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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
叔父さんのダンジョン編

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初心忘れるべからず

ベッドに寝転がって、愛読書である月刊GOダンジョンを流し読みしていると、テーブルの上でスマホのアラームが鳴った。


「お、そろそろ約束の時間か」


俺はベッドを降りて、テーブルの上にタブレットを置いた。

今日は紅小谷にリモートで相談に乗ってもらう約束をしているのだ。


ムシヒロの方は、あれから4万に届きかけた接続数もいくらか落ち着きを見せ、今は2万~3万程度で安定推移していると丸井くんから連絡があった。


丸井くんもハァハァしてたし、自分でもいろいろと調べてみたのだが、どうやらこの数字は相当なものらしい……。

もちろん嬉しいし、素直に喜ぶべきだ。

豚太郎で焼肉パーティーをしたいくらいには、俺の気持ちも盛り上がっている。


だが、どうしても引っかかるんだよなぁ……。


なんつーか、虫配信というニッチジャンルはコンテンツが少ない。

ということはだ、ファンは絶えずコンテンツを求めて、アンテナを張っているはずなんだよなぁ……。


もしそうならムシヒロの配信は、飢えたファン達にとって極上の蜜だ。

一気に飛びついてもおかしくはない……。


そう、同接3万という数字はジャンルファンの総数ではないのか、というのが俺の抱いた懸念なのだ。


そうこう考えてるうちに、タブレットの画面が切り替わり紅小谷の顔が映った。


『ジョンジョンー、げんきー?』

「おぉ~元気元気! 今日は悪いな、忙しいのに……」


『はいはい、そんなの気にするタイプじゃないでしょ? で、相談ってメールにあったムシヒロの配信のことよね?』と、紅小谷は片眉を上げながら言った。


「う、うん……その、やっぱりニッチジャンルだと初動が上がる傾向があるのかなって思ってさ。こう、初回がピークでした、みたいだと怖いっていうか……」


『まあ、それはどの配信にも言えることだから、気にしても仕方ないと思うわよ?』

「そうなの⁉」


『んー、たまにムシヒロみたいな定点ライブがバズる時があんの。それってさ、やっぱりある時点でピークがあって、そこからだんだんと接続数が落ちていくわけ。んで、残った数が本来のベースになる数字。だから、いかに離脱を防ぐか――、なんだけどさ、ムシヒロみたいな定点系は基本受け身でしょ? そこが難しいのよ』


そう言って、紅小谷がちいさく首を振る。


「むぅ……」

『たとえば、ウチで最近始めた料理系の配信だと同接12,000くらい』

「おぉ~さすがだな」

『で、料理系は定点系と違って、やればやるだけコンテンツストックが充実してくるし、ウチはSNSでもかなりの層にリーチできるからね。たぶん、半年後には桁一つ違ってると思う』

「いっ……⁉ ま、マジで……?」


やっぱ紅小谷ってすごいんだな……。

どうするよ、うちも虫料理……いや、それはちょっと無理か。

なんとか硬い虫ならいけそうな気もするが……。


『ちょっとジョンジョン? どーせ、虫料理でもやってみるかとか思ってんでしょ?』

「な、なんでわかるんだよ! エスパーか⁉」


画面の中で紅小谷が大きくため息をつく。


『ったく、誰でもわかるわよ……。あのさぁ、配信の心配よりも先にやることあるでしょ? せっかく丸井くんがいるんだから、ジョンジョンは余計なことせずにサポートに徹すること! いい?』

「いや、でもさ……」


『すぅ……(息を吸い込む音)あんたは自分のダンジョンの心配しなさいよ! この……たわけーーーーーーーーーーーーーっ!』

画面に紅小谷の人差し指が喪黒ばりに大きく映った。


「ご、ごもっともです……!」

俺は画面に向かってひれ伏した。


『……ったく、優先順位を考えなきゃ駄目よ? D&Mも数字落ちてるんでしょ? まずは、自分の足元を固めること。これが一番大事なのよ』


なんだかんだ言いつつ、紅小谷が本気で心配してくれているのが伝わってくる。

本当に良い友達を持ったな……。


「そうだよな、うん……ありがとう。頑張ってみる」


俺って……大事なことを間違えてばっかだな。

ほんと、たわけな奴だわ……。


『またイベントやるなら宣伝手伝ってあげるから』

「う、うん、わかった。ありがとう」


『じゃ、私そろそろ時間だから、また連絡して?』

「あ、うん、連絡する。……紅小谷、マジで助かった。ありがとな」


『貸しだから』と、紅小谷はニッと笑いながら手を振る。

俺も手を振り返すと、画面が切り替わった。


「ふぅ……」


そのままベッドに凭れて、俺は天井を見つめた。


ふと、初めてD&Mを見た時のことを思い出した。

最初は寝るのも惜しんでダンジョンに入り浸ってたなぁ……。


薄闇の中、初めてスライムがいるのを見たときは震えるくらい嬉しかった。

デバイスを設置して、イベントをやって……みんなで打ち上げをして……。

レイド発生なんてアドレナリン出っぱなしだった。


そういや最近、あの老齢のコボルトを見てないな……。

コジロウと楽しくやってたと思うんだが。



「……」


やっぱ……。



やっぱ、楽しいよな!



最高だよ、ダンジョンって!


急にいてもたってもいられなくなってきた。


ダンジョンに行きたい!

そんな気持ちが爆発しそうになる。


「ほっ!」


俺は勢いよく立ち上がった。


「よっしゃ、行動あるのみっ!」


部屋を飛び出し、三段飛ばしで階段を駆け下りる。


「おいこらっジョーン! もっと静かにできんのかっ!」


居間から怒った爺ちゃんの声が聞こえる。


「ごめんごめーん!」


適当に謝りながら、家を飛び出した。


部屋の中であれこれ考えたって仕方がない。

やっぱ現場を見ないとな!


一からやり直すつもりでやってやるぞ!



「うおぉおおおおおおーーーっ!! やるぞぉおおおーーーーっ!!」



俺は新たな決意を胸にダンジョンに向かって走った。


ありがとうございます!!!!

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― 新着の感想 ―
定点バズる そして、潮が引くのありますね でも、虫系だと蛍みたいな季節イベントで年に何回かピークを作れないものか
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