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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第一部

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21/214

ビジネスチャンスの予感がします。

 朝、麦茶とおにぎりを持ち、いつものようにダンジョンへ向かう。

 カウンター岩の影からひょっこりと黄色いものが動いた。

「ダンちゃん、おひさラキ!」

「ラ、ラキモン!」

 その愛くるしい姿に何故かビクッとしてしまう。

 何だろう、何か忘れている気が……。

 気のせいかな?

「おお久しぶり、どうした?」

 ラキモンはぷにぷにとこちらへ歩いてきた。

 そして、何を言うわけでもなく、モジモジしている。

「ん?」

 何だろうとラキモンを覗き込む。


「ダンちゃん……あれ……」

「あー、あれね。おkおk」

 俺は棚の引き出しから瘴気香を取り出して

「これ?」と訊く。

「うぴょっ! それラキ! ダンちゃん~」

 と言いながら、まるで猫のように顔を足に擦り付けてくる。

「ははは、わかったわかった、はいどう……」

 差し出した瞬間、疾風のごとく俺の手から瘴気香を取ると

「うっぴょー!! あま~いラキ! はぐはぐ……。うぴょっ!」

 美味しそうに齧っている。

 モンスであるラキモンにはお菓子のようなものなのだろう。

「ホントに好きなんだな……」

 ラキモンは食べ終わると

「ぴょ~、ダンちゃんありがとラキ!」

 と言いながら、嬉しそうにぴょんぴょん跳ね、ダンジョンへ戻っていった。

「意外とクールというか……」


 なんとなく寂しい気持ちになりながらも、ダンジョンのOPEN準備にかかる。

 チラシの効果はまだ実感していない。

 まあ、そんなすぐにはなぁ……と思いながら表を箒で掃く。

 しかし、そろそろ階層も増えて良さそうな気もするが、それも欲張りというものか。

「よし、綺麗になった」

 表を掃き終えて、入口周りの拭き掃除、更衣室の清掃、石鹸のラップ巻きなど、細々とした作業を手際よく終わらせてデバイスをOPENにした。


「すみません、ここはD&Mダンジョンでしょうか?」

 おっと、早速誰か来たようだ。

 色白で幼く見える青年、真っ白なシャツに短パンというラフな格好なのだが、凛とした気品のようなものを感じる。

「はい、ここですよ!」

 初めて見る人だ、よしっ!


 青年は微笑んで

「良かった。実は昨日ダイバー試験に合格した時に、こちらのチラシを拝見しまして」

 よく通る声で、物腰も柔らかな印象だ。

「おお! ご覧いただけましたかっ!」

「はい、とても親切に書かれているなと感じました」

「それは、いやぁ、ありがとうございます、へへ」

 俺が照れ笑いを浮かべていると、青年が切れ長の目をこちらに向けて

「それで、一つご相談があるのですが」

「え、はい、僕に出来ることでしたら」

「ありがとうございます。実は、大学でダイバー同好会を開いているのですが、メンバー全員で昨日免許を取ったばかりなんです。それで良かったらレクチャーをして頂けないかと思いまして」

「なるほど……」

 レクチャーか、これは願ってもないチャンスだ。

 それに、大学のサークルだと、定期的に纏まった人数で利用して貰えるかも知れない。


「どうでしょうか?」

 青年は窺うように俺を見た。

 俺は少し考えた後で

「わかりました大丈夫ですよ」と笑顔で返事をする。

「ありがとうございます、ちょっと皆と相談して、改めて連絡してもいいですか?」

「あ、はい、もちろん。じゃあ連絡先を……」

 俺はスマホの番号を青年に教え

「店長の壇ジョーンっていいます、よろしくお願いします」と、自己紹介をした。

「本名なんですか?」

 と、青年は不思議そうな顔をする。

「あ、父がアメリカ人なので、全然和顔ですが。ははは」

「そうだったんですね、僕は山河(やまかわ)大学三年の鈴木蒼真(すずきそうま)と言います」

 鈴木は姿勢を正して頭を下げた。

「どうもご丁寧に、あ、良かったらジョーンって呼んで下さい。あと人数と予算なんかもできれば提示してもらえると助かります。では連絡お待ちしていますね」

「はい、よろしくおねがいします」

 鈴木は矢鱈に負けないような白い歯を見せて、帰っていった。


 あれは多分、剣道とか武道をやってるんじゃないかな?

 体幹が通っているというか、身体の芯がぶれないというか、うーん大したもんだ。


 さて、これは、かなりのチャンスだぞ。

 よーし、早速プランを練らねば。


 レクチャーか、どんなものにすればいいのか?

 うーん、威勢よく受けたものの……。


 ダイバー試験に合格したという事は、基礎知識はあるということ。

 とにかくレクチャーよりも実践するほうが早いのだが、それを言ったらおしまいである。

 何より、最初は誰でも怖かったり、難しく考えたりするものだ。


 レクチャー後に、うちに通ってもらう事が大事だよなぁ。


「となると……」


 俺はデバイスの全体マップを開き、フロアを確認していく。

 こうやって見ると、だいぶモンスも増えてきたな……。


 マップモードの赤い点でモンスの数や大体の場所はわかる、ビューに切り替え確認。

 ビューの映像は画質が荒い。特徴のあるモンスならすぐわかるのだが……。

 分かりづらいモンスや、動きの早いモンスはビューで追うだけで手一杯だ。

 追っている間に、他のモンスがじっとしていてくれればいいのだが、そういうわけにもいかない。

 以前のように、モンスが少なければ十分確認できたが、この分だと、あれをやらなければならないだろう。

 モンス洗いを!

 ※モンス洗い……業界用語でダンジョン内のモンスを直にチェックする事をさす。



 ――閉店後。


 俺はデバイスをメンテナンスモードに切り替え、メモ帳を持ってダンジョンへ入る。

 笹塚時代を思い出すなぁ。良く年末にリーダー曽根崎とやらされたもんだ。

 たっぷり二時間程かけてチェックを終え、一階へ戻って麦茶を飲んだ。

「あ~、疲れた」

 以下、メモの内容そのまま。

 印なし……下位種 ★★……中位種 ★★★……上位種

 ☆……GK ☆☆……ユニークモンス(同種に比べて少し強い)


【一~五階 洞窟タイプ】

 一階……スライム


 二階……ウツボハス・バババット・トレント・スライム


 三階……バババット・フォックス(元GKのやつだと思う)・スライム・ミルワーム


 四階……バババット・ミルワーム・フレイムジャッカル


 五階……マッドグリズリー☆・ホーンラビット・バババット・ミルワーム


【六~十階 迷宮タイプ】

 六階……ヴァンパイア・ロード★★★(石棺のみ確認、本体確認できず)・ミドロゲルガ・スケルトン

 

 七階……ヴァンパイア・ロード★★★(石棺のみ確認、本体確認できず)・ミドロゲルガ・スケルトン・ボーンナイト


 八階……スライム(こんなとこにも!)・スケルトン・ボーンナイト・ウィスパー


 九階……バババット・スケルトン・ボーンナイト・ヘルボーンナイト★★・ウィスパー・スコロペンドラ・ケローネ


 十階……ヴァンパイア・ロード★★★(石棺のみ確認、本体確認できず、蓋なし)・ヘルボーンナイト★★・スコロペンドラ・バババット・ウィルオウィスプ★★


【十一~十五階 密林タイプ】

 十一階……スコロペンドラ・ポイズンウツボハス・ドラゴンフライ・ビッグスライム★★・ミセル・ケローネ・ゴブリン


 十二階……スコロペンドラ・ドラゴンフライ・バブーン・ゴブリン・ビッグスライム★★・ケローネ・ナイトジャッカル・エンペラービートル・リッパー・カルキノス・リュゼヌルゴス★★・バルプーニ★★


 十三階……池にフライングキラー(要注意喚起忘れずに)・リュゼヌルゴス★★・バルプーニ★★・ドラゴンフライ ※モンス少なめの印象


 十四階……エンペラービートル・スパイラルモモンガ・ジャイアントオーク・リュゼヌルゴス★★・バルプーニ★★・ヘルハウンド★★・アウルベア★★


 十五階……ミノタウロス☆☆・スパイラルモモンガ・デスワーム★★・リュゼヌルゴス★★・ケットシー★★・ドラゴンフライ・ケルロス★★(ケルベロスの幼体!!これはヤバい!嬉しい!可愛い!)


 と、まあ大変だったわけだけども、かなり嬉しい内容となった。

 ロードが確認できなかったのは残念だが、石棺があったので復活の可能性は高い。

 しかし、なんと言っても、十五階のケルロス! 成体になれば、かなりの広告塔になる。

 ただ、成長が遅いのが難点だが……。

 凄いダンジョンにもなると、一気に成体から発生することもあるというが、俺のダンジョン規模ではまだまだ先の話だろう。

 ちなみに、ラキモンの姿は見えなかった。

 たぶん、またウロウロして行き違いになったのだろう。

 まあ神出鬼没というのが売りでもある。

 俺は、ちょっと残念な気持ちになりながら、会った時の為に持っていた瘴気香を棚に片付ける。


 しかし、新顔もちゃんと発生してたし、着々とダンジョンが活性化しているのがわかる。

 うんうんと頷き、メモを見ながら麦茶を注ぐ。

 さて、どうしたものか。


 やはり初心者としては、五階のマッドグリズリーを倒すのが当面の目標になるだろう。

 ならば、武具の説明と強化法、うん、これは間違いない。

 そして、基本的なモンス種別ごとの特徴や戦い方。

 五階までに植物系、魔獣系、虫系、粘体系がいるからそれで説明するとして、あとは質疑応答みたいな形がいいかな。


「こんな感じかなぁ」

 俺はスマホの時計を見て

「うわっ! もうこんな時間」

 急ぎ、後片付けを始める。

 

「よし、続きは明日にしよう」

 

 メモとスマホをポケットに入れ、デバイスをCLOSEに。

 フェンスの鍵をかけて、背伸びをしながら家に向かう。

 辺りはすっかり暗くなっていたが、月明かりのお陰で視界は悪くない。


 あ、矢鱈さんに相談してみるかな?

 いや、ダメだ。俺はぶるぶると頭を振る。

 いきなりまた五月雨珠近(さみだれじゅこん)なんて出された日にはレクチャーにならない……。

 そうだ、リーダー曽根崎に相談してみよう。

 新人研修でいつも指導員だったもんな。

 何かコツみたいなものを聞けるかも知れないし。


「おっと」

 生暖かい突風に背中を押された。

 上手くいけばいいなぁ……。



 所持DP   234,582

 来客 15人   7,500

 石鹸 5個      500

 計      242,582

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