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夜更かしをしてしまいました。

「ふわぁ~」

 眠気が取れない。

 昨日は夜更かしして、溜まっていたアニメをひたすら見てしまったのだ。

 自分が悪いので、仕方ないのだが……。

 それにしても、眠い。

 カウンター岩にもたれかかった。


 そうだ、珈琲でも飲むかな。

「あれ? ストックが……」

 むぅ、豆が切れている。

 コンビニに行くのもかったるいしなぁ……。


 ――ピコーン!

 その時、俺はある人気動画配信者の存在を思い出す。

 ダンジョンに生息する植物から、飲み物や薬を作って自らが実験台になるというコンセプトの元、様々な実験を繰り返し、一時は入院までしていた人気配信ダイバー、ノムノム・クールJだ。


 スマホで動画のリストを検索する。

「うわ、色々やってるなぁ~」

 ずらっと並ぶリストには『オ・ト・ギ・リ・ソウ、飲んでみた!』『吸血草で血液サラサラ!?』『歯痛にはこれだ!』など膨大な量の動画がアップされている。

 

 その中で『眠気を打ち砕く! カプラモヒートの作り方』を選んで視聴することに。

 動画によると、カプラの実を粉にして、ハッカーナの葉を二枚、それを炭酸で割るだけの簡単レシピ。

「うん、これならすぐ作れそうだな」

 確かアイテムボックスに両方あったはず。

 炭酸水がないので、やむを得ず水で作ることにした。


 デバイスから俺のアイテムボックスを見る。おお、あった!

 材料を取り出して、珈琲ミルを使って真っ赤なカプラの実を粉にする。

 カプラとは、密林系フロアに良く自生するポピュラーな植物。

 この赤い実を好物とするモンスも多い。


 ハッカーナは岩の隙間に生える、シソによく似た植物だ。

 これを触った後に顔をこすると、大変な事になるので注意しなくてはならない。

 二階の岩に生えていたものを二枚頂く。


 さて、グラスに引き終わった赤い粉と、ちぎったハッカーナの葉を入れ水を注ぐ。

 そして、よくかき混ぜる。

「うわっ、凄い臭いだな」

 鼻の奥がツーンとする。大丈夫なのだろうか?

 ……よしっ!

 俺は一気にカプラモヒートを飲み干した。

 ん? なんかスパイシーな感じで飲みやすいかも?

 

 お?


 おお? な、なんだこれ?

 

 ぐるぐると景色が回る。

 あ、あれ?


 ――俺は意識を失った。



 う、うう……。

 気付くと俺は、薄暗い部屋に倒れていた。

 頬に張り付いた砂を払い、上半身を起こすと身体が冷え切っていた。

「ここは……」

 どこからか聞こえる、水滴の音。

 立ち上がろうとして、足に違和感を覚えた。

「え?」

 見ると、足首には鉄枷がはめられており、太い鎖で壁に繋がれている。

「ちょ!! マジで?」

 鎖が床に擦れて重い音を鳴らす。

 こ、これって……。慌てて辺りを見回す。

 奥に扉が一つ、あとは何も無い、廃墟のような部屋だ。

 ふと、天井の隅に小さな赤い点を見つけた。

「カ、カメラ?」

 すると、突然壁一面にフィルム投影機の様な映像が流れる。

 派手な音楽が流れ、ラキモンの姿が映った。

 俺は目を疑う。ラキモンの身体が黄色ではなく黒色だ……。


『よく来たラキ……。お前の命はこのオレ様が預かってるラキよ……』


「お、おい! どうしちゃったんだよ!? 俺だって、ジョーンだ!」


『ジョーン? 知らんラキなぁ……ラッラッラ。さあ、これからお前にはゲームに参加して貰うラキよ……』

 極悪な感じを全面に出してくるブラックラキモン。


「ちょ、お前何か変な映画の見すぎじゃね? しっかりしろよ! あ、瘴気香あるぞ!」


『ぐふふラキ。瘴気香はお前の処分が終わってから、ゆっくり頂くとするラキよ……。さあ、ゲームの始まりラキ! カモンラキよ! 疾風の戦士、スパイラルモモンガ!』

 ブラックラキモンがそう叫ぶと、奥の扉が開き、スパイラルモモンガが飛び込んできた。


『地獄の門は開いたラキ! お前は100のモンスと戦って勝ち抜く以外に生きる道はないラキよ!』

「ちょっと待ってくれよ! 何がなんだか……」

 そう言うと、空中から俺のルシールがカランカランと大きな音を立てて落ちた。

『けけけラキ。 さあ武器を取り、戦うがいいラキ!』


 ブラックラキモンの言葉と同時にスパイラルモモンガが回転して襲ってくる。

 俺は慌てて身を伏せて、ルシールを握る。


「くそっ、何がなんだか……」


 足枷があって動ける範囲は狭い。

 スパイラルモモンガの攻撃は直線的で単調。

 どうする? 次に襲って来たところを狙うか?

 俺は身構えて、次の攻撃に備える。


「キュキュキュキュッ! キュキュキュキュッ!」

 威嚇音を発しながらスパイラルモモンガが再び襲って来た!

「なめるなよ!」

 素早く避け、体勢を治そうとするスパイラルモモンガにルシールを叩き込む!

「ピギィッ!」

 その瞬間、スパイラルモモンガは霧散し姿を消した。

「はあ、はあ……」

 ふぅ、この程度でやられる俺じゃないぞ。


『さあ、まだ始まったばかりラキ……。これならどうラキ? いでよ、荒ぶる戦士、ジャイアントオーク!』

「ブギョオオオオ!!!」

 涎を撒き散らしながらジャイアントオークが現れる。

 不味い、ヒットアンドアウェイが使えない今、殴り勝つしかないが……。

「ブギィッ!!」

 Gオークが太い棍棒を振り下ろす。

 咄嗟にルシールで受け止めてしまった!

 ぐ……力負けする……。

 俺は身体をねじり、棍棒を逃がす。

 そして、Gオークのこめかみをフルスイングで叩く!

「オラオラオラ!」

 怯んだGオークの頭部を集中的に狙いダメージを与える。

「ブギョォォォ!!」

 断末魔をあげ、Gオークが霧散した。


「ぜぇ、ぜぇ……」

 やばい、スタミナが……。

 息を整えていると、拍手が聞こえた。

『パチ、パチ、パチ……。これで二体目ラキ、残りは九十八体ラキよぉ? いつまで持つラキかなぁ……?』

「もうやめろ! 何がしたいんだ!? ヤメてくれ!」

『さあ、ダンちゃん踊りましょうラキ……。宴はこれからラキよぉ……』

「やめてくれーーーーー!!!」


 …………。


 ……。


「ジョーンくん、ジョーンくん!!」

「あ、あれ……矢鱈さん?」

 目を開けると矢鱈さんの白い歯が見えた。

「ああ、良かった。びっくりしたよ。何があったんだい?」

 身体を起こし、周りを見る。

 いつものダンジョンだ。

「……痛っ」

 頭を抑えながら

「えっと、あれ? 何をしてたんだっけ?」

 矢鱈さんが空いたグラスを持って

「これ、落ちてたけど……。何か変な物飲んだ?」

 ――記憶が繋がる。

「あ! そうだ! 確かカプラモヒートを作って……」

「カプラモヒート?」

「そうなんです、珈琲が無かったんで、眠気覚ましに飲んでみようと」

 矢鱈さんは不思議そうに

「カプラモヒートで倒れるなんて、変だな」と首を傾げる。

 確かに変だ。

 俺は、立ち上がって

「えーと、カプラの実の粉末と、ハッカーナの葉、うーん変なものは入れてないんですが……」

「ちょっと見せて」

 矢鱈さんが指先で粉末をつまんで、匂いを嗅ぐ。次にハッカーナの葉を見て

「ジョ、ジョーンくん! これハッカーナじゃないよ! マジックミント! ほら、ここの葉脈見て」

「え!?」

 慌てて確認すると、確かに葉脈が左右対象になっている。(ハッカーナは非対称)

「ちゃんと確認しないと危ないよ?」

 まさか初心者本にも載ってる要注意植物を混ぜてしまうとは……。

「す、すみません……」

 眠かったとは言え、初歩的ミスだ。

 うう、俺としたことが……。


「まあ、無事で何よりだけど、今は大丈夫? 目回ったりしてない?」

 指を俺の目の前で動かしながら言う。

 俺は頷いて

「はい、少し頭が痛いぐらいで……」と答えた。

「マジックミントは強烈な幻夢作用があるからね、効果は短いけど」

「はい、何か恐ろしい夢を見た気がします……」

 うーん、思い出せないが……。

「あ! 他のお客さんは来てなかったですか?」

「僕が来たときには誰もいなかったよ」

 その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。

「よかった……」

 突然、店主が倒れてたらびっくりさせてしまう。

 あー、気をつけないと。


「すみません、もう大丈夫です。あ、矢鱈さん潜っていきますか?」

「うん、そうだね、じゃあ少しだけ行ってくるよ。ホントに大丈夫?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 俺は元気に答えた後、矢鱈さんの受付を済ませて

「いってらっしゃい」と見送った。


 しかし、ヤバかった。

 俺はカウンター岩を拭きながら、何か壊れたものはないかチェックをする。

 うん、問題はなさそうだな。

 念の為、デバイスもチェック。

 異常な……え?

 矢鱈さんの場所を示す点が見えない。

 あれ?

 ビューで各フロアを見るが、その姿はない。

「え……どういうこと……」


「こんにちは」

 ――ひっ!

 振り向くと、矢鱈さんの姿。

「な!?」

「どうしたの?」

 矢鱈さんは白い歯を輝かせて笑う。


「だ、だ、だって、矢鱈さん、いま……」

「僕はここにいるけど?」

 そうだ、確かに……。

「は、はいそれは……そうですよね……」

 どういうこと!? あれは誰!?

 目線を泳がせながら考えた後、矢鱈さんを見ると


『ははーん、さては夢から覚めたと思ったラキね……?』


 矢鱈さんの顔がブラックラキモンに変わっていた!


「うぎゃああぁぁぁああああ!!!!」

「ああ………!!」

「……!」



「ん? また夢?」

 起き上がると、いつものダンジョン。 

 グラスが側に転がっている。

「おいおいおい……俺どうなっちゃってんだよ……」

 慌ててハッカーナの葉を調べる。

 葉脈が左右対象、ってことは、マジックミントなのは間違いない。

 他にも、カウンター岩周り、身体、デバイスに異変がないかチェックする。

 それにしても、これがまた夢かも知れないと思うと落ち着かない。


 少し表に出てみる。

 変わった様子はなく、時間も一時間程しかたっていない……。

 俺はもう、現実に戻っているのだろうか?

 辺りを見廻した後、中へ戻る。

 マジックミントの効果は短いとはいえ、念のために、デバイスのアイテムボックスから、中和薬を取り出して飲んだ。

「ぷはーっ」

 これで大丈夫だと思うが……。


 結局、それから変な事は起こらなかった。

 滞りなく営業を終えた後、片付けをして家路につく。

 帰り道、俺は二度と夜更かしなどするものかと、丸い月に誓うのであった。



 所持DP   229,882

 来客 9人    4,500

 石鹸 2個      200

 計      234,582

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