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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
叔父さんのダンジョン編

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母を説得しました。

平日の昼下がり、いつもならのんびりお茶をすする爺ちゃんと陽子さんが、テレビを見てくつろいでいる時間だが……。



「ジョーーーーンっ‼ どういうことっ⁉」



情けないことに、いくつになっても母さんの怒声には身がすくんでしまう。 


「い、いや、母さん、落ち着いて……」


闘神のようなオーラを発しながら、腕組みした母さんが俺を見下ろす。

視界の端には、そっと家を出て行く爺ちゃんの姿が……うぅ。


「はあ……まったく。で、タケオ――」

ギロッと叔父さんの方を睨み付ける。


「ひっ……⁉」


肩を震わせる叔父さんは、今にも泣き出しそうだ。


「私は蜜子さんに何て言えばいいの? 反省もせず、また虫中心の生活を送ろうとしてるって言うの? アンタ状況理解できてる? 嫁と子供が出てってんのよ⁉」


「それは……その、姉ちゃんの言うとおり……俺が悪いと思っとるけん」

「だったら、もう一回言ってみて。何て言ったのかしら?」


叔父さんは、俺と博士、そして縮み上がっている丸井くんを見た後、決意に満ちた目で母さんに告げた。


「姉ちゃん……俺、虫モンス配信で食っていこうと思うんだ!」




「――うぉぶごきゅっ⁉⁉」




「「え?」」


まるで、サウナの熱波師に扇がれたような突風――。


視界から叔父さんが消えたことに気づく前に、悠然と拳をさする母さんの姿に俺たちの目は釘付けになっていた。


「ふぅ……。ジョーン、タケオじゃ話にならないから、あなたが説明してくれる?」

「おっ、俺っ⁉」


「他に……誰がいるのかしら?」


母さんがうっすらと笑みを浮かべながら聞き返してくる。

い、いかん、これは何年かぶりに顕現した『憤怒』だ……!


「わかった! わかったから、怒らずに、最後まで聞いてほしい! ですっ!」

「……いいわ、ちゃんと聞きます」


何とか矛を収めた母さんが、座布団の上に腰を下ろす。


「まず、紹介するね。この方はその……ムニャラ同人会で著名な、む、六子五郎さんという方で……」

「ん? 何、同人? ごめんなさい、ちょっと聞こえなかったわ」


「えっと……その、む……虫っぽい同人っていうか……」

「は……?」


「いやいやいや! 違う違う!」


ひぃぃい! もう嫌だ!

なぜこんな事に……!



「――申し訳ありませんっ!」



死を覚悟した瞬間、博士が立ち上がって母さんに頭を下げた。

L字直角90度、それはそれは見事な礼だった……。


「ジョーンくん、私からお姉さんに説明させてくれんかね」

「博士……」


不思議と博士が頼もしく見える。

確かに博士なら母さんを説得できるかも知れない……!


期待しつつ、成り行きを見守る俺たち。

博士は自らの罪と昆虫愛……そして、叔父さんを巻き込んでしまった経緯を、熱く、情熱を込めて語る。その姿はまるで、勇者の冒険譚を謳う吟遊詩人のようだった。


「……なのです! おぉ、どうか、タケオくんを許してあげて欲しいっ! そして、私たちの活動を見守っていただけないでしょうかぁーっ!」


「「……博士!」」


ほんの少し、胸に熱いものを感じた。


俺は隣でしきりに頷く丸井くんを横目で見た。

と、同時に、叔父さんが部屋の隅に転がっているのも見つけた。


「……そう、話はそれで終わりかしら?」


これはっ⁉

博士の熱意が伝わったのか……⁉


「じゃ、警察を呼びます。逃げてもいいけど罪が重くなるわよ」

母さんがおもむろにスマホを取り出す。



「「ぬわあぁあああ――――⁉⁉」」



俺は母さんのスマホを奪い取った。


「ちょっとジョーン、返しなさい!」

「ま、待って! 待ってくれよ!」


駄目だ、母さんに泣き落としなんて通用しない。

でも……そもそも、母さんがなぜここまで怒ってるんだ?


俺は畳の上に転がる叔父さんを見る。

そうか! 蜜子さんのことが心配で……。


うぁーっ! もうっ!

この問題を解決する方法はないのか⁉ 


「あの……僕からもいいでしょうか?」


「え?」


見ると、今まで黙っていた丸井くんが恐る恐る挙手をしていた。


「えっと、ごめんなさい、あなたは……」

「丸井といいます。ジョーンさんにはいつもお世話になっております」


丁寧にお辞儀をする丸井くん。


「あらあら、ご丁寧にどうも。あなたは話が通じそうね」


礼儀正しい丸井くんに、母さんの機嫌が少し持ち直す。


「僕が聞いた限り、お母様の一番の懸念は、タケオさんのご家庭の問題ですよね?」

「え、ええ……そうよ」


キリッとした表情で丸井くんが続ける。


「それでしたら、この問題は丸っと解決できます――」


おぉっ、なんか決めゼリフっぽい……。

俺は博士と一緒に丸井くんの言葉を待った。


「……いいわ、聞きましょう」


母さんも興味を持ったようだな。

叔父さんを除く全員が再度、ちゃぶ台を囲んで腰を下ろした。


「僕たちが企画している配信はこうです……」


丸井くんが『虫モンス』というコンテンツについて説明を始めた。

最初に、虫と遊ぶのではない、ということを強調している。


「僕は以前、ギーザス丸井という活動名で配信を行っていた経験があります」

「あら、なんとなく聞き覚えがあるわね……」

「光栄です、恐らくダンジョン協会の番組にも何度かお邪魔させていただいたので、お耳に入ったのかも知れません」

「まあ、協会の……」


さす丸っ! その調子だ!

母さんの警戒心がかなり解けてきたぞ……。


「ですから、まったくの素人が思いつきでやるわけではないんです。ニッチではありますが、経験者の目から見て、狙う価値のあるターゲットゾーンかと……」


そして、ニッチ層であるユーザーを掴むには、叔父さんと博士の見識や価値観が欠かせないこと。実務は自分と博士が請け負い、俺が管理者として監督する立場であることなどを順序立てて説明をする。


「じゃあ、それって来客は見込まなくても採算がとれるってことよね?」


始めはつまらなさそうだった母さんも、次第に何やら考え込むようになってきた。


「はい、いろいろなケースでインセンティブが発生する広告がありますし、運営スタッフを増やす必要もありません」

「へぇ、人件費も……」


さらに丸井くんが続ける。


「特定の虫モンスに人気が出れば、グッズ展開も期待できます。そういった企画はタケオさんにお願いしようかと」


「……」

母さんは目を閉じて考え込んでいる。


「……タケオさんは、いままでのように虫遊びを続けたいのではなく、副業として虫モンス配信事業を始めたい、ということなんです。それに、僕やジョーンさん、博士も一緒です。同じ間違いは、決して起こさせません!」


おぉ、丸井くん……君って奴は!



「……説得力はあるわね。タケオ!」


「は、はいっ‼」


転がっていた叔父さんが飛び起きた。


「丸井さんの言ってることは本当なの?」


母さんが叔父さんに鋭い目を向ける。

いつもの叔父さんなら目を逸らすところだが、グッと拳を握り絞め、その目を見返した。


「そ、そうや! 俺やて、一番大事なんは家族やーゆぅてわかっとる! だけん、これからはちゃんと仕事として虫と向き合う……そんで、蜜子と亜美を、絶対に幸せにしてみせたんでっ!」



「はあ……わかりました」

母さんが大きくため息をつく。



「いいわ、認めましょう――」



俺たちは皆で顔を見合わせる。


「母さん!」「姉ちゃん!」

「「やったぁ!」」


「ですが、条件があります」

母さんが眼鏡をクイッと持ち上げた。


「「え……」」


「まず、ダンジョンの名義は蜜子さんに。タケオは本業を辞めないこと」

「も、もちろんや! そんなんいくらでも……」


「挑戦期間は一年とします」


「「えぇっ⁉」」

「い、一年って姉ちゃん……」


「あら、これは事業よね? 終わりを決めておくのは当然です。この挑戦期間の間に結果を出せなければ――タケオ、けじめをつけると約束をしなさい」

「け、結果って……」


母さんは少し斜め上を向いて考えたあと、「あ! ほら、たしかダンジョン協会の動画共有サイトがあったわよね?」と、俺に振る。

「あ、あぁ、ダイブモーションでしょ?」


「そう、それでランキング一位になること。それを結果とします」


「「いっ……⁉」」


俺は丸井くんと顔を見合わせた。

丸井くんは小さく首を振る。

叔父さんと博士は事態が飲み込めておらず、きょとんとしている。


「じゃあ、蜜子さんには私から話しておくから」


そう言って、母さんが席を立つ。


「ちょ、さすがに一位は……」


俺が呼び止めようとすると、

「まだ何か?」と母さんが闘神の笑みを浮かべる。


「い、いや別に……」


「そ、じゃあ、私はもう行くから。それとタケオ、経過報告は週一で」

「は、はいっ!」


叔父さんの返事に頷き、母さんは仕事に戻っていった。


母圧が消えた居間で、俺たちは「はぁ~~」と一斉にその場にへたり込む。


「相変わらず半端なかったな……」

「死人が出るかと思いましたぞ」

「ホントにすごい迫力でしたねぇー」


おもむろに叔父さんが丸井くんの前で頭を下げた。


「ホンマ、丸井くんのお陰や……! ありがとう!」

「や、やめてくださいよ。僕も自分のためにやったことですし……」


困り顔の丸井くんが、叔父さんに頭を上げるように促した。

その後、少しためらう素振りを見せた後、神妙な面持ちで口を開く。


「それよりも、ダイブモーションで一位を獲るのは……難しいかもしれません」



「「えっ?」」



「で、でも、全国の同士が……」

叔父さんがオロオロしながら言う。


「……たしかに、ある程度の接続数が見込めると思います。ですが、恐らく五〇位以内に入ることさえ難しいかと」

「え、あそこって、そんなに厳しいの⁉」


「はい、他サイトでは一位常連であった『ギーザス丸井』の全盛期でさえ、一度も10位圏内に入ることはできませんでした」

「「――⁉」」


悔しそうに顔を逸らす丸井くん。


ちょ、ギーザスでも駄目だったとか……。

これ、始める前から詰んでない?

ありがとうございます!


「黒幕令嬢アナスタシアは、もうあきらめない 二度目の人生は自由を掴みます」

本日3/5配信B's-LOG COMIC Vol.146より連載スタート!よろしくお願いします!

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自身のダンジョン経営よりも難しいチャレンジじゃないですかー
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