ムシヒロ
「実は、実家に戻ってまして……」
「えっ⁉ でも配信は……?」
「それが、お恥ずかしい話、上手くいきませんでした……」
恥ずかしそうに後頭部をさする丸井くん。
そうか、上手くいってると思ってたのに……。
「ま、まあ、ああいう世界は厳しいだろうから……」
「はい、自分の力が足りなかったんだと思います」
「でも、どうしてここに?」
「あ、それが峰山公園で瞑想しようと思ってたら、お二人を見かけまして……。その、タイミングというか、つい、声を掛けそびれてしまって、ここまで付いてきてしまったんです……すみません」
「べ、別に謝ることじゃないよ、ただ、ちょっと驚いただけで……」
「ジョーンくん、そろそろおっちゃんもまぜてくれん?」
「あ、ごめん! えっと、丸井くん、俺の叔父さん」
「どうも、私がタケオおじさんです、違うかー!w」
「「……」」
「若い子はほんま残酷やわ……。ムスッとしとったら感じ悪いゆうて、頑張って明るうしたらすぐヒキよるし……」
「ご、ごめん叔父さん、わざとじゃなくて……」
「僕も、どう反応していいかわからなかっただけなんで……」
「ええよええよ、余計傷つくけん言わんといて」
俺と丸井くんが「うっ」と後ずさる。
機転を利かせた丸井くんが話を変えた。
「え、えっと、ジョーンさんが来るなんて、このダンジョンに何かあったんですか?」
「ああ、叔父さんが手放そうか悩んでるみたいで……その相談に乗ってたんだよ」
「へぇ……でも、見た感じ、ここ営業はしてないですよね?」
「してないで。ここはおっちゃんの趣味のダンジョンやけんな。虫しかおらんし」
「虫……?」
「そうそう、ここ虫系モンスしか出ないんだって」
「ええっ⁉」
丸井くんが目を大きく見開く。
「広さってどのくらいです?」
「あー、二階層やけん、こんまいわ」
「二階層……」
「見た方が早いやろ、丸井くんも見る?」
「いいんですかっ⁉」
「ええで、ジョーンくんのツレやしな、ほんなら、時間も勿体ないし、行こか?」
「やった!」
丸井くんがグッと拳を握る。
「そんなええもんちゃうで? がっかりせんといてな」
そう言って、叔父さんが扉を開けた。
ギギギギギ……。
中は真っ暗だ。
これは……洞窟タイプか?
待てよ? デバイスとかちゃんと設置してるんだろうか?
なんかわけわからんとか言ってた気が……。
となると、そのまま入るのはマズいんじゃ⁉
「お、叔父さん、デバイス入ってるよね……?」
「ん? ちょっと待ってな、いま電気つけるけん」
叔父さんは暗闇の中でごそごそと何かを探している。
「お、あったあった。ほいっ」
パッと中が明るくなる。
「へぇ、これ、電気引いてるんですか?」
丸井くんが天井からぶら下がった裸電球を見上げながら言う。
「そうそう、ここはまだダンジョンちゃうから。その奥がダンジョンやけん」
叔父さんが奥にある木の板?のようなものを指さした。
「まあ、ここは道具とか餌とか倉庫みたいなもんやな、ジョーンくん、これ、デバイスってやつ」
「あ、はい、ちょっと見せてくださいね……」
シイタケとか育てるような原木がたくさん転がっていて、その隙間からデバイスが見えていた。
指先で埃を取り、型番をチェックする。
「えっと……お、700Cか、意外と新しいな」
「ここ買うた時に協会の人が付けてくれたんよ」と、後ろから覗き込みながら叔父さんが言う。
「あーなるほど、開業してないとCLOSEとメンテモードのみなのか」
今の設定はCLOSEになっている。
でも、虫系はCLOSEでも襲ってくるのがいるからなぁ……。
「ていうか、叔父さんどうやって中に入ってるんです?」
「ああ、これこれ」
叔父さんは防刃手袋とアメフトのヘルメット、剣道の胴を持ってきた。
「こ、これで……?」と、丸井くんが嘘だろって顔で叔父さんを見る。
「うん、おっちゃん、危ない時は逃げるしな」
「と、とりあえず、デバイスが使えるから装備だせるよ」
「良かった、じゃあ僕のもお願いしていいですか?」
「うん、IDある?」
「あ、はい」
丸井くんからIDを受け取り、デバイスに読み込む。
アイテムボックスが表示され、丸井くんに装備を選んでもらう。
「虫系だけなら、身軽な方がいいですよね……これと、これにします」
丸井くんは、
・シャイニーロッド+60
・ウミガメのよろい+20
を選んだ。
「へぇ、シャイニーロッドか、懐かしいなぁ」
シャイニーロッドはその名の通り輝く。
でかいサイリウムだと思ってくれれば良いだろう。
ウミガメのよろいは結構レアだな……。
「たぶん、中が暗いと思って……役に立つかと」
「なるほどなるほど」
俺が頷いていると、叔父さんが何か言いたそうにモジモジしている。
「叔父さん?」
「あ……うん、それな、たぶん……めっちゃ虫寄ってくるで」
「「えっ⁉」」
「そんな驚かんでも……明るいもんに寄ってくるんは基本中の基本やろ?」
「たしかにそうかも……」
「こ、これは駄目でしたね、ちょっと変えます!」
丸井くんは再びアイテムボックスから武器を選び直した。
・大金槌+510
「おぉ~、だいぶ育ててるねぇ!」
「あ、はい。最初の方に使ってたやつなんで、愛着があるというか……」
照れくさそうに大金槌を撫でる丸井くん。
「よし、じゃあ俺はいつもので……」
・ルシール改+319
・ダイバースーツ+188
「準備終わった?」
「はい、お待たせしました」
「じゃあ、付いてきて。ちょっと暗いけん、足元気ぃつけてな」
「了解です」
俺と丸井くんは互いに頷き、叔父さんの後に続いた。
ありがとうございます!





