草原の先
〈PLAYER:hana hirako/amenoma〉
あめのまさんが神使聖鐘を使い、自分よりも背の高い草をかき分けながら草原を突き進んでいく。
途中、リビングデッドが襲ってくるが、飛びかかって来た瞬間、あめのまさんの神使聖鐘に弾き飛ばされていく。
まるで砕氷船だわ……。
私はその後ろから少し距離を取りながら着いていく。
周囲に気を配り、回復薬の準備も万全だ。
途中、後ろを振り返る。
自分達が進んで来た道はすでに消え、緑の闇が広がっている。
草で視界が遮られただけで、こんなにも心理的な効果があるなんて……。
そうだ! これが終わったらジョーンさんに共有してみよう。
私には思いもつかないような面白いイベントやアイデアを考えてくれるかも……。
ジョーンさんはいつも私の予想を超えてくるから。
「何かあるぞ!」
先の方であめのまさんが立ち止まっているのが見える。
向かっていくと、段々と草の背が低くなり視界が開けてきた。
「車……?」
あめのまさんの隣に立ち、タイヤの無い車の残骸を見つめる。
辺りは草もまばらになり、土の地肌が見えている。
荒廃した土地?
先の方に何か影が見えるが、砂埃でよく見えない。
「廃車か……なんでこんなところに?」
「さあ、何か意味があるんでしょうか……」
「草原は抜けたようだが…」
その時、風が落ち着いたのか、先の方の視界が晴れる。
「あれは……街か?」
「ビルに見えますね……」
「上手く行ったようだな、このまま街まで行ってみようか」
「ええ、そうしましょう」
二人で街に向かって歩き始める。
リビングデッドの気配は無い。
あれだけいたのに……変だわ。
草原の方に集中してるのかしら……。
警戒しながらも、順調に足を進める。
丁度、半分くらい進んだところで、妙な気配を感じた。
「あめのまさん……」
「ああ、わかってる。地鳴りだな……」
ゴゴゴ……
あめのまさんは地面に手を当てた。
「近づいている! 花さんっ! 何か来るぞ‼」
「――⁉」
身構えた瞬間、私とあめのまさんの周囲を取り囲むように、地面からモンスが飛び出してきた。
『ウシャアァッ――!』
『ギギッ、ギギギ!』
『ギャッギャッ! ギャギャッ!』
尖った耳、鋭い爪、白濁した眼、土色の肌。
朽ちた体にはそれぞれ欠損箇所がある。
「あめのまさん! つ……土エルフです!」
「土エルフ……珍しいな」
土エルフはエルフの集落跡などに出現するアンデッド系のモンスだ。
エルフのリポップの残滓が発生に影響しているという説がある。
攻撃力はさほど高くはないが、火と打撃に耐性がある。
「はいっ! これはとても貴重な経験ですねっ!」
「ハハッ、まったく……花さんには驚かされるよ」
「えっ……」
「いや、それも花さんの素敵なところさ。少なくとも俺にとってはね」
「もうっ! か、からかわないでくださいよ!」
あめのまさんは笑って、「さあて、ここは良いところを見せないとな」と神使聖鐘を肩に乗せ、腰を落とした。
『シャアアッ!!』
「まずは一体! ふんっ!」
ドッ! というまるで土粘土を殴ったような音が響く。
『グギャッ⁉』
土エルフが半分くらい押し潰される。
そして、ズサッと土塊に還った。
「よし、行けるな。やはり打撃耐性は聖属性でカバーできるようだ」
「やっぱりご存知だったんですね?」
「まあ、これでも一応ダンジョン経営者なんでね」と、あめのさんが冗談ぽく返す。
『ギャッギャッ! ギャギャーーッ!』
『シャアア!!』
土エルフ達が牙を剥いて威嚇してくる。
「あと、5体……まとめて片付ける!」
あめのまさんが土エルフに向かって神使聖鐘を振りかぶった。
「――聖撃十三点鐘!」
凄まじい速さで、土エルフ達を叩き潰していく。
神使聖鐘が土エルフを殴る度に、火花の散ったようなエフェクトが発生した。
「すごい……!」
「はははっ! この効果いいねぇ! あがるっ!」
まるで格闘ゲームみたい。
改めてオネイロスの可能性を感じる。やはりこのシステムは使い方次第。
だからこそ、大手や個人関係なく勝負ができる……!
ふと、遭遇したモンスのアルバムのような……コレクションブックがあれば良いなぁと思いつく。うーん、実現できるのかな?
これも終わったらジョーンさんに聞いてみよう。
「ラストぉ! おりゃぁ!」
『ガギャァッ!!!』
あめのまさんが最後の一体を倒す。
「やったぁ! すごいですね!」
「ありがと、いやぁ、色々と勉強になるよ。ウチはまだオネイロスのような次世代ARには手を出してなくてね。これは本気で導入を考えないとなぁ……」
「可能性が広がりますよね」
『――PLAYER:amenomaがボーナスモンスをキルしました! モンスポイント+18をゲットしました』
「へぇ、ボーナスモンスだったのか」
「このモンスポイントも気になりますよね……」
『――PLAYER:dankurou shibusawaが100体目のリビングデッドを討伐しました。PLAYER:dankurou shibusawaには、ファーストボーナス+10が加算されます』
「へぇ、あの爺さん、やっぱ只者じゃないな」
あめのまさんが苦笑いを浮かべる。
「迫力はありましたけど、戦う姿は想像できないです……」
「まあ、渋沢団九郎といえば、昔は相当なダイバーだったらしいからね」
あの優しそうなお爺ちゃんが……。
どんな風に戦うのか想像ができない。
「よしっ、俺達も負けてられないな、先を急ごう」
「はいっ!」
私はあめのまさんと街へ向かう。
早く紅小谷さんとジョーンさんに会えるといいな……。
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