ジョーン開眼
〈PLAYER:suzune benikoya/john dan〉
俺と紅小谷、そしてラキモンは校内の放送室へ向かった。
「何か急に出てきたりしないわよね……」
紅小谷は終始警戒モードだ。
それに比べてラキモンはどこ吹く風、楽しそうに跳ねている。
『ぴょっ、ぴょっ、ぴょっ』
「ラキモン、頼むから勝手にどっか消えないでくれよ?」
『ラキ~?』
「ほら、D&Mに戻ったらたっぷり瘴気香あげるからさ」
『ほんとラキね? ダンちゃん言ったラキよ……』
ジロリと俺を見据えるラキモン。
「心配しなくてもあげるから……」
悪い顔してんなぁ……。
それにしても、ラキモンって不思議なやつだよな。
ダンクロ笹塚店時代も懐いてくれてたけど、こんなに話すようになるなんて思わなかった。
まあ、ラキモンと意思疎通してる時点でおかしな話なんだが……。
やっぱり、他のラキモンとは違うユニーク的な個体なのかな。
考えても答えは出ないだろうし、俺はラキモンがいれば楽しい。
それで十分かな。
「ほんと、なーんでジョンジョンに懐いてんのかしらね」
紅小谷が不思議そうに言う。
「そりゃあ人徳だろ? ラキモンには、俺のダンジョン愛がわかるんだよ」
「それ、あんまり他の人に言わないでね?」
「なっ⁉ ど、どういう意味だよ!」
「どうもこうも、そういう意味よ。ほら、着いたわ」
目の前に『放送室』と書かれた部屋がある。
「おっ! 入ってみよう」
俺はゆっくり扉を開け、隙間から覗いて、リビングデッドがいないことを確認した。
「大丈夫みたいだな」
狭い部屋の中には大きめのコンソール、いわゆるPA卓があり、奥には録音ブースが見える。
「へぇ、意外と本格的なのね」
『ラキィ~』
ラキモンがPA卓の上に飛び乗る。
「あ、こらこら、そこはダメだって」
『なんでラキ?』
「変なところ触ると壊れちゃうかもだろ? 調べるから降りて」
『ラ゛~……』
あからさまに不満げなラキモンがぴょんっと卓から降りた。
まあ、今は仕方ない。後で機嫌を取ろう。
「見て、電源が入るわ。これ生きてんじゃない?」
紅小谷が卓の電源ランプを指さす。
「ほんとだ……えっと、どうやって音流すんだ?」
「は? 知らないで言ってたの⁉」
「いや、見ればわかるかなぁーって……」
「ったく、私がいなきゃ詰んでたじゃない、もう!」
「へへへ……紅小谷こういうの詳しそうだもんな?」
「ちょっと黙ってて」
「はい……」
むぅ……気まずい。
だが、ここは適材適所、俺にできることで挽回しよう。うん。
「うん、これなら大丈夫。どうする? 放送するのは良いけど、その後の計画を立てないと……」
「そうだな、よし! 放送後、すぐに一階へ降りる。リビングデッドが校内に入っていくのを隠れてやりすごし、波が途切れたら一気にMAPの場所まで走る。どう?」
「……わかったわ」
俺と紅小谷は互いに頷き合った。
「ラキモン、アイテムボックスに入ってくれるか?」
『いやラキ』と、ぷいっと顔を背ける。
「即答かよ……」
「ちゃんとお礼するからさー」
『ラキ、ラキ~』
完全に俺を無視してその辺の機材を触っている。
駄目だ、もう抱えていくしかない。
「いいよ、紅小谷。抱えていくから」
「大丈夫? まあ、いつまでもここにいるわけにもいかないしね……OK、じゃあ行くわよ?」
「ああ、頼む――」
紅小谷がフェードスイッチを上に上げる。
すると、校内に音楽が流れ始めた。
何の曲かはわからないが、妙に軽快なポップミュージックだった。
「なあ、紅小谷、これ何の曲だろう?」
「たわけーーーーっ! そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが! 行くわよ!」
「お、おう!」
『うぴょっ⁉』
俺はラキモンを抱えて紅小谷の後を追った。
階段を駆け下りる。
は、早い! 身軽だとは思っていたが、まるでパルクールみたいな身のこなしで紅小谷が階段を駆け下りていく。
「うおおおおーーーっ!」
頭の上にラキモンを乗せ、必死に遅れまいと走った。
「ひぃいい……! はあ、はあ……!」
やっと一階へ着くと、紅小谷が校舎の影に身を隠した。
その後ろに俺も身を隠す。
「見て、集まってきてる……」
そっと覗くと、どこから湧いて出たのか、大量のリビングデッドが押し寄せていた。
「すげぇ数……こりゃ見つかったら死ぬな……」
息を殺して様子を見守っていると、ラキモンがもぞもぞと動き始める。
「ちょ、ラキモン、もうちょっとだけ我慢してくれって……!」
『……ラ~ッ!』
ぴょんっと俺の腕の中から飛び出す。
「ちょ⁉」
「えっ⁉」
『ラァ~~~~キィ~~~~~ッ!!!』
「ばっ……馬鹿!」
俺はラキモンの口を塞ぐ。
だが、時すでに遅し……。
リビングデッドが俺達を補足した。
『『『オォォオオオオオオ……』』』
「ひっ……」
「あわわわ……」
マズい! と、とにかく突破口を開くしかないっ!
「紅小谷! 援護頼んだ!」
「ちょ……ジョンジョン!」
俺はルシール改を握り絞め、「シャッ」と気合いを入れる。
あれだけ筋トレしてんだ……何とかなんだろ!
「うぉおおおおおおーーーーーー!!!」
一番数が少ない場所! あそこかっ!
校門ではなく、登って越えられそうな壁に目を付ける。
越えた先は丁度、大通りへと続く細道だ。
「紅小谷! あの壁を越えよう!」
「わかったわ!」
「オラァッ!」
「邪魔よ!」
二人でリビングデッドを蹴散らしながら、壁に向かって突き進む。
クソッ……! キリがねぇ……でも、やるしかないっ!
矢鱈さんは基本が大事だと言っていた。
今の俺にできるのは基本しかないんだっ!
「基本だぁ! 基本、基本、基本ーーーっ!!」
肘の角度! 力の抜き方ぁ! 足の位置ぃ!
――シュッ!
「で、出来た⁉ え⁉ 出来たんだがっ⁉」
「ジョンジョン! 早く!」
そうこうしている間にも、リビングデッドは増えていく。
「すまん、でも……何かわかった気がする!」
――シュッ!
紅小谷を囲んでいたリビングデッドを粉砕した。
「ジョンジョン……や、やるじゃないっ⁉」
「任せろ! 何か掴んだ!」
――シュッ!
――シュッ!
――シュッ!
おぉ! これは……開眼では⁉
体が軽い……だが、攻撃力は上がっている……。
やはり基本! 基本しかないんだっ!
――シュッ!
「よしっ! 先に行け!」
壁まで来て紅小谷を先に押し上げた。
『ラ゛キ゛~……』
「ごめん! ホントマジで我慢してくれっ!」
嫌がるラキモンのお尻を押して塀の向こうへ押し上げ、俺もその後を追う。
リビングデッド達は、音楽に吸い寄せられるように校内に戻っていった。
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