカだった……!


「と、とりあえず、進みましょうか……」

「うん♡」


歩くたびにヨギボーの感触が襲ってくる。

ちなみに俺はメイド服を選んでいた。


少し進むと、天井からスライムが落ちてきた。


「うぉっ⁉」

「いゃん!♡」


焦ったぁ……。

普段なら気付かないことなんてないんだが、今の状況だと注意力が散漫になってしまう。


「少し下がっててください」

「はぁい♡」


俺はルシールを振り下ろし、スライムを倒した。


「行きましょうか」

「強いのねぇ~お名前聞いてもいい?♡」


「ジョ、ジョーンといいます」

「ジョーンくん?♡ お姉さんのこと、守ってね♡」


ぎゅっとれいなさんが抱きついてきた。


「ヨギボォーッ!!?」

「え? なに? ヨ、ヨギボ??」


「あ、いえ、なんでもないです……ハイ」


駄目だ、もう精神が持たない。

早く終わらせて帰ろう……。


順調に2階層、3階層と進んで行く。

途中、仕込みと思われる触手モンスに、わざと捕まりにいくれいなさんを助けるなどして、ようやく俺達は最終階層にたどり着いた……。


すでに俺はヨギボー耐性を獲得し、平常心で戦えるようになっていた。

慣れというものは恐ろしいものだ。俺はこの店で大事な何かを失った気がする……。


「ジョーンくん、あれがボスよ~ん♡」


れいなさんが指さす。

そこには迷宮タイプらしく、首無し騎士のデュラハンが立っていた。


「おぉ……! デュラハンだ!」


ダンジョロイドにもなっている人気モンスの一角である。

戦闘力は低いと聞いているが、舐めてかからない方がいいな。


俺はルシールを握りしめ、デュラハンに殴りかかった。


「うぉおおおおおーーーーーっ!!」




    *  *  *



「おつかれさまでした」


ピンクのカーテンを抜けると、カウンター前に戻ってきた。

パッとヨギボーの感触が消える。


「ありがとうございました~♡ かっこよかったよ~また来てねジョーンくん♡」

「アッ…ハイ…」


れいなさんが手を振りながら奥の部屋に去って行く。

唐突な喪失感を覚えながら、二の腕辺りがやけにスースーと冷たく感じていた。


「おい、どうだった?」

「リーダー……」


待合のソファに座っていたリーダーが、平静を装いつつ声を掛けてきた。

あれ? 鼻の下……こんなに長かったっけ??


「社会勉強になりました……てか、デュラハンいましたよね?」

「おお、いたな。あんな大きい……あ、いや、デュラハンな」


何の話をしているんだ……。


「とりあえず、確認はできた。こういうダンジョンもあるんだって勉強になったよな」

「そうですね……本当に勉強になりましたよ」


数秒、互いに見つめ合う。

リーダーが膝を叩いた。


「さて……行くか?」

「はい」



「ありがとうございました」


俺達はチェックアウトを済ませ、店の外に出た。


「ん、んあぁ~っ……!」


リーダーが大きく背伸びをした。

俺も大きく深呼吸をする。


細い路地に二人の影法師が伸びる。

並んで歩きながら、どちらともなく口を開く。


「あの」「なあ」


「なんだよ?」と、リーダーが笑いながら言う。

「いや、何でもないです、リーダーこそなんですか?」


「……世界って、広いんだな」


「え?」

俺は笑いながら聞き直す。


「ほら、俺も大抵のことはもう知ってるつもりだったけどさ……世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあるんだろうなって思ってな。だって、日本でこれだぜ?」


「ま、まあ、たしかにそうですけど……」


「しっかし、ピンクダンジョンとか、フッ、考えたよなぁ~」

リーダーは頭の後ろで両手を組み、茜色に色づいた空を見上げた。


と、その時――。



「ん?」

リーダーがスマホを取り出す。

バイブが鳴っている。誰かから連絡が入ったようだ。


「もしもーし」


「え? おぉ、高松。うん、そ、ジョーンとな、ちょっと待ってスピーカーにするわ」


どうやら紅小谷のようだ。

すこしハスキーな声がスマホから聞こえてくる。


『そんなことはどうでも良いのよ……曽根崎くん、いまどこ?』


あれ? ちょっと声のトーンが……。

見ると、明らかにリーダーの目が泳いでいた。


「え、だ、だから高松で……」


『それ聞いたから。で、どこいるの?』


「えっと、どういう……」


隣で聞いている俺でさえ、すさまじい緊張で喉が張り付くようだった。


『……はあ。あのさぁ、曽根崎くん。この業界で私を敵に回してダイバーできるとでも思ってる?』


「い、いや、鈴音? どうしたんだよ?」


ヤバい、脇汗が止まらない……。


『この……たわけーーーーーっ!!! あんたのGPSが八重垣新地から動いてないのよ! 私がどんな場所か知らないとでも思ってんの⁉ あ゛ぁん?』


か、完全にお見通し――!


『ジョンジョンッ!』


「は、はいぃっ!」


『誘われたからってホイホイ付いてってんじゃないわよ! 思春期か!』


「ご、ごめん! そんなつもりでは……」


『どんなつもりなのよ! このたわけーーっ! 花さんにも言っておくからね……覚悟しなさい!』


「す、鈴音、ちょっと落ち着いて……」


『曽根崎くん、しばらく連絡しないでね。んじゃ――』


「お、おいっ! 鈴音! あ……」


通話が切れ、ホーム画面に楽しそうなリーダーと紅小谷の二人で撮った写真が映った。


「うぉおおおおーーーーーっ!! なんでピンクダンジョンなんか行っちまったんだ俺はぁあああぁぁーーー!!」


リーダーが両手で頭を抱えながら地面をのたうち回っている。


たしかにキツい。

気持ちは痛いほどわかる。


だが……。


「え……地震?」


違う、足が勝手に震えていた。


ど、どうしよう……花さんに嫌われてしまうかも……。


それだけは……。


ポケットの中でスマホがブルッと震えた。

嫌な予感がする……。


恐る恐る、俺はスマホを取り出す。

見ると、メッセージが入っていた。


―――――――――――――――

hana

 おつかれさまです

 しばらくお店の方はお休みしますね

―――――――――――――――


「ひゅっ……」


お、終わった……。

サァッと頭の芯から冷たくなる。


ど、どうしよう……。

俺は震える指で返事を送った。


―――――――――――――――

ジョーン

 大丈夫? 具合でも悪いの?

―――――――――――――――


―――――――――――――――

hana

 理由、言わなくてもいいですよね?

―――――――――――――――


こ、これは……!

絶対に連絡行ってるやつ!


俺は膝から崩れ落ちた。


リーダーはまだ転げ回っている。


俺はそのまま地面に仰向けに倒れた。

空には夕焼けが広がっている。


「く……くそナポリタンみたいな色しやがってっ! うわぁああああああぁぁーーーーー!!!!」


気付けば俺もリーダーと同じように地面をのたうち回っていた。



春愁や 消えたヨギボー 恋も消す


愚か者ふたりの恋路は、また別の機会に――。

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壇ジョーン… い、生きとったんかワレ!
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